コロナ禍でも歩みを止めず、グローバル展開を志す未来志向なスタートアップの存在、日本経済のキーパーソンとなるために必要な素養とは一体何か。
海外にビジネスを展開したい場合、現地スタッフの採用、ビジネスパートナーの獲得といった人的問題や、言語をはじめとする現地文化に沿ったローカライズ、資金調達といった課題が考えられるだろう。
コロナ禍において海外との自由な往来が制限される中、海外進出を推し進めるには今何をすべきなのか。日本貿易振興機構(ジェトロ)とForbes JAPANは、「グローバル展開の極意、必要なスタートアップ・エコシステムとは」というテーマでオンラインイベントを開催した。
イベント参加者は若きスタートアップ経営者たち。そして、彼らの指南役としてすでに複数国でグローバル展開しているC Channel代表取締役社長の森川亮と、ライフイズテック代表取締役CEOの水野雄介が登壇。彼ら彼女らに、海外ビジネスにおける経験談や課題などを語ってもらった。
「現地パートナーの獲得、そして現地政府の中にしっかり入っていく。この両輪が必要」(水野)
オンラインイベントには、11人のライジングスター(創業3年以内のスタートアップ)が参加し、森川・水野にグローバル展開の「極意」を尋ねた。
女性向けの動画メディア、主にSNSを活用した事業モデルで、アジアを中心に活躍している森川は、最初に台湾とタイ、その後インドネシア、中国の会社をグループ化し、韓国、マレーシア、シンガポールなどへ進出。海外の成長市場にこそターゲットユーザーがいるという理由からグローバル展開を拡大している。「コロナ禍で行き来できない状況ではあるが、リモートワークでうまく対応している」と話す。
そして、中学生・高校生を対象にしたプログラミング教育に取り組み、シンガポールへの進出、アメリカ、ガーナでも事業を進め始めた水野。プログラミング教育は多くの国で必修科目となりつつある中、教えられる人が少ないのが現状だ。「話す言葉は違えどプログラミング言語は共通だから、どの国でもニーズが高く、グローバルにおいてチャンスがある」と、市場拡大の可能性について熱く語った。
森川と水野は、最初に海外進出した国を例に、信頼の置けるパートナーをどうしたら現地でみつけられるのか、という質問に答えた。
森川が最初の進出先として選んだ国は、知人が多かった台湾やタイ。水野はシンガポールからのスタートであった。2人は共に、「まずは信頼できる現地のパートナーを見つけること」の大切さを掲げた。
森川は、「既にグローバル展開している日本人起業家のネットワークに入り、いろいろな人脈を使ってパートナーづくりの手助けをしてもらう」、水野は「まずは現地の空気を感じ、現地のニーズを正確に捉えた上で、想いを共有できるパートナーを見つけること」だと語る。
グローバル展開する上で、プロダクトのローカライズはどこまで必要かという問いに対して水野は「国単位でローカライズするというよりも、現地ユーザーのニーズに即したプロダクトにすることが大切。当社の教材は生徒だけでなく、先生も使いやすいものにする必要がある。ただし、リソースは限られているので、ある程度地域を絞るほうがいい」と答えた。
森川は「ローカライズの問題はいつも悩ましい」と前置きし、「完全にローカライズするとコストが莫大になる。例えば1億円あったとして、海外のローカライズと日本国内のどちらに投資すべきなのか。ローカライズするならある程度キャッシュに余裕があり、サービスが完成されていないと、現地のサービスに太刀打ちできない」と、その難しさを正直に吐露した。
「海外との連携や、海外に行く会社に関しては上場基準を見直すなども必要」(森川)
スタートアップがグローバル展開する上での課題として、水野も森川も、進出先の政治リスクの他に、グローバル展開に対する日本の支援体制の不足、公開市場の環境などを挙げた。また同時に、一時的な赤字を覚悟しながらも事業投資することへの意志決定について、ステークホルダーと対話を重ねて理解を得ることの大切さを説いた。
他方で、2人は今だからこそスタートアップはグローバル展開を真剣に考えるべきだと力説する。
「日本は少子化の進展で、国内市場の拡大には限界がある。海外市場に、どんどんチャレンジすべき」と水野は語る。「海外に出ていかないと中・長期的成長は見込めない。その上で、国内と海外のバランス、成長と利益のバランスをどうするか、考えながら、慎重にやってみることです」と、森川も海外市場の取り込みの重要性を語った。
水野はさらに「地球の裏側でも自分たちのサービスを利用してもらえることは非常に嬉しい。異文化の中で触ってもらうことでサービス開発が進んだ」というエピソードにも触れ、多様性のある海外だからこそ自社サービスの価値が高められたことを強調した。また、森川も「国内でこじんまりと成功することを目指しがちだが、世界各地で愛されるサービスを創ることの喜びを知ってほしい」と語った他、起業家にとっても投資家にとっても、事業のグローバル展開がモチベーションになりにくい日本の現状の制度に問題があることを指摘した。
「僕らが目指しているのは、次世代に向けて、より幸せな社会を創ることだ」と事業の超長期のビジョンを水野は熱く語り、そのビジョンの実現には、ESG投資・インパクト投資のような新たな投資の仕組みや、ロングターム証券取引所(LTSE)のような新興の環境がキーになるとの考えを示した。
最後に森川からは、国内のスタートアップ・エコシステムを発展させるためには、海外との連携を進めて、新たな仕組みや制度が国内にも設計されることが必要だと説いた。
オンラインイベントを共催した日本貿易振興機構(ジェトロ)スタートアップ支援課の課長 島田英樹は、スタートアップがグローバル展開を考える上で、「ぜひジェトロの各種のサービスや、国内外の強力なネットワークをご活用いただきたい」と語る。
ジェトロは経済産業省所管の独立行政法人で、日本企業の海外展開を公的機関としてサポートする組織だ。海外55カ国76事務所のネットワークがあり、なかでも世界各国のスタートアップ・エコシステム先進地域においては、日系スタートアップのグローバル展開を支援する「ジェトロ・グローバル・アクセラレーション・ハブ」を海外27カ所に設置している。海外進出や海外での資金調達を目指す日系スタートアップに対し、世界各地のスタートアップ・エコシステムへ直結する展示会への出展支援や、ブートキャンプ等のハンズオン型プログラムの企画、現地アクセラレータ/VCとのメンタリング・マッチング機会などを提供している。
また、関係者からの紹介がなければ入り込めない海外現地のスタートアップ・エコシステムに対してジェトロは、提携する現地のパートナーやジェトロ自身が有するネットワークなどを介して現地のキーパーソンや有力者を紹介し、日系スタートアップの事業展開を支援している。
折しも「世界に伍するスタートアップ・エコシステム拠点形成戦略」が内閣府から打ち出された。これにより産官学一体となった日本のスタートアップ・エコシステム拠点の基盤強化の動きが今後一層進展することが期待される。
グローバルへ展開するスタートアップの創出は、正にこれから加速していくタイミングにあるのではないだろうか。
●問い合わせ先 日本貿易振興機構(ジェトロ)
イノベーション・知的財産部スタートアップ支援課
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