そう強く訴えるのは、アクセンチュアのビジネス コンサルティング本部で化学・素材産業を担当するマネジング・ディレクター、中島崇文だ。
「日本は資源を持たない国ですから、外貨を獲得しないとエネルギーも食料も得られません。製造業の中でも規模の大きな化学・素材業界を強化していくことは外貨の獲得はもちろん、経済への貢献度合いも高く、日本にとって意義のあることだと考えています」
そんな国力を支える業界が今、大きな転換期を迎えている。カーボンニュートラルやサーキュラー・エコノミー(循環経済)と言った視点で、政策の動向や官公庁との連携を踏まえた事業の創出を迫られているのだ。さらには、欧州のような環境先進国に入り込み、現地でビジネスを作ることも視野に入れなければならない。
企業に変革を促すことで、社会に貢献したい。
そんな志を貫くため、コンサルティングファーム間の移籍を決断した中島。
アクセンチュアで「デジタル」「スケール」「スピード」を手に入れた彼が今、立ち向かう業界の転換期について語ってもらった。
「DX“実装”における限界を知りました」
物質が違うものに“化ける”ことで新たなものが生まれることに純粋な面白さを感じていた中島は、大学で化学を専攻。大学院まで進学する。
通常ならば研究職に就くところ、コンサルティングファームを選んだのは、社会貢献の気持ちが強かったからにほかならない。
「就職活動をする中で自分の気持ちを整理していった際、『社会に対する貢献度を最大化したい』という思いがあることに気づきました。では、自分はどんなことで世の中に役立てるのか。日本は高い技術を持っているのに収益につなげられていない問題があることを知り、技術経営で貢献したいと考えたのです」
確固たる思いのもと、化学・素材業界のサポートに邁進した中島は、順調にコンサルタントとしてのキャリアを積み上げていく。次々に成果を挙げ、社内外から化学分野のエキスパートとして認知されるようになった。
そんな中、中島は「技術経営」を志した初心に立ち返り、当初の事業開発から経営戦略の領域へと舵を切る。
「ビジョン策定やガバナンス改革といった、クライアント企業を丸ごと変えてしまう仕事を手がけるようになりました。苦労も多かったですが、やりがいは大きかったですね」
コンサルタントとして充実の日々。そんなとき、大きな波がやってきた。デジタルトランスフォーメーション(DX)だ。
日本がもつ技術優位性が、他国のデータドリブンな研究開発が推進されることによって失われる可能性がある。国内企業の強みを維持するためにも、研究とデータマーケティングの融合、技術経営にデジタルを適用することは非常に重要なアジェンダとして急浮上した。
「専門性が高くてこれまでこじ開けることができなかった工場や研究開発部門。しかし彼らからも『デジタルの文脈なら話を聞きたい』とか『DXならコンサルティングの力を借りてもやってみたい』といった反応がありました」
しかも、いざデジタル変革に取り組むと、直接デジタル化に関わりのない部分まで変革の必要な点が湧き上がってきた。それらを全て実行できれば業務フローからビジネスモデルまで、経営全般における変革を加速できると中島は確信。研究、生産、サプライチェーンなど幅広い分野におけるDXのサポートにのめり込んでいった。
日本企業の明るい未来への鍵を握るのはDXだ。そう確信した中島だが、同時に「実装」の難しさも痛感した。デジタルテクノロジーをいかに活用するか、構想の策定まではできるものの、実装となるとどうしても時間がかかる。
「デジタルは変革のきっかけにもなりますし、企業だけでなく産業を丸ごと変えるだけの力があります。つまり、社会変革をスピーディに成し遂げられるわけですが、実装までシームレスに進めることが難しいのが現状でした」
セクショナリズムは皆無。だから、総合力が生まれる
思い描く変革を実装を含め実現するには、「デジタルの総合力」が必要となる。それを渇望した中島がたどり着いたのがアクセンチュアだった。
「実行を伴った変革がダイナミックにやれるのではという期待を持って転職しましたが、想像以上でしたね。自分に足りないスキルを社内からスムーズに補完できるので、お客様に対して提供出来る価値が圧倒的に広がりました」
