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2021.05.21

【L&UX2021スピンオフセッション】誰ひとり取り残さない「UX×テック」が地域の社会課題解決を加速する

ビービット 執行役員CCO 兼 東アジア営業責任者 藤井保文 Forbes JAPAN web編集部編集長 谷本有香 一般社団法人 コード・フォー・ジャパン 代表理事 関治之

累計15万部を突破した『アフターデジタル』シリーズの著者、ビービットCCO藤井保文が企画した世界最先端のUX・DXオンラインフェス「L&UX2021」。国内外のリーダーたちが集結し、生の声がぶつかり合う10のセッションが展開される。今回は、そのダイナミズムを“誌上再現”してみた。

貴重なスピンアウト企画に参加したのは、日本のシビックテックを牽引してきたCode for Japanの関治之と藤井保文。Forbes Japan Web編集長の谷本有香がモデレーターを務め、「UX×テック」が今後の社会でどのようなムーブメントを巻き起こすかを探った。


地域ごとに異なる文化に合わせたUXが求められる


谷本有香(以下、谷本):コロナ禍の影響もあり、デジタルシフトは加速しています。一方で、デジタル化するだけでは体験価値が高まるともいえません。そのあたりはどう捉えるべきなのか、まず藤井さんに解説をお願いします。

藤井保文(以下、藤井):デジタルシフトの加速によって、UXの向上にたどり着きやすくなったのは確かでしょう。ただし、アプローチの順番を間違えると、かえって遠回りしてしまうかもしれません。DXブームでよく見られるように、「AIをどう使えばいいか」「どの業務を効率化するか」といった起点から話を始めてしまうとそうなってしまいます。重要なのは、どんな体験価値をユーザーにしてもらいたいのか、というところから考えることです。

谷本:藤井さんは中国をはじめ多数の国の現状をご覧になっていますが、国や地域によってそのアプローチの方法やもつべき視点は変わってくるのでしょうか。

藤井:当然、各国とも環境や置かれている状況が異なりますので、求められる社会発展の方向性が違うのはすごく見えてきますね。エストニアは国家戦略として電子国家を目指していますし、東南アジアや中国は、脆弱だった社会インフラを整備する必要がありました。

そう考えると、日本に同じアプローチが必要とは言い切れないわけです。ある程度しっかりとインフラが整っていて、特に身銭を切って解決したいペインポイントがあるわけでもないと仮定すると、「UX×テック」の社会実装のあり方として、自己実現というか「こういうライフスタイルを求めたい」というニーズへの支援を充実させることが日本ではもとめられるのかもしれません。


ビービット 執行役員CCO 兼 東アジア営業責任者 藤井保文

谷本:非常に興味深い仮説です。関さんは、地域住民自身がテクノロジーを活用して地域課題を解決する「シビック・テック」を牽引してこられましたが、この点についてどうお考えでしょうか。

関治之(以下、関):僕たちCode for Japanは、市民・企業・自治体(行政)の三者がそれぞれの立場を超え、さまざまな人たちと「ともに考え、ともにつくる」社会の実現を目指しています。「依存ではなく、共創を。」と表現していますが、まさにいま藤井さんがおっしゃったように、各地域の人たちが「どうありたいか」を主体的に考え、それを自治体に要望するだけでなく手を動かしてともにつくっていきましょう、という取り組みなんです。

というのは、日本の自治体はとても多くて、1,700もあるんです。今後、人口が減っていくにつれて合併も進んでいくでしょうが、トップダウンでやり方を押し付けていくのは合わないだろうと考えています。なぜなら、各地を見ていてわかりますが、やはり地域ごとに文化がまったく異なるからです。それぞれが50年後、100年後を見据えてどうありたいかを主体的に考えることが非常に重要で、そのためにテクノロジーをうまく使いたいと思っています。


一般社団法人 コード・フォー・ジャパン 代表理事 関治之

シビック・テックのUX基盤は、確かな民意の反映


谷本:未来を見据えて、自分たちの街や地域がどうありたいかを主体的に考えられるようになるには、どのようなテクノロジーの使い方をすればいいのでしょうか。

:最近各地でちょっとしたトレンドとなっているのが「Wikipediaタウン」です。街歩きをしながら収集した地域の歴史や情報をWikipediaに反映していくんです。そうすると、普段歩いている道が、実は小さな船で物を運んでいたところみたいなことを知って、いわゆるシビックプライドが増えていくんですよ。そうしたプロセスを経て生み出すアイデアは、当然変わってきます。

