毎年、優れたアントレプレナーを選出する国際的な祭典である「EY Entrepreneur Of The Year」(以下、EOY)。日本でも2001年度より「EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・ジャパン」が開始され、数多くのアントレプレナーが推挙されてきた。さらに、19年には歴代の受賞アントレプレナーのネットワークとして「EOY Japan Alumni」が発足。“社会を変えるアントレプレナーたちが集うコミュニティ”として機能してきた。その活動の一環として、Forbes JAPANはEY Japanとの共催により、オンラインセッションを開催した。
DXから見えてくる、組織や社会の課題
2021年6月19日、EOY Japan歴代受賞者の相互交流および第二回目となる定例会としてオンラインセッション「FUTURE JAPAN DEBATE」が開催された。モデレーターはForbes JAPAN Web編集長の谷本有香。ゲストにEOY Japan Alumniの会長であるクオンタムリープ代表取締役会長 ファウンダーの出井伸之氏と、EOYの選考委員を務める日本ベンチャー学会会長の各務茂夫氏を迎え、10数名の歴代受賞者たちがオンライン上に集った。
イベント会場の様子。左にEOY Japanリーダーの武藤太一氏、右にForbes JAPAN Web編集長の谷本
最初のアジェンダは「AI/DX時代の企業変革」。コロナ禍で企業の変革が加速するなか、DXを通してこの時代をどう乗り切るべきか、また、このDX時代をどう捉えているか、といった質問が谷本からゲストに投げかけられた。まず各務氏は、JINSが構築した眼鏡を事前にネットで予約できる仕組みやZOZOTOWNのZOZOSUITなどのサービス例を挙げ、テクノロジーを介在させ、駆使することでビジネスモデルをより価値の高いものに変えられるという点に言及。DXが単なるデジタル化ではなく、ビジネスモデルの変革や創出価値の最大化につながることを示唆した。
ゲストとして参加した日本ベンチャー学会会長 各務茂夫氏
この話を受け、これまでデジタル化が進んでこなかった医療や介護などの業界におけるDXの影響について議論が広がった。CYBERDYNEの山海嘉之氏は、医療分野における個人情報の取り扱いに関する独特のルールとそれらが変わろうとしている現状について言及。また、医療・介護に限らず建築業界にも業界固有のハードルが存在することにも触れた。すぐれたテクノロジーを開発しても、それらが実装されるために変えていくべき社会の規制は数多く存在するという。
2010年受賞のCYBERDYNE 山海嘉之氏。障がいをお持ちの方が描いた作品を背景に
さらに、出井氏から「日本の社会はまったくアナログ、縦割り社会。プロセスの部分的なデジタル化では意味がなく、根本的な解決策を講じないといけない」と問題提起がされると、議論は会社の組織づくりへと発展した。
縦割りではない組織づくりの事例として、「ティール組織」を実践し、社員の役職を排除したフラットな体制をつくりあげたネットプロテクションズの柴田 紳氏は、そのメリットを挙げる。体制づくりとともに、社員への権限委譲やナレッジマネジメントも進めることで、デジタルネイティブである若手の能力を最大限に引き出すほか、適切な現場判断が下せる仕組みになっており、結果として事業活動のスピードも上がっていると話した。
2017年受賞のネットプロテクションズ 柴田 紳氏
この話を受け、Looopの中村創一郎氏からは、企業規模を拡大させ、組織を整えていく過程で、どうしても会社が縦割り化してしまうというジレンマが語られた。それに対し出井氏や各務氏からアドバイスが贈られたほか、各経営者の実体験に基づいたエピソードや自社の状況などが語られ、経営者同士の課題や問題意識が共有される場となった。
「地方分権」こそ、アントレプレナーたちの使命
続いてのテーマは「日本の『地域性』が持つポテンシャル」について。冒頭では出井氏から、国や企業が取り組むべき二つの論点が提示された。一つは、東京一極集中を緩和し、地方の伝統や文化などの魅力が発揮されるような地方分権の推進である。そして二つ目は、日本という地域の海外展開である。ビジネスの取引量は距離に反比例するという考えから、アジアに販路を拡大していくのが得策であると語った。この国内と海外の視点をもつ二重戦略が、以降の議題となった。
クオンタムリープ代表取締役会長 ファウンダー 出井伸之氏
まず地方分権というテーマにおいて、ソーシャルビジネスパートナーズの山崎伸治氏から地域での事業創出におけるポイントが挙げられた。地方では当たり前になっている文化などの魅力に気づく「外部の血」が役立つこと、初動段階では首長が声をかけトップダウンで進める必要があること、リスクマネーをどう生み出すかが鍵になること、などが実体験に基づいて語られた。
2005年受賞のソーシャルビジネスパートナーズ 山崎伸治氏
これを受け、エアウィーヴの高岡本州氏は、京都を例に挙げる。京都では経済界の横のつながりによって、助け合う文化とコミュニティが育まれ、その安心感や連帯感から、それぞれがユニークな事業に取り組める環境がつくられている。地方においては、こうしたコミュニティを通じて企業同士の師弟関係やインキュベーションの仕組みを構築していくことが、地域経済活性化のひとつの方法になるのではないかと語られた。
2016年日本代表のエアウィーヴ 高岡本州氏
さらに、サンクゼールの久世良太氏は地方の特産物や食品における販路の分散化について言及。コロナ禍に人の行き来が減ったことでダメージを受けた地方の生産者には、ECの活用を勧めたいと話した。まだEC化率の低い食品分野は、これからECで伸びていく分野で、手軽に贈れるギフトとしての需要も高まっている。このように販路を拡大していることが、地方産業のリスク回避と成長につながるのではないか、と自身の知見を活かし提案した。
2015年受賞のサンクゼール 久世良太氏
最後に各務氏が、地方のアントンプレナーと首長がタッグを組み事業を“興す”ことが重要であるとコメントを寄せ、大学などの知の拠点とも連携し事業化するというロールモデルが立ち上がりつつあることに対する期待で締め括られた。
世界と対等に渡り合えるビジネス展開に必要なものとは
続いて、議論は本テーマの二点目のアジェンダである「日本という地域性をいかに世界に持っていくか」という点に発展。日本のビジネスを世界に売り込むにはどうすべきなのか、というテーマで議論が進んだ。
高岡氏は、日本の品質の良さはブランドとして確立されているが、日本流の売り方は海外では通じないという点を挙げ、海外の市場を知ることの重要性について触れた。一方、中村氏は、そもそも日本で満足するのか、世界を見据えるのか、という経営判断が起業の段階から必要なのではないか、と疑問を提起。先輩であるアントレプレナーたちから、自身の実績や体験に基づく示唆に富んだアドバイスが贈られた。
議論の余地を残しつつ、今回のセッションは終了の時間を迎えた。最後にゲストコメンテーターである各務氏は、アントレプレナーである参加者に対し、これからの日本の経済の中軸を担っていってほしい、と期待と激励の言葉を贈った。出井氏からは、あらためて目標を持つことの重要性や多様性あふれる仲間づくりの大切さ、そして日本全体で成長を目指す必要性が語られた。
「目標さえ決まれば成功する方法はたくさんある」。出井氏からの、厳しくも温かいメッセージの数々は、これからを担うアントレプレナーたちの背中を強く押したに違いない。
魅力的なアントレプレナーたちが集う
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