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2021.08.18 11:00

京都がスタートアップの街として注目されるワケ

創業3年以内の起業家を応援するコミュニティプロジェクト「Forbes JAPAN Rising Star」。7月1日に2021年度コミュニティのキックオフイベントの模様がライブ配信された。特別セッションでは、「京都がスタートアップの街として注目されるワケ」(powered by 京都スタートアップエコシステム推進協議会)と題したディスカッションが行われ、スタートアップがビジネスをグロースさせる環境が、京都の街にいかに整っているかが語られた。


古都・京都は、伝統工芸などのものづくりに長けていると同時に、京セラ、堀場製作所など数多くのグローバル企業を輩出してきた街である。その古都に近年、個性的なスタートアップが集結しているという。彼らは何に惹かれてこの地に集まるのか。また、なぜ京都の街からグローバルに飛躍するスタートアップが育っていくのだろうか。

京都大学発スタートアップで9万種以上の動植物を判別できる生き物コレクションアプリ「Biome」を展開するバイオーム 代表取締役 藤木庄五郎、ハードウェア・スタートアップの支援を行い、京都のスタートアップコミュニティで中心的な役割を果たすMonozukuri Ventures CEO 牧野成将を迎え、Forbes JAPAN Web編集部 編集長 谷本有香が京都ならではの魅力に迫った。

伝統と歴史あふれる古都・京都とスタートアップの意外な相性のよさ


谷本有香(以下、谷本) IT系では画像キャプチャの「Gyazo」を展開するNOTA.Inc.、ライフサイエンス系では再生医療のメガカリオン(iPS細胞で実現する輸血医療/Forbes起業家ランキング2018年度1位)、技術系では京大発の半導体スタートアップ・フロスフィアなど、近年京都の街から個性的なスタートアップが続々誕生しています。

こうしたムーブメントは、京都の街特有のスタートアップに適したエコシステムがあるからではないか。そう考えるに至りました。そこで実際にスタートアップとして京都で活動している2組に集まっていただきました。まずはバイオーム 代表取締役 藤木庄五郎様から自己紹介をお願いします。

藤木庄五郎(以下、藤木) 京都大学発のベンチャーで、日本国内に生息するミジンコからクジラ、コケから大木まで、動植物を写真に撮ることで9万種以上をAIが判別し、各自がコレクションできる「Biome」というアプリを開発しています。生物多様性を可視化することで環境保全につなげようという取り組みです。


バイオーム 代表取締役 藤木庄五郎

谷本 いきもの収集アプリで環境保全につなげる。京都らしいというか、非常に個性的な事業内容ですね。続きまして、Monozukuri Ventures CEO 牧野成将様。京都のスタートアップコミュニティで中心的な役割を果たしていらっしゃいます。

牧野成将(以下、牧野) 事業内容は、ハードウェア関連のスタートアップに対しての試作・量産化支援と投資を行っています。さらに京都市等と連携しながらモノづくりスタートアップコミュニティ(Kyoto Makers Garage)を構築し、起業家教育やモノづくり教育など幅広いサポートを行っています。


Monozukuri Ventures CEO 牧野成将

谷本 お二方にとっての京都の街は、スタートアップを形成するうえで、どのようなメリットがあったのでしょうか。

藤木 環境保全のような社会性の高い事業はすぐに結果が出にくく、時間がかかってしまいます。しかしどうしてもスタートアップには、スピード感が求められてしまうものです。その結果、どんなに社会的に価値があってもグロース速度的に生き残りづらいのが現実です。

その点京都は、“価値のあるものには時間がかかる”ということを理解してくれている街です。創業から2年は売り上げが立たず苦しかったのですが、行政が助成金などをきっちり出してくれたので生き残ることができました。1社あたりに行政がかけてくれる時間も格段に多いと思います。

そして精神的にしんどい時期でも、街を歩くと「藤木社長がんばりおし!」と声がかかる。街ぐるみで応援してもらっている感覚があるというのも私にとってはメリットでした。

牧野 私はもともと京都出身ではなく、京都に来てスタートアップを立ち上げたよそ者なので、余計にそうした街の温かみを感じてホッとしました。世間では、京都に排他的なイメージをもつ人も多いと思いますが、実際に飛び込んでみると、入り口は狭いけれど奥行きがすごく広いことがわかります。

京都では入り口が狭く、奥行きがある家の造りを「鰻の寝床」と言いますが、排他的というのはブランディングで、あまり多くの人が来てサービスレベルを維持できなくならないようにしているというのが真相ではないでしょうか。