谷本:地域の課題解決というと、スマートシティや自動運転といったキーワードが浮かびますが、暮らす立場とすれば、少し取り組みが大きくて身近に感じにくいかもしれません。例えばゴミ収集日や除雪車位置情報を知らせてくれるアプリのほうがわかりやすいですが、「Wikipediaタウン」を通じてシビックプライドを醸成することは、何が地域に住んでいる自分たちのUXにつながるかを適切に選択できるスキルを養うことにもつながりそうです。

:おっしゃるとおり、地域ごとに適切な選択するのは非常に重要です。極端に言えば、主体的に考えた結果「うちの町は自動運転いらないです」となってもいいと思うんです。そうした将来の姿を「見える化」していくためには、適切に選択できるだけでなく、フラットに意見が言い合える環境を整えることも欠かせません。その取り組みのひとつとして、その場にいなくてもスマホから意見が言える仕組みとして、バルセロナやヘルシンキで使われている「Decidim(ディシディム)」という市民参加型合意形成プラットフォームを取り入れています。

最近、よく僕たちは「DIY都市をつくろう」と言っているんです。課題を自分たちで解決できる町のことで、例えば「学校の教育をもっとよくしたい」というときも、政府に要望を出すより、自分たちで話し合って変えていけたほうがいいですよね。「おばあちゃんを簡単に病院に連れていくシステムをつくりたい」「ちょっと近所までドローンで物を運びたい」といったヒューマンスケールでテクノロジーを活用し、便利にすることで「この地域にいてよかった」と住む人たちが思えるような活動がどんどん生まれる未来になればいいと思っています。

藤井:シビック・テックでは、民意がちゃんと反映されることが、UXの基盤となってくると思うんです。テクノロジーと絡めると、使いやすさをつい考えがちですが、UXに必要なのは使いやすさだけではありませんので。特に、住民としてのUXとなると、どういう生活をするのか、誰とどうつながるのかもすべて含まれてきます。それこそ、「あのコミュニティには入りたくない」といった感覚もあるでしょうから。

谷本有香 Forbes JAPAN web編集部編集長

テクノロジーが、マイノリティの声にスポットを当てる


谷本:関さんが挙げた市民参加型合意形成プラットフォーム「Decidim」は、一人ひとりの困りごとや願いを集めつつ、藤井さんが指摘するような問題は避けられそうな気がしますが、いかがでしょうか。

:兵庫県の加古川市で面白い事例があります。「Decidim」を2020年10月からスタートし、スマートシティ戦略について市民のみなさんに意見を求めたんです。そうしたら、アクセスの6割はスマホからで、半分くらいが10代だったんですよ。非常に熱心な高校の先生が授業やワークショップで取り上げた影響も大きいのですが、26万人もの人口がいる市の今後の重要な戦略に、高校生が主体的な意見を出してくる社会はこれまでになかったですよね。

いままで、もっと小さな地域コミュニティでも、全員の合意が得られたように見えてそうでもなかったんです。実質的には、町内会で中心になっている人や、票数に影響のある人などが決めているケースがほとんどで、マイノリティや若者の声は反映されてきませんでした。それこそ、藤井さんのおっしゃるような状況もあると思います。

その意味でも、高校生が自由に意見を発する「Decidim」には可能性があると感じましたし、高校生たちの意見に刺激されて、大人たちがかなりレベルの高いコメントを引き出されていたのも印象的でした。より具体的なディスカッションも広がって、これはやはりテクノロジーがないと実現しなかった光景だと思いました。

藤井:非常に面白いですね。そうやって「UX×テック」を社会に実装することで、一人ひとりが主体的に考え、困りごとや願いごとを伝えていけるようになると、ビジネスがそうであるように行政側の努力が自然に生まれてくると思います。そうすると、「どこに住もうか」と考えたとき、自分の主体的な意見が反映された街に住みたいと思うようになりますね。

谷本:テクノロジーがコミュニティのあり方を変えていく、コミュニティを自由にしていく感覚ですね。

藤井:実は、すでにそういう芽は出てきています。オンラインのコミュニティってそうじゃないですか。オンラインとオフラインが融合して一緒になるこれからの時代は、できることも変わりますし、ステークホルダーがこれまでと比べものにならないくらい多いですから、どのように運用して現実の社会にどう適切に生かしていくかを、これからは重要な論点にしていかなければならないと思います。



『おのずから』と『みずから』のあわい」が示すもの


谷本:シビック・テックは、危機が訪れたときに力を発揮するというイメージがあります。Code for Japanも、東日本大震災や今回のコロナ禍で大きな社会貢献をされていますが、こうやってお二人の話を聞くと、危機だけでなく、市民一人ひとりのUXを向上させていくのにシビック・テックが欠かせないものになっていくことがわかります。ただ、ひとつ気になるのは、面倒がる人や、時代の変遷についていけなくて取り残されてしまう人のことです。

