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2022.02.28 11:00

若手人材がスタートアップ/ベンチャーに目を向ける仕組みの構築―スローガンの「日本再興戦略」

超少子高齢化社会を迎えた日本。新たなる産業創出が求められる一方で、将来を担う若手人材は、すでに事業が完成された大手企業を目指す。この流れに疑問を抱いたのがスローガン代表取締役社長伊藤豊だ。彼が描く、人材配置から始まる「日本再興戦略」とは。


毎年社会に加わる新卒人材。その多くは大手企業を目指し、スタートアップ/ベンチャーに目を向ける者は少数派である。至極当然にも思えるが、この構図は日本社会の未来において大きなリスクになると、スローガン代表取締役社長伊藤豊は16年前に危機感を抱いたという。

新卒人材が活躍しにくい大手企業


「新卒当時、あまり深く考えずに誰もが名前を知る大手IT企業に入社しました。ただ実際に業務を始めてみると、企業構造が成熟しているため、若手の自分が活躍できる余地がほぼないことに気づいたのです」

新卒のやる気がなくても業務が成立する強固な仕組みは、企業としては正解であっても、若手としては刺激のなさに直結したという。ほどなく伊藤は、社員約50人の小規模な関連会社への出向に立候補する。入社してみると彼は、仕事のやりがい・面白さに目を惹かれたという。

「人員も少なければ大手の看板もなく、ブランド力もない。ないないずくめでしたが、そこには解決すべき課題が辺り一面に転がっていました。そしてそれらの題は、若手の自分でも取り組める体制だったのです。それからは日々新しいソリューションを生み出すことに、夢中になりました」

そのうえで伊藤が気づいたのは、こんなにも若手のやりがいのあるイノベーティブな業務ができる余地がたくさんあるというのに、人材が集まらないという矛盾だった。

「社会全体を俯瞰で見たとき、大手ばかりに若い人材が集中する、不均衡な人材配置の構図が見えたのです。日本社会で新事業創出が求められる未来に向けて、若い発想が可能な人材がほぼすべて、重厚長大な大手企業にのみ込まれていく。その課題解決こそが、日本社会の“伸びしろ”になると思い至ったのです」

そして伊藤は、優秀な新卒人材をスタートアップ/ベンチャーに提供する仕組みを構築するために、「スローガン」を設立し、人材業界に足を踏み入れた。

スローガンが社会に必要な理由


学生が大企業へと向かうのは、あくまでイメージの問題であり、情報が的確に届いていないからだと伊藤は指摘する。

「周囲の先輩や親、友人はこぞって“大手が安心、ベンチャーは危険だ”と言うかもしれませんが、ここで学生が考えるべきなのは時間軸を補正した視点です。なぜなら現在名だたる大企業も10〜20年スパンで見れば、ほとんどがスタートアップ/ベンチャーだったからです」

伊藤が始めたのは、そうした事実と、実際のキャリア事例を伝えるセミナーだった。

「思い込みやイメージによる偏見というバイアスを取り除き、スタートアップ/ベンチャーでのリアルな新卒の活躍事例や、ダイバーシティにより性別関係なく期待される実例などを伝えていくと、集まった学生の目はどれも輝き始めます」

そこでポイントとなるのが「企業の目利き力」である。スタートアップ/ベンチャーなら何でもいいというわけではない。世の中には“危険なベンチャー”も実際に存在するからだ。伊藤はその目利きについて、スローガンはVCならぬ、ベンチャー“ヒューマン”キャピタルなのだと説明した。

「資金の代わりに、私たちが集めた優秀な若手人材を、投資するという考え方です。VCのように、私たちはトップとの対話や業績分析、関係者へのヒアリングなどのあらゆる手法を使い、候補企業を見極めたうえで支援対象を絞り込むのです」

新卒紹介フィーは業界一の高さ。しかしその眼力の正しさは、Speee、Sansan、ソウルドアウト、ネットプロテクションズホールディングス、GA technologies、ラクスル、レバレジーズなどの成長企業を、創業当初から支えてきた実績からも見てとれる。

なかでもソウルドアウトでは、70人規模だった時代から3年間で85人の新卒採用を手がけ、その多くがわずか数年で中核で活躍するようになり、同社の成長を大きく加速させたという。IT・医療分野で業界TOPクラスのサービスを保有するレバレジーズでは、50人から1,000人規模への成長を10年にわたりサポートした。

優良な成長企業を学生の第一選択肢に


スローガンが展開している主なサービスを紹介しよう。「Goodfind」は、成長企業と学生をつなぐプラットフォーム。成長の可能性が高く、若手への活躍期待もあるのに、世間にまだ広く知られていない企業と学生の接点として、企業ごとのセミナーを開催するなど、“何をやっているかわからない”存在にとどまっている企業の魅力を最大限に伝える。

既卒・社会人3年目までの人材向けキャリア支援「Goodfind 3」や、社会人向けの転職支援「Goodfind Career」も展開することで、若手人材のキャリアチェンジの支援も行う。

長期インターン紹介サービスの「Intern Street」を通して、実際に自分で成長企業の価値を測る学生も多い。若手人材向けビジネスメディア「FastGrow」は、記事とイベントで企業をブランディングする。1on1の仕組みをつくるHRクラウドサービス「TeamUp」は、入社後の若手社員の活躍を支援するための仕組みだ。

これらのサービスを複合的に活用して、スローガンは埋もれがちなスタートアップ/ベンチャーのブランディング・プロデュースをすることで、学生や若手人材の間での企業人気を高めることができるという。

その原動力について伊藤は語る。

「新しい事業を生み出すところに優秀な若者がいなければ社会は傾きます。安易に大手企業を選ぶというこれまでの流れを変えて、成長企業にも優れた人材が流入するために、このエコシステムが必要なのです」

若手が可能性を追求できる社会へ



"新産業ビルダーという発想で、社会全体としての若手人材配置の最適解を模索しています。"

スローガンは若手人材の可能性を強く信じている。自社としても創業3年目社員4人の段階で新卒を3人受け入れたという。

「毎年5〜10人のペースで新卒を採用しています。そのなかには20代で事業責任者やマネジャーを務めるなど、中核で活躍する人も多数います。弊社を辞めて転職するケースもありますが、その後その人材が、大手や有名スタートアップやVCで活躍するケースも多くあります」

若手がスタートアップ/ベンチャーへ続々と入社する流れを生み出したスローガン。ひとつ気になるのは、大手企業と敵対関係が生じるのではないかという懸念である。

「実はすでに大手企業との取り組みも始まっています。設立当初は人材配置の不均衡を正すべく、大手企業からスタートアップ/ベンチャーへの流れを促進することに専念していましたが、現在は大手企業もさまざまなイノベーション人材を必要とする時代となりました。目標は大手企業、中小企業、スタートアップ/ベンチャーなどをすべて包括して、大小問わず若手が可能性を追求できる社会の形成。そして同じ課題をもつ海外にも“新産業ビルダー”として進出していきたいと思っています」

SLOGAN
https://www.slogan.jp


伊藤 豊(いとう・ゆたか)◎東京大学文学部卒。日本IBM、その関連会社を経て、2005年にスローガンを設立し、代表取締役社長に就任。著書に『Shapers 新産業をつくる思考法』(クロスメディア・パブリッシング)。経済同友会第2期ノミネートメンバーに選出。

Promoted by スローガン | text by Ryoichi Shimizu | photographs by Masahiro Miki | edit by Yasumasa Akashi