「多様性」をテーマに、三井物産のリアルな姿を届けるセミナー2日目である今回。人事総務部で採用担当を務める一筆(いっぴつ)亜紀子氏がモデレーターを務め、ヘルスケアプロジェクトに部門を越えて関わる3名の社員に話を聞いた。
実はスピーカーの3名は全員がキャリア入社。総合商社といえば“新卒純血主義”とも思われそうだが、実際には年間採用者数の約3割を中途採用が占めている。
さて、色とりどりの経歴とバックグラウンドをもつ3名の言葉から、三井物産の多様性が輝くカルチャーを紐解いていこう。
コンサルからシャープを経て、ここで事業創造を
モデレーターの一筆氏は、スピーカー3名にまず入社の決め手を尋ねた。
2016年5月に入社し、コーポレートディベロップメント本部総合力推進部ビジネスコンサルティング室長を務める畠山幹敏。新卒でA.T.カーニーに入社し、約9年プロジェクトマネージャーを務めた。その後、シャープでアライアンス業務や米国子会社のCFOなどに従事した経歴を持つ。
畠山氏は前職・前々職で総合商社と付き合う中で、中心プレーヤーとしてスケールの大きな事業をつくる醍醐味は総合商社ならではと考えた。
「プロダクトアウト型の大規模な事業創造が限界を迎えつつある中、総合商社は業界の枠組みを超えてダイナミックに絵を描くことができる。企業や政府を有機的に連携させ、世に価値を創出する主導的な役割を果たせると感じたのです」(畠山)
「ヘルスケアプロジェクトがやりたい」という思いでBCGを飛び出す
ウェルネス事業本部ヘルスケア事業部医療事業第一室に所属する佐野元子は2020年5月に入社。この春からは、関係会社への出向に伴い、シンガポールに駐在予定だ。
入社以前は15年来、医療現場でオペレーション業務・経営改善を担ってきた。千葉県にある亀田総合病院からシンガポールの病院へ、さらにボストンコンサルティングではヘルスケア事業専門のコンサルタントを務めた。
「畠山さんと違い、私はもともと商社についてほとんど知りませんでした。ただ医療業界の目線でニュース等を見ていたら、三井物産が東南アジアのヘルスケアプロジェクトに注力しているのが自然と目にとまったんです。事業が伸びていく可能性を感じて、そこに関わりたいと思ったのが志望した理由ですね」(佐野)
メルカリで得意分野を増やし、ここでキャリアを骨太に
フィナンシャルマネジメント第四部ウェルネス事業FM(フィナンシャルマネジメント)室に所属する呉(ウ)天牧は生まれも育ちも中国の上海。日本の大学院を修了後、EYへ就職した。
EYでは製造業の監査業務、アメリカ駐在中はベンチャー企業の監査業務を経て、メルカリへ。IPO業務や会計システム開発のプロジェクトオーナーを担当した。
「監査という専門領域からメルカリに転職したのは、『非』の字のように財務、会計という太い2軸に細い得意分野をたくさん増やしていきたいと思ったからです。想定どおり幅広く経験させていただきましたが、逆に広げ過ぎて、繋がりが明確でない浅い知識も増えたことで自分の軸がなくなっていく感覚があって。
今度は分野を絞り『田』の字のように全て太い線で繋がっている骨太なキャリアを形成したいと思うようになり2019年に三井物産へ入社しました」(呉)
各部門が前線に赴く覚悟をもつ
さて経歴の全く違う3名は、ヘルスケアプロジェクトに、どのように関わっているのだろうか。まずはプロジェクトについて簡単に説明したい。
※外来患者数は2018年末時点、入院患者数は2019年末時点のデータ
三井物産は2011年に、アジア最大手の民間病院グループIHHへ出資を行なった。同社を核としたヘルスケアエコシステムの構築を目指すためだ。役員の差し入れや出向者派遣等による経営参画を通じ、事業基盤の強化を支援。2019年の追加出資で、三井物産はIHHの筆頭株主となり、事業拡大に向けた主導的な立場を担っている。
「事業部門の一員として、IHHに出向中の三井物産社員と共に、病院のオペレーションや経営改善、社内稟議のサポート等を行なっています」(佐野)
近年M&Aで拡大してきたIHHに集う人々や取締役会を取りまとめ、全体最適を担う立場として組織をガイドするのは大きな責任が伴う。だからこそ「筆頭株主としての立場で言うべきことをきちんと言うための準備は多岐にわたります。侃々諤々の議論を前に進めるには、事前の情報収集や根回し、現場の地ならしも私たちの仕事です」と佐野は言う。
左から、佐野元子氏・呉(ウ)天牧氏・畠山幹敏氏
商社としてもつ情報や、他社とのつなぎ込みなど、病院側に期待される部分も果たすために事業部門は奔走する。
一方、畠山氏が室長を務めるビジネスコンサルティング室は、三井物産のグループ会社や事業部の企業価値向上に取り組む、インハウスの経営支援部隊だ。ヘルスケアプロジェクトにおいては、IHHの持株会社へ同部からも社員を出向させるなど、コミットメント度合いも事業部同様に強い。
