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経営の中枢にAIを取り入れる。PwCコンサルティングが推進する「AI経営」が日本の企業にも浸透し始めている。同ファームマネージングディレクターの馬渕邦美は、キーマンとなる“AIジャイアンツ”がその成否の鍵を握っているという。いま、日本の企業で、誰がどのような変革を起こしているのか。日本がデジタル大国となる未来を予見させる変革の現場を紹介する連載企画。第一弾は第三の創業としてソリューション事業を推し進めるブリヂストンで司令塔を担う高城知行に、同社の取り組みと理想とするAI経営を語ってもらった。


強い「リアル」×「デジタル」が、Bridgestone T&DPaaSの基本


創業90周年を迎えたブリヂストンが、2020年を第三の創業に位置づけ、「タイヤ・ゴムの強みを生かしたサステナブルなソリューションカンパニー」への進化を図っている。

事業の中枢を担うのが、同社独自のソリューションビジネスのプラットフォーム「Bridgestone T&DPaaS(タイヤアンドダイバーシファイド プロダクツ・アズ・ア・ソリューション)」だ。タイヤの頭文字であるTと同社が展開する多角化事業(Diversified Products)の頭文字を用いて、断トツの商品とサービスをデジタルでつなぎ、世界に広がるサービスネットワークを通じて断トツのソリューションを提供するという想いを込めたという。

「タイヤは命を乗せているという信条を、あらゆる活動において堅持しなければなりません。断トツの商品があってこそのソリューションであるというのが、ブリヂストン流のDXです」。CDOとタッグを組み、事業の舵取りを担うBridgestone T&DPaaS戦略統括部門長の高城知行は、そう核心を述べる。

高城は、1988年に入社して以来、数々の商品企画やバリューチェーンソリューションに携わり、同社の強みである商品価値を熟知するとともに顧客のさまざまなニーズに寄り添ってきた。「デジタルを先行するあまり、商品をないがしろにするようでは、お客様に真の価値を提供することはできません。デジタルはあくまでも手段ですから、デジタルを活用することで誰のために何をするのか、その目的がぶれないことが大切」と強調する。

「ゴムを極める技術など、これまで現場で長年培われてきた強い『リアル』に『デジタル』を融合させることで、『より大きなデータで、より早く、より容易に、より正確に』をテーマに、断トツ商品と断トツソリューションの開発・展開へとつなげていく。それが、ブリヂストン流ソリューションの基本的な考えです」

MaaSに対応したソリューション・コントリビューターへ


ブリヂストンは、1931年に創業し、88年にグローバル化を掲げて第二の創業へ。乗用車からトラック、バス、航空機、建設/鉱山車両まであらゆるモビリティの走りを支える、世界首位のタイヤメーカーへと成長を遂げた。一方、近年は、経済産業省と東京証券取引所が共同で紹介する「DX銘柄」に2020年から2年連続、旧「攻めのIT経営銘柄」からは通算7年連続で選定されるなど、IT先進企業としても知られるようになった。そんななかでの、第三の創業。何が同社を突き動かしたのだろう。

「大きな要因としてはふたつあると思います。ひとつは、連携基盤の重要性です。ソリューションというのは、社会やお客様の困りごとを社会・お客様以上に理解し、解決することから始まりますが、顕在化していない困りごとを把握するには、データが不可欠です。そこで、当社では過去からデータを活用したソリューションを検討・導入してきました。しかし、開発、生産など部署ごとに行っていたためデータがサイロ化しており、知見を全体最適につなげることができなかったのです。連携基盤をつくるため、17年にデジタルソリューション部門を設立し、それに合わせてチーフデジタルオフィサー(CDO)のポストを設置しました。

そこに訪れたのが、CASE、MaaSなどデジタルにより進化するモビリティの新時代でした。無人運転・高稼働車両が想定される将来モビリティの世界では、シェアリングには遠隔監視に基づく点検・保守を含むパッケージサービスが、自動運転には運行を止めないタイヤとサービスが求められるなどの予測が成り立ちます。進化するモビリティを支えていくためには、デジタルと連動したサービス、サービスネットワークをすべてつなげ、新たな価値を創造する必要があると考えたのです」

こうしてデジタルソリューション部門立ち上げから2年後の19年9月に、過去の経験と未来を先取る知恵を結集させた「Bridgestone T&DPaaS」が発足。現在、高城は9部署を統括するが、「強いリアルとセットでないとDXもソリューションもまわらない」という信念を貫き、商品戦略とソリューション事業、デジタル推進をひとつの部門として事業を見通す。

 
ブリヂストン Bridgestone T&DPaaS戦略統括部門長 高城知行

ソリューションで実現する社会価値と顧客価値


ブリヂストンのソリューションビジネスの現在地はどこか。主な事例を紹介してもらった。

「タイヤのデータだけでもタイヤ中心の価値を創造できますが、モビリティのデータと組み合わせ、ビッグデータを解析することで、顧客ごとに最適な商品とソリューションが見えてきます。事業展開に向けては事業買収、事業提携にも注力し、社会価値と顧客価値の向上に努めています」と高城は方針を示す。

そうした観点から、ブリヂストンは19年に、オランダTom Tom社のデジタルフリートソリューション事業(現Webfleet solutions)の買収などを進め、同社が管理するタイヤのデータを車両や運行データと融合させたアルゴリズムを開発。「運送ソリューション」に活用してパンクや故障といったトラブルの未然防止や燃費向上、省資源などを可能にすることで、ドライバーや運送事業者の安全性・環境性・経済性・生産性の向上に貢献している。

