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モニター デロイトの加藤彰(左)田中晴基(右)

世界規模で大量消費社会の限界が見え始めている。近い将来、主要な資源が枯渇し、これまでの消費型経済からの転換が迫られている。

大量生産・大量消費・大量廃棄が引き起こしてきた問題の解決策─それが循環型経済「サーキュラー・エコノミー」だ。

多くのファストフード店やコーヒーショップではプラスチックストローが廃止され、チョコレートの個包装がプラスチックから紙パッケージへと変更されている。こうした「脱プラ」の動きもサーキュラー・エコノミーの一環と言えるだろう。

デロイト トーマツ グループで、先進性・専門性・独自性の高い戦略コンサルティングを世界で提供している「モニター デロイト」の田中晴基と加藤彰は、サーキュラー・エコノミーの専門家として知られる。2人にサーキュラー・エコノミーに今取り組むべき理由、そして今後起こりうる、オープンイノベーションの可能性について語ってもらった。


理由1 サーキュラー・エコノミーは新たな経済成長モデルになる

そもそもサーキュラー・エコノミーとは、どのようなものなのか?

資源を入手して生産、利用、そして廃棄する、これまでの直線型経済は「リニア・エコノミー」と呼ばれる。それに対しサーキュラー・エコノミーは、利用後の廃棄物を別の事業の資源にしたり再活用したりするなど、既存の資源を再生し、循環させていく経済活動だ。

サーキュラー・エコノミーは、新たな資源利用を極力おさえ、これまでと同じか、それ以上の付加価値を生み出していく、新たな経済成長モデルだと国内の様々な大企業に対してサーキュラー・エコノミーをテーマとしたビジョン策定、戦略策定、事業開発支援を手掛けてきた田中晴基は語る。



「再利用する『リユース』、ムダなゴミを減らす『リデュース』 、資源に戻して新しく作り直す『リサイクル』。3Rと呼ばれるこの3つの要素もサーキュラー・エコノミーに含まれます。さらに、最初から再生・再利用しやすいモノを作る『エコデザイン』や、シェアしたり譲ったりしてモノを無駄なく使いきる『ファンクショナル・エコノミー』といった新しい要素も加わるのがサーキュラー・エコノミーです。ビジネスモデルが多岐にわたり、関連市場規模は世界で年4兆ドル(約440兆円)にも上るとされています」(田中)


サーキュラーエコノミーに代表される7つのビジネスモデル 出所 : Monitor Deloitte 7 Types of CE Business Models

先進的なグローバル企業は、サーキュラー・エコノミーを経営の中核に据える動きを見せている。電気関連機器メーカーのフィリップスは、収益の半分をサーキュラー・エコノミーに充てる計画で、大型機器全てを回収する体制を2025年までに整えると発表。スウェーデンの家具専門店イケアは家具廃棄物を減らすため家具レンタル事業をスイスで開始した。他にも、シューズメーカーのナイキや家庭用品のユニリーバなど、多くの企業が同様の動きを見せている。

理由2 グローバルスタンダードへの対応の遅れは、日本企業のビジネスに不利な影響を及ぼす

こうした世界の動きに比べ、日本は対応が遅れていると田中は指摘する。

「日本はリサイクル先進国のイメージがあるかもしれませんが、世界から見れば、サーキュラー・エコノミー後進国になりつつある」

企業が自ら主体的に動かなければ、後進国化は避けられない。市場への出遅れ、競争劣位のリスクをはらんでいると田中は危惧している。

日本は、厳密な廃棄物の仕分けルールや、ごみ焼却炉における優れた燃焼技術から、廃棄物を燃やした熱をエネルギーとして回収する「サーマルリサイクル」が主流化している。ペットボトルのサーマルリサイクル率は約8割で、欧米に比べ約2倍だ。故に、「日本のリサイクル率は高い」「サーキュラー先進国だ」というトーンに時としてなりがちである。

