だからといって、以前のような対面が当たり前の世界へそのまま戻る見込みは小さい。こうした環境下において、どうすれば顧客情報獲得の機会損失を防ぎ、顧客管理を最適化できるのか。
カギを握るのは、名刺をはじめとした顧客情報のデジタルトランスフォーメーション(DX)だ。
名刺をはじめとした顧客情報をDXすることがなぜ必要なのか。働き方やビジネスの将来をいかに左右するのか。企業コンサルや研修を行うエミネンス合同会社代表であり、ビジネス・ブレークスルー大学大学院教授も務める今枝昌宏が、顧客情報管理をDXする重要性を踏まえて語った。
顧客情報の管理・活用がビジネスの成功のカギに
DXはいま、ビジネス効率化・最適化への必須手段だ。そして、アフターコロナの世界は、DXが進むスピードを急激に早めた。しかし、その速度ゆえの弊害も出ている。リモート業務が進む一方で、対面での名刺交換が減少し、顧客情報取得の機会を損失していることも弊害のひとつだ。
DXが進んでも、顧客データの情報源として名刺が重要な役割を果たしていることには変わりはない。実際、名刺交換ができなかったために、「いざ連絡したいときに連絡先がわからなくなる」「正確な肩書きがわからない」といった弊害を体験した方も少なくないだろう。それ以上に、顧客情報の獲得や管理に支障が出ている。「顧客データの危機」と言ってもいい。
こうした状況を改善できるツールとして期待されているのが、法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」が2020年6月に新機能として実装した「オンライン名刺交換機能」だ。Sansan上でデジタル名刺を発行し、相手にはそのURLを送付すればOKだ。受け取った相手は、そのオンライン名刺から自分が使っているアドレス帳やSansanに名刺情報をインポートできる。また、オンライン名刺の受け手は簡単に自身の名刺情報の返送も可能だ。「Salesforce」や「クラウドサイン」などの外部サービスとの連携機能も充実する。
このオンライン名刺交換機能は、オンラインの商談やミーティングにおける名刺交換の機会損失の特効薬になりそうだ。今枝によると、名刺交換の減少は、ビジネスの成否を左右する顧客情報獲得の機会損失そのものであり、こうしたオンライン名刺交換機能は、アフターコロナのビジネス環境において、なくてはならないファンクションになるという。
「ビジネスにおいて、顧客情報の管理はすべてのキーになります。顧客の現状や潜在的なニーズを知る手がかりとなり得るからです」と、今枝は名刺をデジタルデータ化することがDXの第一歩であり、顧客情報の活用するために必要と考える。
得意先の担当者が誰なのか、最後に会ったのはいつか、そのときの自社の担当者は誰なのか、そのときの用件はどんなものだったのか。顧客情報の社内開示・共有が、顧客満足と会社全体の生産性向上につながるのだ。
顧客と企業が直接繋がることが重要
こうした顧客情報の重要性を語る上で、BtoCの事例にも着目したいと今枝。BtoCにおいて顧客情報の重要性が再認識された結果、企業がプラットフォーマーから離脱して、顧客とダイレクトに繋がる流れが加速しているのだという。
ほんの数年前まで、製品やサービスを手がける企業にとって、販路は別の会社に頼るというバリューチェーンが当たり前だった。EC領域であれば、企業はプラットフォーマーが手がける大手ECサイトに依存してきた。
それがここ1、2年で、大手ECサイトから企業が離脱するという動きが活発になっているのだ。これはECサイトの中間マージンを回避して収益性を上げたいというだけの話ではない。ここでも顧客情報の重要性が契機となっている。
「大手ECサイトなどで商品販売をすることで、顧客情報を直接得る機会が減ってしまったのです。これでは自社内にデータの蓄積ができないということに気づいて、大手企業が続々と離脱しているのです」(今枝)
自前でECサイトを運営することが困難な中小企業では、最初からネットで顧客と直接つながることを前提とするビジネスモデルを構築する傾向が強まっている。いわゆるD2Cだ。小規模なメーカーが、SNSやクラウドファンディングを通じて見込み顧客とつながり、直接商品やサービスを届けるというこのビジネスモデルなら、顧客情報をダイレクトに得られる。
「D2Cは、ファンと直接つながっていくビジネスモデルです。そこでキーになるのがSNS。D2Cは中間にプラットフォームや卸業者を介さないということがメリットとして強調されがちですが、その本質は顧客からダイレクトにフィードバックを得られることだと思っています」
自前で確固たる顧客基盤を持つことの重要性は、BtoBの領域にも当てはまる。自社で顧客情報を集約する基盤を整えることができれば、貴重な顧客情報を囲い込める。これからの時代は、このように顧客データを自社内で蓄積・活用していくことが、企業が成長するための必要条件となるだろう。
名刺情報のデジタルデータ化がDXの第一歩になる
顧客情報の管理は、BtoCでもBtoBでも同様に重要だ。そのことをふまえてビジネスの本質である顧客情報の管理について考えたとき、今枝は、名刺に紐づく顧客情報をデジタルデータ化していくことが、生産性向上を目的としたDXにつながると説く。その理由として、今枝は、マーケティング業務を自動化することで業務効率化、生産性向上を図るツール「マーケティングオートメーション」を例に挙げた。
実際、名刺交換をするだけでは、大部分の情報が“塩漬け”されて十分に活用されないケースが多い。これを解決するのが、マーケティングオートメーションと名刺管理ツールの連携である。
例えば、名刺交換をした相手をメルマガに登録して、定期的に関連する情報を送ることで接点を構築し、将来的に顧客になってもらう(ナーチャリングする)ことも可能であるし、顧客情報をデジタルデータ化するからこそ、自社のセミナーやイベント来訪者への「お礼メールの送付」なども即座に行うことができる。
デジタル化した名刺情報はビジネスシーンのトレジャーだ