エキスパートとタッグが組め、スピーディにプロジェクトを推進できる同社では、自分一人で仕事をやりきるシーンはほぼないという。
どこかに解決への糸口が必ずある──そこにアクセンチュアの強みを実感したと中島は話す。
「化学産業をリードするグローバルメンバーと毎月時間をとって、その時々の相談を投げかけるんです。知識や情報を持っている人物を紹介してくれることなどネットワークの充実には目を見張りますね。
それ以外にも、グローバルレベルで提案しようとしている案件や、過去の支援事例など蓄積された情報へのアクセスが容易で、そういった内容を踏まえた提案はお客様企業にとっても非常に有益なんです」
こうすればできるはずといった“たられば”ではなく、経験した人だからこそわかる凄みのようなもの、と表現する中島。有り体にいえば、確固たる勝ち筋が提示できるということだろう。
加えてスケールの大きさも想像以上だった。金額にして桁が1つ2つ違うレベル。これは顧客企業にとってより大きな価値を提供できている証であり、社会に多大なインパクトを与えることもできる。
このことを、「自分が得意とする経営戦略に、アクセンチュアが保有する専門性やナレッジを掛け合わせることで、更に価値ある変革を支援できるようになった」と喜ぶ中島。
「分厚い総合力があればこそ専門性が逆に活きる。その中で自分が目指すキャリアの方向性がはっきりし、そこに注力出来るんです」
プロフェッショナルが集合し、組織として最大の価値を発揮する。そこにはセクショナリズムを感じない。アクセンチュアの「総合力」を生み出す源泉が垣間見えた。
海外企業に、マーケットの全てを抑えられる前に
中島は「デジタル・スケール・スピード」を手中に収めた。いま、彼は何を見据え、何を成し遂げようとしているのだろうか。
「化学・素材産業は大きな転換点を迎えています。カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミー、海洋プラスチックの規制といった問題がマーケットの構造を大きく変質させているのです」
従来、ビジネスを構築して展開する主要プレイヤーは企業だった。しかし、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーは政策の動向が密接に関係する。グローバルに波及するトレンドを常に視野に入れつつ、官公庁への働きかけを視野に入れてビジネスを構築しなければ通用しない。
「より高度な事業開発スキルが求められている中で、日本企業は残念ながら乗り遅れていると感じています。足早にサポートをしないと、海外企業にマーケットをすべて抑えられてしまい、ニッチな部分しか残らないのではないかという危機感があります」
企業にその危機感を持ってもらう点から始め、早急な変革支援で、企業の競争力を強化することがアクセンチュアの使命だと中島は語る。
難しいのは、炭素排出量削減に投資しても利益としてのリターンが単純には期待できないことだ。リターンを得るにはビジネスにつなげる必要がある。
この点はデジタルを駆使して、数万点ある化学製品のCO2排出削減量や、原料の由来を可視化することで価値を生み出す事も可能だ。いずれにせよCO2排出削減を価値として社会に認知させ、事業戦略と組み合わせることで、すべての関係者が価値を感じられるようにしなくてはならない。
これはクライアントの成長だけでなく、世の中全体に価値をもたらす「360°バリュー」というアクセンチュアの成長戦略とも共鳴している。社会貢献を希求する中島にとっては、願ってもない環境のはず。だが実は転職に際してのためらいは、非常に大きなものがあったと振り返る。
「お世話になった人たちや、慕ってくれていた部下に背中を向けることになるのではないかという思いが強く、1年以上悩みました。しかし転職の決め手となったのは、多くの人に相談して自分を客観視できたことです。『こういう仕事がしたい』だけでなく、『どう生きるべきか』と考えることができたことが、決断を後押ししてくれました」
人生の多くの時間を費やす仕事で、社会への貢献度を最大化させたいと願った中島。
「新たな環境に出会うことがこんなにも自分を変えるとは思っても見ませんでした。確実に世界が広がりましたね」
そう晴れやかに話す中島の表情からは、新たなチャレンジを続けることの意義深さが伝わってきた。