:確かに、すべての人を取り残さないようにするのは大変です。例えば街づくりのなかで、ホームレスの人たちの意見を集めようとしたら、相当アウトリーチしていかないといけませんから。やはり行政側が、意見を集める際に多様性確保を意識したルール設定をする必要があります。台湾政府の合意形成プラットフォームvTaiwanは、多様性が意見の中でいかに反映されているかを可視化していますし、国民参加プロセスを促進する「Participation Officers Network」は、各省庁に担当をつけ、会議の動画をライブストリーミングしたり、文字起こししたものを公開したりして、意見の多様性を確保する仕組みを整えています。

テクノロジーを使うだけでなく、統治のあり方自体も変えなければいけないということです。それこそUXありきで、多くの人の困りごとや、願いごとを集めなければなりませんから、行政が人材に役割を割り振ったうえで、多様な人の意見を集められる環境を整える必要があります。

民主主義は、コストも手間もかかるんですよ。行政側はしっかり取り組むべきですし、市民も面倒がらず対応しなくてはいけないので、そんなにすぐうまくいくものではないです。台湾でも、シビックテックコミュニティが盛り上がってはいますけれどもまだ参加者は1万人程度です。それでもかなり変化が見られますが。

谷本:政党や政治家にしばられず、政策ごとに市民が判断する「リキッド・デモクラシー(液体民主主義)」の実現も、テクノロジーが可能にすると言われています。

:そうですね。リキッド・デモクラシーは、知識と興味をもつ分野には積極的に議論へ参加し、それほど知見がない分野では信頼できる人に投票券を移譲するといった柔軟な政治参加を可能にする考え方です。データ管理でも、情報銀行のように「ここは守るけど、ここは誰かに任せる」という考え方が出てきていますが、地域の社会課題を解決しようというときにも、同じような取り組みが通用するでしょう。

藤井:『アフターデジタル』に盛り込まなかったアウトテイクがありまして、それは倫理学者の竹内整一さんがおっしゃっている「『おのずから』と『みずから』のあわい」から着想したんです。『おのずから』は水が上から下へ流れるような、自分ではコントロールできない不可抗・不可避の動き。『みずから』は、自分の意思です。「あわい」は竹内さんの言葉ですが、「間」をあえてひらがなにしているんです。ひらがなにしているのは、「淡い」というグラデーションのニュアンスも込めてのことだと勝手に解釈しています。

何が言いたいかというと、これは、オンラインで広くいろいろな人とつながれる様子を表していると思うんです。これまで地縁しかなかったのが、インターネットの普及によって、好きなものや共通の考え方をもっている人とどこでもつながれるようになっています。単純に選択肢が広がったわけですが、面倒もあります。そのあたりのバランスが、『おのずから』と『みずから』のあわい」であって、アフターデジタルの時代は、自分がどこでどこまで関わるか、逆に何をどこまで人に委ねるかといった部分を柔軟に決められるようにしなければならないはずです。「UX×テック」を社会実装することで、その選択が煩わしいものではなく、自由に決められるようになればいいなと思いました。

谷本:国内外のグローバルリーダーが議論する「L&UX2021」では、その道筋が見えてくる祭典になると期待しています。その歴史的な瞬間を、私もご一緒に目撃したいと思います。本日は、どうもありがとうございました。

L&UX2021(Liberty and UX Intelligence)
https://liberty-ux.com/


藤井保文(ふじい・やすふみ)◎1984年大阪府生まれ。東京大学大学院修了。上海・台北・東京を拠点に活動。国内外のUX思想を探究し、実践者として企業・政府へのアドバイザリーに取り組む。著作『アフターデジタル』シリーズは累計15万部を突破。AIやスマートシティ、メディアや文化の専門家とも意見を交わし、新しい人と社会の在り方を模索し続けている。2021年5月、UXの有識者が世界中から参加するオンラインカンファレンス「L&UX2021」を開催。

関治之(せき・はるゆき)◎1975年生まれ。20歳よりSEとしてシステム開発に従事。2011年3月、東日本大震災発生のわずか4時間後に震災情報収集サイト「sinsai.info」を立ち上げる。被災地での情報ボランティア活動をきっかけに、住民コミュニティとテクノロジーの力で地域課題を解決する「シビックテック」に可能性を感じ、13年に一般社団法人コード・フォー・ジャパンを設立、代表理事を務める。

Promoted by ビービット / 文=高橋秀和 / 写真=後藤秀二/ 編集=高城昭夫

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