「コンサルティングと部署名についてはいますが、綺麗な絵を描くだけでは全く意味がありません。IHHの企業価値を真に上げることが我々の存在価値。だからこそ各業界の専門知識を持つ事業部と連携を密にとり、各施策の実行と効果実現まで寄り添います」
そして呉氏が所属するヘルスケア・サービス事業FM室は、事業部とコーポレートの間のミドルオフィスとしてリスク管理や決算業務を行う。事業部に近い立場での業務もあり、例えば、IHH内で新しい会社を作る場合のスキームづくりも支援する。
「自分は事業部なのじゃないかと思うぐらい、連携はシームレスですね。必要あれば我々が現場に行くことも、一歩引いて株主の視点での進言もできる」(呉)
アジアを股にかける巨大なプロジェクト。フロントラインである事業部を、コンサルティング室とFM室がバックアップし、さらに共に前線へ赴く。三井物産の各部門の連携、それは知識とノウハウを持った多様な人材それぞれの自信と覚悟でなされるものだった。
「総合商社」のイメージは過去のものに
パネルディスカッションは進み、ここからは三井物産の多様性推進がテーマだ。
同社には幅広い年代の社員が在籍しており、それぞれが様々なライフステージを経験している。社員の生活を支える制度は整っていて、内部からは「安心感がある」という声も多い。三井物産の多様性について、3名の実際の印象はどうなのだろうか。
「IHHは世界10か国に展開していることもあって、今日はマレーシア、明日はシンガポールの人たちと話すという環境がごく当たり前という感じですね」(佐野)
さらにジェンダーがキャリアパスを阻害することなく女性が活躍しているのは日常風景。キャリア入社かどうかを意識し合うこともないという。“新卒入社の男性社員だけが活躍する”そんな総合商社のイメージはすでに遠い昔のものとして今は存在しない。
メガベンチャーであるメルカリから転職してきた呉氏。「入社して、『総合商社』のイメージと違うことに驚きました。スーツにネクタイは必須ではないですし、働き方も育児との兼ね合いでフレキシブルに調整ができて。多様な働き方を受け入れる点ではベンチャーと引けを取らないと思います」と語った。
多様性を生かすも殺すも現場次第。畠山氏は自身の部署を「めちゃくちゃフラット」と笑う。イントラ上の社員連絡先は通常役職順に名前が並ぶが、同部では役職関係なしの五十音順を採用している。それは各自が多様なプロ人材で、様々な能力を持ち寄って一つのプロジェクトを成し遂げていくチームだと思っているから。
これに対して呉氏が「すごくいい話ですね」と声を上げた。
「今日の会が終わったら、うちの部署にも電話帳について提案してみようと思います。フットワークの軽さは三井物産ならでは。『こういうのどうかな』と気軽に提案できますし、すぐにリアクションがあります。明日にでも変わっているかもしれません」(呉)
自身が感じる三井物産の多様性について語る佐野氏
経験は三井物産で積めばいい
三井物産を志望する候補者のなかには「十分すぎる経験を積まないと商社には入れない」と思っている人がいるかもしれない。
「入社して唯一使えたのは、国際会計基準の知識くらい。それ以外は一から学ぶ必要がありました。大事なのは入社時に持っている知見よりも、社内にある良質な資料に触れ、いち早く新しい知識をキャッチアップしていくことです」(呉)
「事業部の場合も、いままでの経験や成功体験に縛られすぎるのは逆に良くない」と佐野氏。
ゼロイチで事業を見つけにいくような本人のマインドと、学びへの姿勢が大事なのだ。組織としてもナレッジシェアは全社的な風土として浸透しており、いい意味での“おせっかい”が日常的だという。
最後に、各部署が求める人物像を聞いてみた。三者が口をそろえたのは「自分なりの意見を持っているか」。
三井物産がキャリア採用を行うのは、多様な価値観を持った人材に化学変化を起こしてほしいと考えているからだ。そのため、組織に迎合するよりも「自分の考えをもつ」ことが良しとされ、会議では誰しもが意見を求められる。
多角的にビジネスを展開している三井物産において、多様な価値観と思考回路が社内に存在すること自体が価値。だからこそ、これまでの経験でつくり上げたありのままの自分で、飛び込んできてほしいと考えている。
畠山氏は「他でもっと経験を積んでから当社にアプライを......と考えるなら、むしろ当社で経験を積めばいい。仮に途中でやりたいことが変わっても、三井物産ならチャレンジの場所は多様にある」と付け加えた。この言葉に多くのセミナー視聴者が背中を押されたのではないだろうか。
目の前のことを極めていこうとする意志ある方に、まずは一歩を踏み出すことを三井物産の面々は望んでいる。