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2021.12.14

感染症との戦いと、イノベーションの可能性

SDGs(持続可能な開発目標)は未来に向けた地球規模のテーマとして、あらゆる国や企業、そして個人の重要な指針となっている。地球規模で人々の健康に影響を与える感染症との戦いは、SDGs実現における最重要ピースのひとつだが、新型コロナウイルス感染症の影響が世界を覆うなかで、さらに注目されるようになった。

この連載企画では、日本発の国際的な官民ファンドである公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund。以下GHIT)がグローバルヘルスの課題解決やSDGsの実現に向けてどのような役割を担い、活動しているのかを、感染症の新薬開発に取り組む専門家との対話を通じて紹介する。


新井七菜(以下、新井):新型コロナウイルスの世界的な流行により、感染症に対する人々の関心が高まっています。グローバルヘルスにはさまざまな課題があるなかで、感染症はどのような位置づけにあるのでしょうか。

石井健(以下、石井):グローバルヘルスというと他人事のように感じる方がいるかもしれませんが、私たちの日々の暮らしや出来事と密接につながっています。

そのひとつが感染症です。感染症というと、これまでは海外で流行っている病気や食中毒をイメージする人が多かったのではないでしょうか。しかし今回、私たちは新型コロナウイルスによって、感染症は外からやって来ることがあるとご理解いただけたと思います。

実は、新型コロナウイルス以前から感染症は日本でも身近な存在でした。麻疹や風疹などワクチンで防げる病気をVPD(Vaccine Preventable Diseases)と言いますが、これらの感染症は国内で普通に暮らしていてもかかる病気ですし、対応を誤れば死に至る可能性があります。

新型コロナウイルスのワクチン接種が進むなかで、次に求められるのが抗菌薬や抗生物質の使い過ぎで薬が効かなくなる薬剤耐性(AMR)への対策です。抗菌薬の不適切な使用は、薬剤耐性菌の世界的な増加を招く可能性があります。AMRは現時点で想定しうる中で最大の、グローバルヘルスの真の脅威です。

そして並行して考えなければならないのが、マラリアや結核、顧みられない熱帯病(NTDs)などの感染症対策です。HIVや結核などの感染症患者は、日本国内にもたくさんいらっしゃいます。皆さんにはまず、感染症とその対策を自分ごととして捉えていただきたいと思います。


石井 健 東京大学医科学研究所ワクチン科学分野教授

新井:感染症を世界からなくすことはできるのでしょうか。

石井:感染症のもとになるウイルスなどの病原体は微生物であり、生態系を構成する一員です。私たちはついウイルスを敵に見立ててしまいがちですが、本来、人間とウイルスは共生関係にあります。世の中からすべてのウイルスをなくしたら生態系を維持できなくなり、人間も生き続けるのが難しくなるでしょう。

「新型コロナウイルスはどこから来たのですか」とよく聞かれますが、ウイルスが人間の世界に突如として現れたわけではありません。人間が野生動物の生態系を崩したりすることで彼らの世界に介入し、結果的にウイルスの進化の過程にすさまじい影響をもたらしたのです。ウイルスにとっては、変異も生きるための術なのです。

ウイルスや感染症と共存していくためには、まずは「ウイルスはあってはならない」と捉えないことが大事です。そのうえで、どのような状況が最適で、そのために何ができるかを考えることが、イノベーティブなワクチンや新薬開発の根源になります。

新井:今回の一連の新型コロナウイルスのワクチン開発の過程を通じて、私たちが学ぶべきことや教訓はありますか。

石井:日本人は平時に強く、有事に弱いということがよくわかりました。平時は時間軸に基づいてPDCAを回せばいいのですが、有事にはOODA(ウーダ)ループ、つまり観察(Observe)、方向付け(Orient)、意思決定(Decide)、実行(Act)という流れを繰り返すことが求められます。コロナ禍において、国家やグローバルレベルでウーダループを回せたのがアメリカとイギリスと中国とロシア、その真逆が日本とフランスだったと思います。

ここで重要なのは、まずすべきことは観察と方向付けだという点です。ワクチン開発で言うと、ウイルスがどんなもので、どのようなワクチンをつくるべきかを把握することを意味します。「備えあれば憂いなし」と言いますが、パンデミックや災害などに対応するには事前の準備が欠かせません。そのためには、日頃から革新的な薬やワクチンの開発に投資することが大切だと皆が実感できたのは、新型コロナウイルスによるプラスの副作用だと思います。


新井七菜 グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund) ブランドコミュニケーションマネージャー

新井:感染症の課題解決に向けて、世界ではさまざまな活動が行われています。石井先生は以前から「オールジャパンはオンリージャパンを招きかねない」と指摘されていますが、グローバルに連携することの重要性はどのようにお考えですか。

石井:新型コロナウイルスのワクチン開発では、異なるセクター間の連携が成功を収めました。例えば、アストラゼネカ製のワクチンはオックスフォード大学との共同開発で生まれたものです。ファイザーとビオンテックのように、国境を越えてアメリカの大手製薬会社とドイツのベンチャー企業が組んだ例もあります。

