Eコマースのソリューションを世界中で提供する、Shopify(ショッピファイ)。シンプルな操作ですぐにネットショップを始められ、ブランドの世界観に合わせたカスタマイズができることでも人気だ。また“コマースのOS”として、在庫管理や決済、会計レポート、マーケティング、他国通貨への対応、出荷手続きなど、関連する業務を一元的に行うこともできる。
数々のD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマ)ブランドの誕生を後押ししてきた同社。2017年に日本法人を立ち上げた、カントリーマネジャーのマーク・ワングにそのサービスの真髄を聞いた。
人は誰しも起業家
Shopifyが創業時からひたすら取り組んできたのは、起業家精神に寄り添い、支えることです。もっと多くの人が独立して成功する夢をかなえられたら、それは素晴らしい世界だと考えるからです。それゆえShopifyは、既存のビジネスだけではなく、起業の夢をもつ人、何か伝えたいことがある人など、あらゆる人たちに向けたサービスなのです。
本来、起業家精神は誰にでも宿っているものです。しかし残念ながら、コマースは大手のブランドや小売り業者が支配するものへとシフトしていきました。Shopifyがサービスを開始した06年当時、ネット上で一個人がブランドやECサイトを立ち上げることは、ほぼ不可能でした。多額の資金と開発者を必要としたからです。
そこで私たちは、競争の場を公平なものにしようと考えました。誰でも簡単に使えるものを低価格なパッケージにし、起業したい人がリビングルームで店を始められるようなサービスをつくろうと思ったのです。それが私たちの挑戦の始まりでした。
開かれたプラットフォームの強み
独自のECサイトを構築できる機能はもちろん最も人気ですが、ほかにも販売チャネルは多数あります。例えば、楽天市場やアマゾンのマーケットプレイス、フェイスブックやインスタグラムのストアなどに、クリックのみでつないで売ることができます。家具やゲームなら
AR(拡張現実)で見せることもお勧めです。また、実店舗のPOSシステムとの連携にも対応しています。さまざまな事業者が、どこでどんな売り方をしてもサポートできる。それこそがShopifyの強みです。
プラットフォームをオープンにすることで、数々のコラボレーションも生まれています。楽天市場との連携で言えば、楽天の店舗運営システムをシームレスにShopifyへ統合させる開発を行いました。私たちにとって、他社は競合というより、ECのエコシステムをそれぞれに推し進めるプレイヤーです。パートナー企業のエコシステムは、自社の成長にとっても欠かせないものなのです。
Shopifyには、“Thrive on Change”(変化においてこそ栄えよ)という企業哲学があります。技術もショッピングの仕方も、常に変化するものです。例えば昨年、Shopify上では70%がモバイル、30%がデスクトップでの会計でしたが、携帯での買い物がここまで盛んになることを、10年前に誰が予測できたでしょうか。変化に対応するベストな方法を探し、あるいはその先を行くソリューションを見出していかなければ、顧客ニーズに応え続けることはできません。
もちろん、間違えることもあります。5年前にVR(仮想現実)が出てきたとき、私たちはこれで世界は変わる、と思いました。そこで、ヘッドマウント付きのVRショッピングの仕組みを開発したのです。結末はご承知の通り、VRの世界はやってこなかった。ただお伝えしておきたいのは、未来への可能性を見つけたら、私たちは積極的に投資していくということです。その方針を貫いたことでARや3Dモデルによる販売チャネルは、いま非常に役立っています。
あらゆるスモールビジネスのDXを支える
ここでいくつか、Shopifyを導入したEC事業者を紹介しましょう。
16年に誕生したAllbirds(オールバーズ)は元サッカーニュージーランド代表のティム・ブラウン氏が志を共にするジョーイ・ズウィリンジャー氏と始めた企業。ウール製のサステナブルなシューズを開発し、いまや世界的なシューズブランドとなりました。サンフランシスコに本社を構え、原宿をはじめとした7カ国に店舗を展開中です。立ち上げたその日からShopifyを使い、オンラインでの存在感を高めながらグローバルビジネスを実現させました。
日本から世界へ進出したケースでは、amirisu(アミリス)があります。編み物という共通の情熱をもった女性ふたりが、京都で起業した会社です。当初は他のサービスを利用していましたが、Shopifyに切り替えてから、SNSなどのチャネルを通じた海外展開が進み、大きく飛躍しました。母親でもある彼女たちが、生活のためだけではない自らのビジネスをつくり出したという話を聞くと、本当にうれしくなります。
製造小売業では、ランドセルで有名な老舗ブランドの土屋鞄製造所が、伝統的な手仕事で生まれた革製品をShopifyでオンライン展開しています。国内だけでなく海外でも人気を呼び、現在では台湾や香港でも事業を展開しており、中国への事業拡大も検討しています。
さらにプロダクトだけではなく、サービス事業者も多く見られます。例えば吉本興業は、チケット販売のECサイトを立ち上げました。レストランなどに向けて、近隣にデリバリーを行う機能もあります。Shopifyでは、各企業のそれぞれの分野に適した機能を、可能な限り提供したいと考えています。私自身は、いつか日本のD2Cブランドが世界で大きく成功することを夢見ています。
Shopify導入企業の声
Allbirds 代表 竹鼻圭一
Shopifyは、実店舗とECを同時に運営しつつ、国ごとに売り上げと消費者の行動をリアルタイムで把握できるので、マーケティングと商品開発の指針になっています。Shopifyによりビジネスは最適化し、サステナブルなモデルへと進化しています。
amirisu 共同代表取締役 田中芽理/落合徳子
Shopifyのすべてのチャネルをフル活用し、手芸道具や毛糸、オリジナル商品など、多岐にわたる商材を国内外へ小売・卸販売しています。ShopifyPOSによって実店舗とECの在庫を一括管理し、顧客管理はポイントプログラムで一体的に把握しています。
土屋鞄製造所 KABAN事業本部本部長 丸山哲生
理想としたのは、大人数のチームユニットではなく、スモールユニットで改善を自走できる組織・運用です。そのために導入したのがShopifyでした。スピーディーな意思決定と実装が可能になったことで、ブランディングに集中できるようになりました。
吉本興業 よしもとセールスプロモーション 福田千佳
Shopifyで構築した「オンラインチケットよしもと」では、動画配信コンテンツとグッズ・DVDなどの異種商材を同じプラットフォームで販売できるので、一元でお客様の行動分析ができます。今後は劇場公演とオンラインを両軸化したビジネスを考えています。
マーク・ワング◎1978年カナダ・オタワ生まれ。2001年、マギル大学卒業。JPモルガンやシティグループでファイナンスやグローバル戦略に関わる。その後、ベトナムやカンボジア、ラオスでの企業の開発サポート、インドネシアでのスタートアップ企業の支援を経て、16年にショッピファイ入社。17年に日本法人を設立し、現職。
▶Shopify