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2022.03.31

グローバルヘルスR&Dの課題と未来を語る

日本発の国際的な官民ファンドである公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund。以下GHIT)がグローバルヘルスの課題解決やSDGsの実現に向けてどのような役割を担い、活動しているのかを、感染症の新薬開発に取り組む専門家との対話を通じて紹介する本連載。

第4回目となる今回は、研究者としてアメリカ国立衛生研究所(NIH)でウイルス様粒子(VLP)を用いたチクングンヤ熱ワクチンの研究・開発を手掛けたのち、VLPセラピューティクスを立ち上げマラリアやデング熱、癌、新型コロナウイルス感染症のワクチン開発に取り組む赤畑渉に、グローバルヘルスにおけるR&Dの課題と未来の展望を聞いた。


小山恵理子(以下、小山):赤畑先生は長年、多くの命が失われている病の根絶を目指してワクチンの研究・開発を手がけてこられました。モチベーションの源泉はどこにあるのでしょうか。

赤畑渉(以下、赤畑):個人的な経験に基づくモチベーションと、科学の面白さによるモチベーションの2つがあります。

個人的なモチベーションからお話しすると、NIHで研究を始めた頃、私には仲のいいインド出身の同僚がいました。友人として、お互いの実家を行き来するほど親しくしていたのですが、彼が30代半ばで癌になったのです。

最期を迎える直前、彼に会うためにシカゴの病院に行きました。そのときの彼は、抗がん剤治療の副作用もあって別人のように痩せていました。そして、見舞いに来た私に「友だちになってくれてありがとう」と言った数日後、彼は他界しました。そのとき、副作用が少ない癌の治療ワクチンを作ると決めたのがモチベーションの源泉の一つです。

もう一つは科学に対する好奇心です。2009年にVLPを使ったチクングンヤ熱ワクチンを開発したとき、その粒子はシンメトリックでとても美しいものでした。センス・オブ・ワンダーという言葉がありますが、粒子が持つ不思議な魅力に驚嘆したのです。研究を通じて得られるこの感覚や、新しいものを探すことの面白さもモチベーションにつながっています。

小山:そもそも、感染症に興味をもたれたきっかけは何だったのですか。

赤畑:大学時代に、京都大学ウイルス研究所の速水正憲教授に出会ったことです。初めて研究所を訪れたとき、進路に迷っていた私に速水教授が「人を助けることにつながる研究をするのがいいのではないか」とおっしゃいました。その言葉にとても納得しましたし、研究を通じて人の役に立てるワクチン研究に興味を持ちました。

そこから速水教授のもとで5年間、VLPを使ったHIVワクチンの開発に携わりました。そして大学院の博士課程を修了した02年にNIHのワクチン研究センターに入りました。

キャリアの転機になったのは、05年から感染爆発が起きていたチクングンヤ熱のワクチン開発・研究を担ったことです。当時、チクングンヤウイルスには、遺伝子が異なる株が約250種類報告されていました。その中から試しに2つ選んでVLPを作ってみたところ、うち1つがたまたまVLP化に適した遺伝子を持っていて、粒子を作ることができたのです。

小山:チクングンヤ熱ワクチンの研究成果は10年に米科学誌『Nature Medicine』で報告され、VLPが表紙になるという偉業も成し遂げられました。12年にはNIHの最高賞であるDirector’s Awardも受賞されています。VLPを使った革新的な基盤技術は、赤畑先生のその後のワクチン研究や開発にどのような可能性を切り拓いたのでしょうか。

赤畑:開発の初期段階で成功したことは、私のなかで「他のワクチン開発もやればできるのではないか」という大きな自信につながりました。

NIHで実験したところ、チクングンヤウイルスのVLPの作り方を応用して、東部ウマ脳炎、西部ウマ脳炎、ベネズエラウマ脳炎の3つの感染症にも効果を発揮するVLPワクチンを作ることができることがわかり、これらは臨床試験に進みました。そこからVLPを使ったマラリアやデング熱、癌のワクチン研究・開発へと、今につながっていったのです。



小山:NIHで素晴らしい功績を残された赤畑先生ですが、13年に独立してVLPセラピューティクスを設立されました。なぜ、アメリカで起業するという道を選んだのですか。

赤畑:実は、当初はベンチャー企業を立ち上げようとはまったく思っていませんでした。研究者として大学に勤務する予定でしたし、就職先も既に決まっていました。

そんななか、たまたま医薬発明家の上野隆司先生と久能祐子先生にお会いしたのです。お二人はアメリカでスキャンポ・ファーマシューティカルズという医薬ベンチャーを立ち上げてNASDAQに上場させ、日本とアメリカで開発した2つの新薬の売上高は1兆円を超えるという華々しい実績を挙げておられます。そのお二人から「赤畑先生の研究は面白いから起業してはどうか」と言っていただき、そのような道があることを初めて知りました。

とはいえ起業には大きなリスクが伴いますし、当時は怖さも感じていたので、大学の仕事とベンチャー経営者を両立する方向で検討を進めました。しかし、ベンチャー企業のアドバイザーをしている方から「ベンチャーは120%の力を注いでもほとんど失敗する」と言われて、やるなら全力で取り組むべきだと思い直しました。そこで大学勤務の道を断ち、上野先生、久能先生、特許関連を扱うメンバー、弁護士と私の5人でVLPセラピューティクスを創業しました。

