世界のアントレプレナーの登竜門、聖地としての「EOY」
武藤太一(以下、武藤):アントレプレナーは新たな商品、新たな価値、新たな雇用を生み出す貴重な存在です。ビジネスが伸長する過程において、社会的な課題を解決していく存在でもあります。「火中の栗を拾う」かのようなリスクを取ってでも社会に貢献しようとするアントレプレナーは、日本にも、世界にも数多くいます。そういったアントレプレナーたちの熱い想い・姿勢・行動。これらを広くお披露目して、称えていきたいという考えから、「EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー(以下、EOY)」は1986年に米国で創設。日本でのEOYは2001年に開始しました。
谷本有香(以下、谷本):毎年、モナコで開催される世界大会に先駆けて、約60カ国の代表を決める大会が行われていますね。日本代表を選出する「EOY Japan」において、私は16年から選考委員の席に着かせていただいています。ここで、EOYの成り立ちについて改めて教えていただけますか。
武藤:世界大会が始まったのは01年からですが、もともとはアメリカで80年代にスタートしています。起業家精神が旺盛なアメリカにおいて、過去にはAmazonのジェフ・ベゾスやGoogleのラリー・ペイジも受賞しています。日本大会の「EOY Japan」は、世界大会と同じタイミングで始動しています。
米国では2003年にラリー・ペイジ氏、1997年にはジェフ・ベゾス氏も受賞(Getty images)
谷本:世界一のアントレプレナーを決定する場所として、モナコには完璧な舞台装置が整っていると感じています。そこに集まる各国の代表に話を聞くと、「事業で社会に貢献しよう」という起業家精神や己の中の自信や確信といったものを、改めて研ぎ澄ませてから母国に帰っていく様子がうかがえます。もはや、EOYという仕組みそのものが「アントレプレナーの聖地」になり得ていますし、これからもそうであり続けるでしょう。
日本代表がモナコの世界大会へ (左上)2018年受賞の大創 矢野氏(右上)2017年受賞のティーケーピー 河野氏(左下)エアウィーヴ 高岡氏(右下)東海メディカルプロダクツ 筒井氏
武藤:4日間にわたって開催される世界大会は、各国の代表がお互いを称え合う空気感に満ち溢れていますね。国や事業領域などさまざまな環境の違いを越えて、同じアントレプレナーとしてリスペクトする気持ちがあるのだと感じています。歴代の日本代表のアントレプレナーも「世界のフロントランナーたちの刺激的なアイデアに触れ、世界戦略のヒントになった」「世界が身近に感じられるようになった」と語るなど、多大なる刺激を受けて帰国しているようです。モナコで他国のアントレプレナーと意気投合し、合弁会社を立ち上げたという事例も過去にはありました。
「EOY Japan」は、アントレプレナーの熱量で成り立っている
武藤:私は14年の秋に上司から「EOYを担当しないか」と声をかけられて以来、この国際的な表彰制度にかかわってきました。01年にスタートしてからのさまざまなレガシーが、「EOY Japan」にも積み重なっています。アントレプレナーを推薦してくださった方々、受賞された方々、そして選考委員長であった出井伸之さんをはじめとする選考委員の方々など、EOYを愛し、支えてくださっている皆さまのお力添えのおかげで、これまで走り続けることができました。
谷本:EOYに携わる前と後で、武藤さんご自身の中では何か意識の変化のようなものはありましたでしょうか。
武藤:経営者の方々とお話しする際に、なかなか本音を聞くことは難しいものだと思います。ですが、「EOY 2020 Japan」で受賞された全国のアントレプレナーのもとに選考インタビューやForbes JAPANの取材などで、お話を直接うかがっていると、「素の自分から発せられるゴツゴツとした想い、ギラギラとした情熱」に触れることができました。
そういった経験により、経営者に対する私自身の考え方、企業経営に対する見方も年を重ねるごとに新たなものになっています。おかげで世の中の見え方までも変わり、企業を監査する姿勢も変わっていったと認識しています。「経営者の想いが従業員に伝播し、共感を得て、ビジネスの成功へとつながる」「人こそ企業の礎である」ということをあらためて学ばせていただきました。私個人としても、経営者の熱量から勇気や元気をもらっています。
EY Japanシニアパートナーの武藤太一
谷本:私が「EOY Japan」に選考委員としてかかわらせていただくのは、20年が5回目となりました。僭越ながら、これまでにも各種のビジネスアワードにおいて審査や選考の仕事をしてきましたが、EOYこそ、まさに最高峰の賞であると実感しています。私を含め、選考委員たちは「EOY Japan」における選考を「日本一を決めるのではなく、世界一を決めるためのもの」と捉えています。この重みは他ではなかなか味わえないものであり、気持ちが引き締まります。