多様なモビリティのなかでもとりわけタイヤの使用環境が過酷になるのが、鉱山用車両だ。高城によると、鉱山用超大型ダンプ車両に装着されるタイヤは6本、車両の重量は240t。鉱物を乗せると最大で一本あたり100tの荷重がかかる。「鉱山ソリューション」には強靭なタイヤが欠かせない。そこで同社は、他の性能を犠牲にすることなく強靭な耐久性能を実現したタイヤ「Bridgestone MASTERCORE(マスターコア)」を開発。そのうえで、英国・Transense Technologies PLCの買収により取得した鉱山事業者向けソリューションシステム「iTrack」と掛け合わせた。これにより、タイヤの温度や空気圧、走行状況の24時間モニタリングの環境が整い、「Bridgestone MASTERCORE」の真価を最大限に引き出せるようになった。

「断トツの商品と断トツのソリューション、そしてメンテナンスを行うサービスネットワークを組み合わせることでオペレーションの最適化を実現する。さらに、得られたデータを商品開発にフィードバックしてバリューチェーン全体の価値向上へとつなげる。この価値のスパイラルアップこそが、Bridgestone T&DPaaSの目指す世界観です」。そう高城は断言する。

航空ソリューションでは、日本航空株式会社(JAL)との業務提携により「フライトデータ×タイヤデータ」が摩耗予測をかなえ、航空機のより安全な運行と整備作業の効率化を実現している。また、計画的に作業ができることで在庫管理や機体のやりくりが最適化され、生産・使用段階でのCO2削減にも貢献。この取り組みの成果は、航空各社のみならず他業種のタイヤ分野へも展開する予定だ。

ブリヂストンは中長期事業戦略構想として、『2050年 サステナブルなソリューションカンパニーとして社会価値・顧客価値を持続的に提供している会社へ』というビジョンを掲げている。高城は「成長と社会課題解決の両立を一層強く求められる時代において、サステナブルとDX、ソリューションはつながらないといけない。今後は、摩耗したタイヤを張り替えてリユースする『リトレッド』の価値拡大、さらに使用済みタイヤのリサイクルシステムの構築に力を注ぐ」という。

 

人財育成からスピードアップを図る


戦略が変われば、人的リソースのケイパビリティを変える必要がある。ソリューション事業を促すにはデジタル人材の育成も急務だ。高城はどのような戦略を立てているのだろう。

「急激なデジタル化によるニーズが生まれ、まだ十分な体制が整っているとは言えません。ここは悩みどころで、CDOといつも相談しています。しかし、いろいろな場面で石橋CEOも言葉にしているように、DXというのはHRX(ヒューマン・リソース・トランスフォーメーション)と不離一体であり、事業推進において非常に優先度の高い事項です。ブリヂストンでは、人材を人財と書き、社内育成を充実させる文化が根付いているのはひとつの特徴かと思います。バリューチェーンの各プロセスにいるすべての人が、デジタルで価値を創造するための新しいスキルを獲得する必要がある。そのための環境を整えたいと考えています」

具体的には、①Assistant DS(データサイエンティスト)、②Associate DS、③Full DSの三段階方式を採用し、社内研修機会の拡大(①②)や、大学などとの連携強化によるAI・アルゴリズムエキスパートの獲得・育成(③)を図っていく方針。とりわけAssociate DS以上の高度デジタル人財の育成を強化し、3年後をめどにグローバルで約900人から約1,200人へと拡大する計画だ。「例えば、現場でタイヤを調査するフィールドエンジニアは、リアルとデジタルの両方を理解することで、ソリューションエンジニアに格上げしたいと思っています。一人ひとりのスキル向上を、前向きな機動力へ変換していきたい」と高城は思いを語る。

デジタル人財の確保にあたっては、新卒採用・キャリア採用ともにジョブ型採用の方法を取り入れ、専門性の高いデータサイエンティストなどの雇用・育成にもつなげている。また、今年から、AIによる人財のマッチングがトライアルとして始まり、その効果が期待されている。全方位的な人財戦略が、事業進化の流れに弾みをつけそうだ。

現物現場という「リアル」に強くて堅実。同社のもち味を深く理解したうえで、これからはフレキシブルでアジャイルな体質への変革も必要と高城は話す。

「時代の変化に対する感度を高め、どんな価値を提供できるのかを俊敏に捉える。そしてスモールスタートでも、まずはPoCをやってみる、PDCAを回してみる、うまくいかない部分があったら速やかに修正をかける。そうやって成功体験を積み上げていくことがソリューションには大切なのだと思います。私の役割は、その思いを全社で共有し、Bridgestone T&DPaaSの好循環を回していくことです」

それは、強靭な機動力を備えた高城セントリックの世界でもある。断トツの商品とソリューションの向かう先は地上だけではない。宇宙航空研究開発機構(JAXA)とパートナー企業との共創による宇宙探査車両の開発事業も進んでいる。ブリヂストンの新たな挑戦から目が離せそうにない。


たかぎ・ともゆき◎1988年ブリヂストン入社。商品企画部門において乗用車用タイヤを中心にグローバルでの商品企画に携わる。その後、マーケティングにおけるバリューチェーンソリューションや新事業戦略を担当し、2019年より現職。タイヤ・ゴム事業の強みを生かしてソリューション事業へ進化させる、ブリヂストン第三の創業の成長戦略を統括する。

Promoted by PwC Japan / text by Sei Igarashi / photographs by Kiyosh Hirasawa / edit by Yasumasa Akashi

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