起業してから9年になりますが、その間、ベンチャーの難しさを感じることも数多くありました。資金が底を尽きそうになったこともあります。それでも粘り強くやっていれば誰かがサポートしてくれる、会社も技術も未来は明るいと信じて研究・開発を続けてきました。

小山:バイオテクノロジーは開発に時間がかかり利益がすぐには出ない分野だからこそ、理解のある人に出会うことも重要ですよね。GHITは2016年と2018年に、VLPセラピューティクスによるVLPを用いたデング熱のワクチン研究・開発に合計約5億4千万円を投資しました。研究者として、GHITをどのように捉えていますか。

赤畑:GHITは研究者をサポートする体制はもちろん、サポートしてくださる方々の熱意が素晴らしいです。

研究者にとって、親身になって相談に乗ってくださる方々の存在はとても重要です。GHITは、国連がSDGs(持続可能な開発目標)を掲げる前から感染症、特にNTDs(顧みられない熱帯病)の問題に取り組んできた団体です。途上国のために医薬品を作りたいと本気で思いながら研究者と真剣に向き合ってくれます。

また、GHITの皆さんは「困っている人たちを助けたい」というモチベーションを軸に、合理的に物事を進めていく力をお持ちです。人材リソースはGHITが最も誇るべき点の一つだと私は思います。デング熱のワクチン開発に成功した暁には、GHITの支援のおかげだと声を大にして言いたいです。

小山:研究者とともに歩む姿勢は今後も大切にしていきたいと思っています。GHITは、日本と海外のパートナーが協業することでオープンイノベーションを推進していくことを条件にしています。そのことについてはどう思われますか。



赤畑:研究・開発は海外と連携して取り組むのが当然だと思いますし、それが当たり前になるべきだというのが私の考えです。海外のパートナーと協業することをルールに据えているGHITの姿勢はとても正しいと思いますし、私の思いとも合致しています。

小山:最後に、次世代を担う若者や日本の若手研究者にメッセージをお願いします。

赤畑:神様は至るところにいるという「八百万の神」の発想もそうですが、日本人には昔から「人間は自然界の中の一部である」という感覚が備わっています。この感覚はSDGsの根底にも通じるものです。このような感性を持つ日本人には、世界の人たちのために医薬品を開発したり、人や社会の役に立つことに取り組んだりすることがとても向いていると私は思います。

若い人たちには、人のために役に立ちたいと胸を張って言えるようになってほしいです。『21世紀に生きる君たちへ』という随筆のなかで司馬遼太郎さんも言っていましたが、魅力的な人間になるためには人の気持ちがわかるようになることが大切であり、その人の気持ちがわかるようになるには訓練が必要です。

いろいろな人の立場や気持ちがわかる。それによって自分というものや個性が見えてくる。あなたの個性を伸ばしなさいと言われるとどうすればいいかわからなくなりますが、人の気持ちをわかるようになる、少なくともわかるように努めることならできます。それは多様性を認めることでもあり、結果的に自己を確立することになるのです。ある意味において、自分とは、そのオリジナルな個性が絶対的に自分の中にあるのではなく、社会の相対であり、自己とは相対論の上に成り立つものです。

そして、他者への思いやりを持つことで自己を確立しながら、科学技術を正しく用いることで人の役に立つ。この感覚はSDGsの流れに合ったものであり、これからを生きる私たちに求められる姿勢だと思います。

コロナ禍で世界中の人たちが厳しい状況に置かれるなか、私たちは今まさに、他の人たちのために自分ができることをすることの大切さを実感しています。これからの時代を創る若い人たちにはぜひ、この感覚を持ち続けながら未来を拓いてほしいと願っています。


あかはた・わたる◎VLP Therapeutics, Inc.(本社:米国メリーランド州、以下「VLPT」)Founder & CEO。1973年、広島県生まれ。東京大学教養学部基礎科学科卒業。97年に京都大学大学院人間環境学研究科に入学し、速水正憲教授のもとHIVワクチンの開発に携わる。2002年に博士号を取得したのち、アメリカ国立衛生研究所(NIH)に入所。09年からVLPを使ったチクングンヤ熱のワクチン開発を行い、13年より現職。20年にはVLPTの100%子会社として日本にVLP Therapeutics Japan合同会社(本社:東京都千代田区、以下「VLPTジャパン」)を設立し、代表職務執行者・最高研究開発責任者を務める。VLPTジャパンでは国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)及び厚生労働省の支援の下、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン研究開発を行う。プライベートではランニングと茶道を愉しみ、トライアスロンへの挑戦も考えている。

こやま・えりこ◎GHIT Fund 投資戦略 兼 ビジネスディベロップメント マネージャー。1986年、神奈川県生まれ。幼少期、中学・高校時代をドイツで過ごす。2009年イギリスのブリストル大学修士卒業。2010年に伊藤忠ケミカルフロンティアに入社し、医薬品事業部にてジェネリック医薬品の原薬及び中間製品の輸出入業務や、営業、品質管理対応を経験。バイオベンチャーのジーンテクノサイエンス(現:キッズウェル・バイオ)でのバイオ医薬品開発のプロジェクトマネジメント経験を経て、2020年よりGHIT Fundに参画。投資事業におけるプロジェクト管理及び、パートナーシップの構築等を担う。プライベートでは旅行と散歩を楽しむ。

Promoted by GHIT Fund / text by Hiro Matsukata / photographs by Shuji Goto

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