Forbes BrandVoice!! とは BrandVoiceは、企業や団体のコンテンツマーケティングを行うForbes JAPANの企画広告です。

2022.03.11

産学官が連携して進めるスマートシティ「富山モデル」を全国へ

富山大学学長 齋藤 滋 / 富山市前市長 森 雅志 / イーソリューションズ執行役員副社長・事業本部長Co-COO 稲葉 想

政府の大号令の下、さまざまな都市でスマートシティへの取り組みが進められているが、なかでも「富山モデル」として注目されているのが富山市だ。前市長の森雅志が2018年から進めてきた同市のエコシステムの特徴は、市だけでなく、富山大学や地元企業が主体となって参加する「産学官」の連携にある。

富山市は森のリーダシップの下、早くから都市機能を集約するコンパクトシティを志し、データを重視した街づくりに取り組んできた。そこへ欧州で主流になっている官民連携型のデータ連携基盤「FIWARE」を導入し、民間にインフラを開放した。企業にデータの利活用を促すことで社会課題の解決を図るためだ。

コンパクトシティからスマートシティ、さらにはカーボンニュートラルシティを目指すため、森は企業と大学を巻き込んできた。その取り組みに伴奏してきたのがイーソリューションズだ。これまで多くの日本の地域の「地方創生」をサポートしてきた同社の知見は、富山市のデータ利活用によるまちづくりにおいて強力な推進力となっている。

同社執行役員副社長・事業本部長Co-COOの稲葉想が森と富山大学学長の齋藤滋に、これまでの取り組みと目指すべき未来について話を聞いた。



森 雅志|富山市前市長

企業と市の支援の下、大学がデータサイエンティストを育成


稲葉想(以下、稲葉):どのようなきっかけで富山モデルを構築しようと思われたのでしょうか。

森雅志(以下、):2019年にイーソリューションズの佐々木社長のお誘いで、富山経済同友会の会員企業とともに欧州視察をしたことが大きかったです。スペインのサンタンデールやイギリスのブリストルなどの都市でICTがどう活用されているかを視察しました。

ネット業界にいる人が陥りやすいことですが、「こういうこともできます。ああいうこともできます」と最先端の話ばかりをして、身の丈に合っていないことがよくあります。しかし基礎自治体で大事なのは、地に足をつけ、市民にとってそれがどう役に立つのかを考えることです。視察した都市は、そのことをよく考えて運営されていました。富山市でもぜひ取り組みたいと思い、帰国後、佐々木社長と話をすると、結局私たちがこれまでやってきたことの延長で考えていけばいいということに気が付きました。

稲葉:やってきたことというのは、コンパクトシティに取り組むために導入した座標値のシステムもそのひとつですね。

:個人や事業所には住所がありますが、地図上のどこにあるかを示す座標値はありませんでした。それを10年前に作成したのです。それによって、未就学児や独居老人がどこに集中しているかなどが可視化され、高齢者福祉施策などを考える際に役立てることができました。

稲葉:それだけに止まらず、省電力広域エリア無線通信(LPWA)も導入しています。

:5年前に導入し、全市に張り巡らせたセンサーネットワークが24時間データを取得し、定点観測をしています。例えば標高1,000mのエリアの数十カ所に雨量計を設置し、データを取得しているのもそのひとつです。それを蓄積していくと、例えば40分で雨量が50mmに達した場合、5km下流の小河川の水位が何cm上がるということがわかるようになります。早い段階で予測がつくので、ダムの事前放流などの対策をとることができるようになるのです。

災害だけでなく、市民からもデータをとり施策に生かしています。富山市では65歳以上の人が会員になれるバスカードがあります。途中のバス停で降りる場合は通常料金ですが、中心部の商店街まで乗ると100円で済みます。高齢者の外出を促すのが目的なのですが、本人の同意を得たうえで、バスの使用頻度が医療費にどう影響するかを調査しました。すると、もっとも多く利用した集団ともっとも頻度の低い集団とでは、医療費に約8万円もの差があることがわかりました。こうした調査結果をビッグデータ化し、民間に使っていただく。産学官の連携によって、はじめてデータを有効活用することができるのです。

稲葉:これまでどのように民間を巻き込んでいったのでしょうか。

:もともと富山市は、地元の経済界との距離がすごく近く、お互いに助け合ってきました。富山出身のイーソリューションズの佐々木社長から次世代の街づくりであるスマートシティに関するご提案があった際も、そうした関係性から経済界の人たちはすぐに賛同してくれました。富山大学の齋藤滋学長も産官学の連携を重要視されているおひとりでした。