「EOY 2020 Japan」を受賞したオイシックス・ラ・大地の高島さんは、世界に伍して戦っていけます。オーガニック野菜やミールキットなど安心・安全に配慮した食品のECは、利益を生むビジネスモデルとしても、社会に貢献しようとするアントレプレナーシップとしてもグローバルアジェンダになり得るものです。
また、「EOY Japan」ならではの特長を挙げるとするなら、「出場者と主催者」もしくは「出場者と選考委員」の距離感が他とはまったく違うところです。主催者と選考委員は「出場者に寄り添って一緒に世界を目指す」という哲学を共有していますよね。すなわち、「EOY Japan」では「主催者と選考委員と出場者」の全員が同じ目線で並んでいて、そのフラットな関係性が心地いいのです。毎年、私は「EOY Japan」の開催を心から楽しみにしています。これは、他の選考委員の方々もおっしゃっていることです。
武藤:これまで選考をしてこられたなかで、谷本さんには、どのような気づきがありましたか。
谷本:ビジネスモデルのコンテストであれば、「売れている」とか「これからスケールしそう」といった基準でピンを打ち、ジャッジします。ところが「EOY」は、アントレプレナーのコンテストです。人間を観て、そこにジャッジを入れていきます。ビジネスはアントレプレナーの大きな志があって始まるわけですが、そうした「起業の原点」を観させていただくときには、いまの経営者に必要とされている「日本らしい感性」「世界において勝てる資質」といったものにも気づかされます。先ほど、武藤さんも言われましたが、私も経営者の熱量から勇気や元気をもらっています。
武藤:企業が新たな成長、次なるステージへと向かう際には「起業の原点に立ち返る」と語る経営者が多いと感じています。「原点を見つめ直したときに闘志が湧いてきた」という意味合いの言葉を、これまでに「EOY Japan」で何度も聞いてきました。これは、ジャッジする方々が出場者に対して、「起業の原点」についての問いを投げかけているからですよね。混迷の時代においては、自らの原点を忘れないことがとても重要ではないかと私も思います。
Forbes JAPAN Web編集長 谷本有香
「EOY Japan Alumni」は、いまこそ必要な交流の場
谷本:「EOY Japan」が優れたロールモデルを称えることによって勇気づけられているのは、「主催者」と「選考委員」だけではありませんよね。「ファイナリストとして受賞されたアントレプレナーたち」も、お互いがお互いの存在に勇気を与え合っているのではないでしょうか。
武藤:その意味においては、「EOY Japan」を受賞してきたアントレプレナーたちのコミュニティをつくり、お互いが刺激し合い、また新たな化学反応が生まれるとしたら、本当に意義深いですね。この化学反応をダイナミックに生み出すことを目的として19年に発足したのが、歴代のすべての受賞アントレプレナーのネックワーク「EOY Japan Alumni」です。
谷本:「業種や世代を越えたアントレプレナーのプラットフォームとして、ビジネスの成長や新たな価値創出のきっかけとなる交流を生み出す場」。このコンセプトが素晴らしいですよね。
武藤:COVID-19の影響下では開催方法に制限もかかりますが、これからリアルな場とWEBを有機的に組み合わせながら、アントレプレナーの方々にとって魅力的な交流やセッションが行えるようにしていきたいと思案しています。この場所から何かポジティブな変化が創出されることによって、世の中がよりよくなってほしい。そう願っています。この「EOY Japan Alumni」には選考委員の皆さまにもかかわっていただけたらと考えていますので、どうか谷本さんもお力添えください。
谷本:もちろんです。私自身もアントレプレナーの皆さまとさまざまな交流ができることを楽しみにしています。業界を越えてつながり合いながら、新価値だけでなく、新領域をつくっていくべき時代を迎えたいま、「EOY Japan Alumni」のような場所こそ求められていると思います。新価値、新領域が生み出される瞬間に立ち会えるのではないかと、私も期待しているところです。
▼EOY Japan Alumni|Session1 Movie
日本企業が未来に向けてイノベーションを起こしていくには?—出井伸之氏からのメッセージ
EOY Japan Alumniの記念すべき初回のセッションは、EOY 2020 Japanセレモニーの開催に合わせ、2020年12月4日に実施された。セッションでは出井伸之氏からのメッセージのほか、歴代受賞者のお悩みや質問に冨山和彦氏が応えるグループセッションも行われ、白熱した議論が交わされた。
▼Forbes JAPAN・EY Japan 特設ページ
>>EY Entrepreneur Of The Year 2020 Japan
EOY 2020 Japan 受賞者11名のインタビュー記事を公開しています
>>EOY Japan Alumni
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