京都が構築する、スタートアップにとって居心地のいいエコシステム


谷本 京都という街がもつエコシステムは、他地域とは明らかに違うのでしょうか。

牧野 京都で起業したとき、ある京都の経営者から「牛の涎のようなビジネスを目指しなさい」とアドバイスを受けました。つまり長くて切れそうだけれども途切れないことが大切だというのです。卓越した技術には熟成時間が必要で、続けること自体にすでに価値があるという京都ならではの考え方。企業価値を考えるときにも、長く続けているほうが偉いと考えるのが京都の人々なのです。

そして昔から、「同じことをするな」「他社とは違うことをせよ」という京都の美学があります。

革新的な技術を、たとえ時間がかかっても完成させたいと願うスタートアップにとって、まさにうってつけの土壌なのではないでしょうか。

藤木 新旧問わずに、“これはどうやって儲けるのだろう”と首をひねるユニークな企業が多いと感じます。他の地域ではすぐに消えてしまいそうな、いわゆる“ぶっ飛んだ”ベンチャーでも、個性を評価する京都では成立するのです。私も含め、とがった精神のままで事業を継続したい者にとって、京都の街はたいへん居心地がよいのです。

谷本 非常に長い歴史をもっている古都でありながら、革新的なスタートアップとの相性がよいというのは、意外です。

牧野 企業のトップの方々にお会いしても、「世界を見ろ。グローバルのマーケットで戦いなさい」と言われます。これはもともと京都だけでは市場が狭いということもあり、最初から外を見て起業するのが基本だったという歴史から来ているそうです。

藤木 私もよく「東京に進出しないの?」と聞かれるのですが、東京に出るくらいなら海外に進出したいと思います。周囲のスタートアップも同様にほとんどがグローバルを視野に事業を構築している人ばかりです。

牧野 環境と言えば、京都という狭い街の中だけでベンチャーキャピタルが10社以上存在するというのも珍しい。銀行などの金融機関も積極的ですから、資金調達面でも有利です。

さらに人材面での優位性もあります。数多くの大学が存在するので、街に人材候補の学生があふれているのです。何しろ京都は、人口当たりで学生がいちばん多い街ですから。各地のベンチャーが採用のために京都に事務所を構えることも、珍しくはないのです。

藤木 私も学生時代に大学のスタートアップ支援プログラムで評価を受けたことがきっかけで、教授などのアドバイスを受けながら、起業しました。京都のスタートアップ・シーンは、大学発も多いですし、在籍中に起業する学生も少なくない。さらに各スタートアップも学生を積極的に採用するので、スタートアップは学生を中心に動いていると言ってもいいのではと思います。



Forbes JAPAN Web編集部 編集長 谷本有香

京都発スタートアップのユニークネスが世界へ羽ばたく



谷本 優秀な人材が手の届く場所に数多くいる、というのは企業にとって非常に魅力的ですね。それでは最後にスタートアップ経営者へのメッセージをいただきたいと思います。

牧野 経験から言えるのは、京都で起業するのに京都出身である必要はないということです。現在、産学官、さらに金融も含めて街ぐるみで支援する「起業するなら京都」というプロジェクトも動き始めています。スタートアップのサポートに関しては、非常に恵まれた環境になっていると思います。

私は、モノづくりにはマニュファクチャリングという意味だけなく、組み合わせもあると考えています。伝統を支える熟練者による技術が、若き人材と出会うことで、新たな価値観を生み出すことも立派なモノづくりだと思うのです。イノベーティブな組み合わせが生じやすいというのも、京都の魅力ではないでしょうか。

藤木 私が思うのは、京都のスタートアップってみんな仲がいいということ。支え合いながら、助け合いながら、日々頑張っています。新しい仲間が増えるのは大歓迎です。どんどん来てほしいですね。

谷本 京都のスタートアップエコシステムならではの素晴らしさ、充実度がよくわかりました。何よりも皆が温かい目でスタートアップを見守り支えてくれる環境があるのは理想的ですね。だからこそ個性的で優秀なスタートアップが育っていくのだと感じました。

これから起業したい人はもちろん、他地域でのスタートアップで限界を感じている経営者など、京都の街のもつ可能性にぜひ、注目してもらいたいと思います。


まきの・なりまさ◎Monozukuri Ventures CEO。京都のVC、京都市のインキュベーションマネージャー、大阪のインキュベーション施設「GVH Osaka」の立ち上げなどを経て、2015年、MZVの前身・Darma Tech Labsを創業。

ふじき・しょうごろう◎大阪府立天王寺高校出身。2012年京都大学農学部卒業。17年に京都大学大学院博士号(農学)取得し、同年5月にバイオームを設立、代表取締役に就任。

Promoted by 一般社団法人 京都知恵産業創造の森 / text by Ryoichi Shimizu / edit by Akio Takashiro