齋藤 滋|富山大学学長

齋藤滋(以下、齋藤):私はもともと医師であり、研究者でもあります。以前から研究分野では膨大なデータが得られるようになっていましたが、それを処理するのは医師では難しい。データアナリストやデータサイエンティストの必要性を感じ、さまざまな形で数学の先生たちと一緒に研究を進めてきました。そうした経験から、大学がデータサイエンスに携わる人材の教育をしてこなかったということを痛感したのです。せっかく富山市ではこうしたデータを取得できるシステムが整備されているのだから、大学がデータを活用できる人材を育てるべきだと常々考えていました。

欧米の大学は市民に愛されていますし頼りにされ、そこから新たな産業が起きています。日本の大学はあまりに学問だけに偏ってしまい、地域貢献や市民と一緒に立ち上げるという観点が乏しい。その状況を変えていかなければならないと思っていたところ、森前市長から富山モデルのお話をうかがい、データサイエンスの人材が足りないという課題意識で一致しました。そこでデータサイエンス教育を1年生の必修科目として取り入れることを決めました。

稲葉:素晴らしい取り組みです。しかも必修科目だけでなく、企業と富山市の援助による寄附講座も開設されました。どのような授業を行っているのでしょうか。

齋藤:経済学部を中心とする文系の学生、都市デザイン学部の学生、それから大学院生が受講しています。地元の企業さんにも寄付していただき、現在は4つのプロジェクトを動かしています。市が保有している都市データも活用しながら、企業や社会の課題解決に取り組んでいます。新たに3社から問い合わせがあり、寄附講座の輪はどんどん広がろうとしています。

稲葉:まさに産官学による連携ですが、データサイエンスにおける学生の反応の変化はございましたか? また、今後はどのような期待をされていますか。

齋藤:データサイエンス寄附講座開始当初は、データサイエンスを学ぶ意味をよく聞かれましたが、社会がどういった人材を求めているのかや、米国ではデータサイエンティストの急激な需要から高水準の給与をもらえる、と伝えると嬉しがって納得してくれます。データサイエンティストが将来不足する、というデータはイーソリューションズさんから頂いておりました。社会の先を見据えているので、イーソリューションズさんとお話できたことは大きかったです。また、今後は4年間みっちりデータサイエンスの勉強をすることで、地元企業に戦力となる人材を送り込むことができるようになると思いますし、地元だけに止まらず、卒業生が全国、あるいは海外で活躍することを期待しています。

稲葉:企業からの声はいかがでしょうか。

齋藤:寄附講座には意外な効果もありました。寄附をしていただいている企業の社長さんが、講座に社員を送り込んでくるようになったのです。学生や教官と一緒に課題解決を考えることで社員教育になるというのです。さらには優秀な学生をぜひ採用したいという声もいただくようになりました。



産学官の連携でさまざまな社会課題を解決


稲葉:地域には多岐にわたる課題がありますが、森さんは、自治体の運営において何が大事だとお考えですか。

:基礎自治体の経営はあらゆる面で一定の水準を維持していく必要がありますが、私が考える基礎自治体の使命は突き詰めて言うと、市民のシビックプライドを高めていくことです。日本全体で人口が減っているなか、雇用がなければ町に人が集まりません。つまり、事業経営者に「あの町で投資してみよう」「ラインを増設しよう」と思わせなければならないのです。そのためには、富山に異動になった際に、単身赴任ではなく家族で来ていただけるような町にしていく必要があります。路面電車を敷設したのも富山市の魅力を高めるためで、それがシビックプライドにつながるからです。

稲葉:ところで、課題解決のひとつに、カーボンニュートラルがあります。昨年11月に英国で開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)での内閣府の日本プロモーション動画のなかで、富山市の事例が取り上げられていました。これまでどのように取り組んでこられたのでしょうか。

:特にCOP26でご評価いただいたのは、海外での展開です。10年ほど前から、マレーシアやインドネシア、フィリピン、チリ、ブラジルなどの都市でゴミの分別の指導をしてきました。またインドネシアでは、富山の企業が小水力発電のプラントを何基も建設しました。最初のバリ島タバナン県では、知事の女性が突然訪ねてきて、「うちの県には電力グリッドが不十分で電気がない集落があり、脱穀精米ができない」という切実な訴えを聞きました。その課題を解決すべく、小水力発電のプラント建設を支援しました。当時はまだ提唱されていませんでしたが、まさにSDGsに直結することをやってきたのです。