もはや一国だけで感染症対策をしたり、革新的な新薬やワクチンを開発したりするのは時代遅れになったと言えるでしょう。

新井:GHITは国際的な官民パートナーシップを通じて、マラリア、結核、顧みられない熱帯病(NTDs)など市場性の低い治療薬やワクチン、診断薬の開発への投資(もしくは「資金拠出」)をしています。石井先生には2018年から、GHITの選考委員として投資案件の審査をお願いしています。先生の目からご覧になって、GHITはどんな組織だと思われますか。

石井:GHITのような官民ファンドの醍醐味は、グローバルな視点から官民を超えたチームづくりを推進し、マネジメントすることにあると思います。現場を知り、病気を知り、さまざまなセクターのミッションや戦略を理解したうえで対話を促し、イデオロギーが異なる人たちのハブになる。GHITはいま、対話や協力が必要な世界で最も必要とする組織のひとつではないでしょうか。

また、最先端の科学をきちんと見据えたうえで、感染症で苦しんでいる世界の人々を救うために投資先を育てているところはGHITの誇るべき点であり、GHITがイノベーションを通じてグローバルヘルスに貢献できると考える理由です。

アメリカのFDAにいたとき、規制当局が開発者に伴走し、解を求めて共に進むことの大切さを学びました。GHITの選考委員会は明らかに伴走スタイルですよね。現場感覚をもつ少数精鋭のメンバーが、何が必要で何は不要か、どうするべきかをパートナーと忖度なしに議論する。GHITは小さい組織だからこそ機動力があって強いのだと思います。GHITには固定概念がなく、チャレンジ精神の強い人たちが集っているという印象があります。

新井:これからのGHITに期待することはありますか。

石井:世界には、いまだに目を向けられていない課題がたくさんあります。GHITには、現地の人も気付いていないようなグローバルヘルスの課題解決にチャレンジしていただきたいです。

思い出すのは、マラリアワクチン開発プロジェクトの一環で大阪大学の堀井俊宏教授とウガンダに行ったときのことです。アフリカで困っている人たちのためにワクチンをつくるぞと意気込んで向かったのですが、現地で目にしたのは水たまりから湧き出るボウフラの群れでした。宿泊先のホテルのシャワーからは、蛇口をひねると茶色い水が出てきました。

1億円かけてワクチンを開発することは、本当に彼らのためになるのだろうか。水たまりを埋めてボウフラを減らし、安心して水を飲めるようにするほうがよっぽど意味があるのではないか。僕らがやろうとしていることは、本当に彼らのニーズに合っているのだろうか。そう考えさせられました。

グローバルヘルスに関わる方に必要なのは、現地の生活を具体的に想像する力です。現地の人たちの本当の暮らしを知ることから、真のイノベーションは始まるのだと思います。だからこそ若い人たちには、ぜひ世界を自分の目で見て、リアルな体験をしてほしいと思います。私自身も、現地の実情を知ったうえで、日本として何ができるのかを、これからもGHITと一緒に考えていきたいと思います。

新井:私も現地に足を運ぶたびに、自分たちの物差しで物事を見てはいけないと気づかされます。最後に、グローバルヘルスの課題解決のために、個人ができることはありますか。

石井:まずはグローバルヘルスを自分ごとと捉えて、手洗いやうがい、掃除、こまめな換気などを習慣化することです。衛生的な暮らしを心がけることは、実は自分だけでなく、周りの人や社会全体のためになります。

新井:日常でできることに目を向けることが大切ですね。新型コロナウイルスの感染拡大を通じて、私たち人類は感染症が経済を含む社会全体に大きな影響を及ぼすことを知りました。人類や社会が感染症と共生していくために、GHITはこれからもさまざまな企業や組織とグローバルに連携し、イノベーションを開拓していきたいと考えています。

公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)
日本政府(外務省、厚生労働省)、製薬企業などの民間企業、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、ウェルカム、国連開発計画が参画する国際的な官民ファンドです。日本の製薬企業、大学、研究機関と、海外の機関との連携と共同研究を促進し、低中所得国で蔓延するマラリア・結核・顧みられない熱帯病向けの製品開発への投資、ポートフォリオ・マネジメントを行っています。

https://www.ghitfund.org/jp


いしい・けん◎1993年横浜市立大学医学部卒業。医師として研修後96年から7年間まで米連邦政府保健省食品薬品局(FDA)に勤務しワクチンの研究と審査を経験。その後大阪大学、医薬基盤研究所でのワクチン、アジュバントの研究に従事、日本医療研究開発機構(AMED)などでファンディングにも携わる、19年から東京大学医科学研究所ワクチン科学分野教授。プライベートでは釣りとドラムたたきでストレスレス生活を目指している。

あらい・なな◎GHIT Fund ブランドコミュニケーション マネージャー
2012年立教大学観光学部卒業。日本航空での客室乗務員を経て、2015年よりGHIT Fund参画。ブランド戦略の立案と実施、広報機能、メディア対応、イベント企画などを担当。プライベートではヨガとサーフィンを楽しむ。

Promoted by GHIT Fund / text by Hiro Matsukata / photographs by Shuji Goto

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