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2021.10.13 10:00

エネルギー分野から持続可能な未来の創造へ 京都発スタートアップの挑戦

左: 京都フュージョニアリング Co-Founder/CEO 長尾 昂 中央:FLOSFIA 代表取締役社長 人羅俊実 右:Atomis 代表取締役CEO 浅利大介

左: 京都フュージョニアリング Co-Founder/CEO 長尾 昂 中央:FLOSFIA 代表取締役社長 人羅俊実 右:Atomis 代表取締役CEO 浅利大介

「核融合」「ミストドライ®法」「多孔性配位高分子」」……。京都大学の研究開発の成果が、新たなビジネスを生み出している。革新的なテクノロジーで未来を照らすスタートアップ3社に、京都で創業した理由を聞いた。


京都でスタートアップが育つ理由


アカデミアの基礎研究による有望な成果が産業化に結びつかず、日本企業はさまざまな分野で海外勢の後塵を拝してきた。だが、京都にフォーカスしてみると違う。この土地に醸成された気風やスタートアップエコシステムが流れを変えているのだ。

「昔から京都には自由で進取の気風があり、政治・経済・文化の発信地として栄えてきました。伝統を守りつつも、先駆的な取り組みを許容する懐の広さがある。だから、起業家と京都はすごく相性がいい」

京都大学発のベンチャーとして創業した京都フュージョニアリングの長尾昂は土地柄をこう総括する。同じく京都大学の研究開発に可能性を見出したAtomisの浅利大介は、京都市成長産業創造センターでの巡り合わせによっていまがあると言う。

「産学連携を推し進める施設に京都大学北川研究室の分室が入居し、セミナーで瀧本哲史さんと出会えたことがAtomis誕生のきっかけです。京都大学で客員准教授を務め、エンジェル投資家でもあった瀧本さんは、事業計画書がない段階から出資を決め、2019年8月に逝去するまで取締役を務めてくださいました」

FLOSFIAの人羅俊実は、事業を始めるにあたっての熱源から有用なコミュニティまでを手に入れたと話す。

「私はFLOSFIA創業以前、京都高度技術研究所を中核とする機関、『京都環境ナノクラスター』で研究会を重ねてきました。そこには、“環境保全に資する技術を社会に実装し事業化する”さまざまなヒントがありました。ディープテックと呼ばれるナノテクロジーを環境課題の解決に応用するアプローチ、創業後にも役立つコミュニティは、ここで培われたものです」

学術的な基礎研究から生まれる革新的なビジネスの種、それを温かく見守る気風、大きく育てようとする人や施設。京都には、そのすべてがある。


脱炭素社会の実現に核融合で貢献する
京都フュージョニアリング



長尾 昂 京都フュージョニアリング Co-Founder/CEO


トカマク型核融合炉のデザイン図。核融合炉の磁場閉じ込め方式のひとつ。

京都フュージョニアリングが挑戦する技術領域は、「核融合」だ。原子核の構造解明に多大なる功績を残した湯川秀樹博士がその可能性に着目し、我が国での研究活動の着手を提唱して以来、京都大学は核融合研究のトップランナーとして世界に知られている。

「弊社では、核融合炉の温度を2億度にまで上げるための加熱装置『ジャイロトロン』などを設計しています。『核融合』発電は、原子力発電で利用している『核分裂』とは違ってメルトダウンのデメリットがなく、高レベルな放射性廃棄物も生み出しません。ベースロード電源にもなり得る究極のエネルギーなのです。いま、私たちはコンポーネントプレーヤーとして世界各地の実験炉に技術を提供しています」

核融合炉で生まれた熱は、発電以外の利用も可能だ。バイオマスに吸収させた二酸化炭素を熱変化させれば、木炭を取り出せる。

「早ければ、2035年に商用核融合炉が誕生するでしょう。私たちが本当に成し遂げたいことは、空気中の二酸化炭素をカーボンに変える脱炭素マシンをつくることです」

CEOの長尾昂は、地球の未来を見据えている。


エコロジーな半導体がさまざまなロスを低減する
FLOSFIA(フロスフィア)