齋藤:カーボンニュートラルに関しては、富山大学でも理学部が地熱発電の開発に取り組んだり、CO2から化学繊維の原料となるパラキシレンを製造する研究をしたりしています。こういった取り組みについても、産官学が連携していくことが大事です。

稲葉:その連携がさまざまな分野に広がろうとしていますが、おふたりは今後に対し、どのような期待をもたれていますか。

齋藤:企業もデータの重要性はわかっているけど、外部にデータ分析を依頼するコストはけっして安くありません。寄附講座に参画し、少しずつ人材を充実させていくことによって、自社でデータ分析をできるレベルまで向上させたいという企業からの声もあります。そういったご要望にも貢献していきたいです。そろそろ寄附講座で取り組んできた研究の有用性を実証していく段階にきていますが、検証がうまくいけば、企業がデータ分析するためのより有効な手段となるでしょう。何か困ったことがあれば富山大学に相談しようという仕組みが構築されることを期待しています。

:いまはまだ蓄積されているデータの解析が始まったばかりですが、富山大学と連携しながらより解析力を高めてほしいです。その次の段階では、データをどうビジネスに生かしていくかです。それを進め、地方都市でつくり上げたビッグデータが国内や世界でビジネスに生かされることを期待しています。


稲葉 想|イーソリューションズ執行役員副社長・事業本部長Co-COO

富山発のスマートシティモデルを他地域に応用


産学官が一枚岩になって富山モデルを推進しているが、これまでの道のりはけっして平坦ではなかった。関わる企業や組織は多く、ベクトルを同じ方向に向かわせることが容易ではなかったのだ。

そうしたなかイーソリューションズが全体像を示し、点と点をつなぐことで富山モデルは前に進んだ。新たな枠組みを構築するためには、時には同社のような外部のコーディネーターが必要なのだ。森も「イーソリューションズはカテゴリーとカテゴリー、あるいは技術と技術をつなぐことに長けている。つなぐことなくして革新はない」と言い切る。

イーソリューションが目指すのは、「地方創生」に対する貢献だ。富山モデルはその足がかりとなる。

「私たちが考える地方創生とは、地域社会に『産業』が生まれ、『雇用』が生まれ、『税収』が増えることだと定義しています。『富山モデル』では、地域社会が儲かるよう、市、大学、企業が主役となったエコシステムをつくり上げているからこそ、他自治体からも高く評価されている。今後は富山市で培われたモデルやノウハウを、他の地域にもご提供し、『●●モデル』を構築するお手伝いを各地で展開していきます」(稲葉)

例えば、富山市のアイペックが展開している社会インフラ事業もそのひとつだ。同社では交通量データを活用した橋梁の負荷分析、老朽化予兆診断など、橋梁メンテンナンスにおける新たな診断事業の構築に取り組んでいる。こうしたサービスを全国の自治体に紹介していくことで、全国の地域課題の解消が効率的に進むとともに、収益が富山に還元されていく。

実際、同社社長の佐々木が札幌市の市政アドバイザーに就任するなど、他都市の同社に対する注目度は高まっている。富山発のスマートシティモデルはいま、全国に広がろうとしている。


イーソリューションズ
http://www.e-solutions.co.jp/

もり・まさし◎富山市前市長。中央大学法学部卒業。司法書士・行政書士事務所開設を経て1995年、富山県議会議員に初当選。2002年に旧富山市長、05年に新富山市長に初当選。21年に退任し、梨農家を営む。

さいとう・しげる◎富山大学学長。奈良医科大学大学院医学研究科修了。奈良県立医科大学産婦人科助教授、富山医科薬科大学(現:富山大学)産科婦人科教授、富山大学附属病院病院長などを経て2019年より現職。

いなば・あい◎イーソリューションズ執行役員副社長・事業本部長Co-COO。中央大学総合政策学部卒業後、イーソリューションズ入社。生活支援、コミュニティ、復興支援、ヘルスケア、感染対策、防災、観光、地方創生など、これまでに多くの社会課題解決の事業プロデュースを手掛けてきた。

Promoted by イーソリューションズ / text by Fumihiko Ohashi / photographs by Shuji Goto / edit by Akio Takashiro

ForbesBrandVoice