今枝は、名刺管理のDXについてどのように考えているのか。
「以前は、人脈管理は個人によるところが多かったと思います。しかし、今はSansanのような名刺管理サービスにより名刺をデジタルデータ化し、個人が保有している人脈データを組織で共有することがスムーズになりました」(今枝)
今は、あらゆる情報をDXできる時代。だからこそ、ビジネスの分業制も成立する。逆に考えれば、生産性の向上につながるビジネスの分業制を考える上で、個人の名刺ファイルや個人のExcelで保管しているあらゆる顧客情報のDXは必須だ。
「顧客情報はもちろんのこと、ビジネスにまつわるデータがチーム全体、社内全体で共有されないと、結果的に生産性の向上は望めません。まずは名刺などの顧客情報の蓄積からスタートして、そのデータを有効活用することでアポ率を上げ、商談、そしてクロージングにつなげるなど、より高いステージへ上がっていく確率を高められます」と、今枝もその重要性を強調する。
データをデジタル化することだけが目的ではない。データの蓄積、活用、見直しというモデルを確立し、それを実行し業務効率を上げることが目的である。そのための業務変革がDXなのだ。
名刺に紐づく顧客情報も、アナログ管理するのではなく、デジタルデータ化して管理・活用していくことでDXが推進され、生産性向上につなげていくことができる。
このように、DXにおいて顧客情報管理は極めて重要なファクターとなっている。その顧客情報が凝縮された名刺は、まさにビジネスシーンにおける宝(トレジャー)といってもいいだろう。
しかし、そんな名刺も、適切にデジタルデータ化して管理しなければ、ダイヤの原石のままだ。名刺という顧客情報をDXして、原石をトレジャーに変えることができるのが法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」なのだ。
データの蓄積・活用の重要性を語る今枝
オフラインとオンラインの「ハイブリッド顧客基盤」を構築
名刺をトレジャーにするための適切なDXを考える上で、今後もオンラインとオフラインが共存していくことを念頭に置く必要がある。アフターコロナにおいてコミュニケーションは急激にオンライン化したが、オフラインの重要性が損なわれたわけではない。
「人と直接会って話をする、という行為ならではのメリットがあります。オンライン会議では、何か秘匿性の高いものを画面に映した時に、キャプチャされてしまう可能性もあります。そういうセキュリティ上での課題があるので、オフラインの場は絶対に残ると思うのです」と今枝は語る。
オンラインであれオフラインであれ、商談やミーティングで会った相手の属性やコンタクト情報を記録し蓄積していくことは必要だ。名刺交換でいえば、オンラインの出会いはオンライン名刺、オフラインの出会いは紙の名刺など様々な形が存在していて、これらをシームレスに管理する必要がある。オンラインとオフラインを一元管理する「ハイブリッドな顧客基盤の構築」が、これからは重要になる。
法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」の優れた点として、ハイブリッド顧客基盤を実現するためのソリューションを提供していることも上げられる。
Sansanは単純に名刺情報をデータに置き換えるだけではなく、その名刺のデータを元に、面会履歴なども紐付けておける。営業の現場で分業化が進んでも、商談先の相手に以前社内の誰がいつ会っていたのかといった情報もスムーズに引き出せる。こうした情報共有は、業務上のロスを確実に減らす。
同一人物の複数の名刺を、自動で一人の人物としてまとめてくれる「名寄せ」も可能だ。同一人物が、社内の複数人と名刺交換をしていたり、異なる肩書きの複数の名刺を持っていたりするために、人物情報が散在してしまい大切な情報を見逃すケースを「名寄せ」は防いでくれる。また、常に最新の情報に保たれるので、連絡ミスなども起きにくい。
獲得した顧客データを最大限活用できることもSansanの特徴のひとつ。例えば、コンプライアンス上の問題など、取引リスクの可能性がある企業は、名刺を取り込んだ瞬間に知ることができたり、契約情報と名刺情報を紐づけられたりなどあらゆる社内の情報との統合を可能にする。
顧客情報のDXが企業の成長の礎に
DXへの移行を考えている企業がまず始めなければならないのは、こうした名刺情報のデジタルデータ化だ。面会履歴の紐付けや名寄せを活用して、最新かつ最新の顧客基盤を構築すること。それが生産性を高めるDXへの近道といえそうだ。
「これからのBtoBにおいて、ビジネスの分業制が加速していきます。そのときに、顧客情報の一元管理やノウハウの蓄積を真面目にやっている企業は、伸びていくと思いますね」(今枝)
このように、今後は、オンラインとオフラインの両方でハイブリッドな顧客基盤を構築していくことがスタンダードになるだろう。
新型コロナウイルスの影響はDXの時計の針を大きく進めたと言われるが、法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」はその中で、オンライン名刺交換という新機能を実現し、長足の進化を遂げた。オンラインとオフラインをシームレスにつなぐ顧客情報の管理基盤は、DXの第一歩となるだけでなく、今後の企業の成長の礎になっていくはずだ。
Sansan
https://jp.sansan.com/
コロナ禍に失われる企業の「顧客データ」の実態
調査結果はこちら(Sansan)
今枝 昌宏◎ビジネス・ブレークスルー大学大学院 経営学研究科 経営管理専攻 専攻長・教授。エミネンス合同会社代表パートナー。京都大学大学院法学研究科、エモリー大学ビジネススクールMBA課程修了。PwCコンサルティング、日本アイ・ビー・エム、RHJインターナショナル(旧リップルウッドHD)などを経て現職。主な著書に『実務で使える 戦略の教科書』(日本経済新聞出版社)がある。