人羅俊実 FLOSFIA 代表取締役社長


最先端半導体材料「コランダム構造酸化ガリウム」を用いたGaO®パワーデバイス

FLOSFIAは、京都大学大学院工学研究科藤田静雄研究室発のスタートアップだ。安全で低コストで省エネルギーな薄膜を作製する「ミストCVD法」を生み出したのが同研究室である。

「この技術を社会実装できないか。FLOSFIAがたどり着いた解は、電力変換に用いられる半導体デバイスへの応用展開でした。半導体に適した『ミストドライ®法』へと独自発展させて、最先端半導体膜のコランダム構造酸化ガリウムを用いた実証試作に取り組んできました」

世界最小の電力損失値を達成した瞬間、「すべての雑念が消えた」と代表取締役社長の人羅俊実は言う。現在は、サンプル出荷から量産開始の段階へと歩みを進めている。

同社が掲げる使命は、「半導体エコロジー®」だ。

「電力変換時に熱が放出されることで生じるエネルギー損失を低減する『低エネルギーロス』、製造工程での電力使用量を低減する『低プロセスロス』、稀少な地球資源を有効利用する『低マテリアルロス』により、半導体のミクロの世界から全世界にエコロジーを届けていきます」


次世代高圧ガス容器でエネルギー需要を変革
Atomis(アトミス)



浅利大介 Atomis 代表取締役CEO


「軽量・コンパクト・スマート」な次世代高圧ガス容器CubiTanを開発

Atomisは、多孔性配位高分子PCP/MOFに特化した京都大学発のスタートアップだ。

「次世代の材料とされる多孔性配位高分子PCP/MOFは、世界に先駆けて京都大学高等研究院の北川進特別教授が発表した新素材です。無数に空いた孔(あな)を利用し、あらゆる気体をナノレベルの鳥かごに閉じ込めたり、取り出したりできます。気体をコンパクトに圧縮貯蔵する技術で、環境保全やエネルギーなどの多様な分野で未知なる価値を創出するのが我々の使命です」

こう語るのは、CEOの浅利大介。Atomisは、同素材の独自の用途展開として軽量・小型の次世代スマート高圧ガス容器「CubiTan®(キュビタン)」を開発し、環境に優しい未利用エネルギーを効率良く活用するためのエネルギーインフラ革命を起こすべく、京都大学と共に実証実験に挑んでいる。

「地球温暖化係数がCO2の25倍とされるメタンガスを汚泥処理場などから回収し、新たなエネルギーとして利用する際にもCubiTan®は使えます。再生可能エネルギーの余剰電力に由来する水素ガスのシェアリングにも有効です。前者は2023年、後者は28年の実装を目指しています」




ながお・たか◎2007年、京都大学大学院工学研究科修士課程修了。エネルギースタートアップのエナリスを経て、19年に京都大学エネルギー理工学研究所の小西哲之教授と京都フュージョニアリングを創業、CEOに就任。

ひとら・としみ◎1975年生まれ。京都大学工学部卒業。奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科修士課程修了。2011年FLOSFIAの前身となるROCAを共同設立し、12年代表取締役社長に就任。誰も注目していなかった新材料を用いて、世界トップデータを実現するなど事業を牽引。

あさり・だいすけ◎1975年生まれ。2005年、京都大学大学院工学研究科修士課程を修了。京都大学の同期だった樋口雅一京都大学高等研究院特定助教が15年にMaSaKa-NeXT(Atomisの前身)を創業、同氏の呼びかけに応えて17年1月よりCEOに就任した。

(一社)京都知恵産業創造の森 (京都スタートアップエコシステム推進協議会事務局)
https://kyotostartup.jp/

Promoted by 一般社団法人 京都知恵産業創造の森 / text by Kiyoto Kuniryo / photographs by Shuji Goto / edit by Akio Takashiro