しかし焼却時に排出される温室効果ガスが地球温暖化に大きな影響を与えていることから、今、グローバルで主流化しつつあるのは、燃やさずに再生利用する「マテリアルリサイクル」や、化学物質レベルに変換して再利用する「ケミカルリサイクル」が世界の主流となりつつある。OECD加盟国における日本のマテリアルリサイクル率は下から5番目だ。

「日本はかつて、製品のエネルギー消費率の極小化に寄与する高い省エネ技術から温暖化対策先進国を自負していました。しかし、エネルギーの持続可能性自体にフォーカスを置いた、グローバルの再エネ主力電源化の流れに乗れず後進国化したと言われています。今回もその時と同じ轍を踏みつつあります」(田中)

そのような日本の状況を尻目に、欧州市場では既に政府主導でサーキュラー・エコノミーの規制が進んでいる。例えばドイツでは、再生プラスチックが10%以上使用されているICT機器でなければ、公共調達の対象とならない。また、フランスでは包装材が再生プラスチックでないと売価の10%が罰金として課せられる。

こうした規制があるので、企業はサーキュラー・エコノミーを把握・導入していないと勝てない、つまり市場で生き残れない。ビジネスモデルの変革を迫られているのだ。田中はグローバルの状況をこう解説する。

「ユニリーバやネスレなど大手消費財メーカーとアメリカのリサイクル企業であるテラサイクル、物流大手のUPSなどがジョイントベンチャーとして立ち上げたLOOPは、サーキュラー・エコノミー時代の『ポスト・アマゾン』的存在になるかもしれないと見ています。彼らは使い捨て包装材ゼロの時代におけるEコマースのビジネスモデルをいち早く体現し、空き容器の回収・再利用に関する基準作りを含めたモデル構築を進めています」(田中)

欧州をはじめとした先進国では企業がビジネスの競争力を高めることと紐づけて、サーキュラー・エコノミーを追求する環境が形成されつつある。しかし残念ながら日本は出遅れているのが現実だ。

理由3 日本のサーキュラー・エコノミーを支える「静脈産業」が変わろうとしている

では、日本はどうすべきか。鍵は、「静脈産業」にあると、田中は指摘する。

製品を供給する製造業が「動脈産業」で、産業廃棄物の処理や使い古された製品のリサイクルなどを行い、再び循環させるのが「静脈産業」と呼ばれる。

「サプライチェーンの上流である動脈産業側のビジネスモデルをチェンジさせることももちろん重要なのですが、私は日本のサーキュラー・エコノミー確立の鍵は静脈産業側にあると考えています」(田中)

日本の静脈産業は欧州と大きく構造が異なる。欧州ではインフラ系の大企業が収集運搬から処理、リサイクルまでを一手に担うのに対し、日本は中小・零細規模の細分化されたプレーヤーが市場を支えている。従って、彼らをいかに巻き込み、エンパワメントしながらエコシステムを立ち上げていくかが極めて重要となっていく。

この静脈産業の分野で、国内で新たなチャレンジをしているのが小田急電鉄であると田中は語る。同社はこれまで鉄道や不動産などに関する事業を展開してきたが、今回、それらと同じように街を支える重要なインフラ事業の一つとしてサーキュラー・エコノミーを位置づけ、米国でサーキュラー・エコノミー企業として初のユニコーンとなったルビコン・グローバル、そしてオープンイノベーションの専門家としてモニター デロイトと手を組み、エコシステムの立ち上げを進めている。

具体的には、経営戦略部主導で、鉄道やタクシー・バス事業を担う「モビリティ企業」として培った知見をてこに、自治体や静脈企業に対して収集運搬ルートの最適化などを提供し、地域のサーキュラーの担い手を支援する事業展開を目指す。また、「まちづくり企業」として自治体や動脈企業のサーキュラー・シティ化に資するスマートシティ事業、マッチング事業等も構想中とのことだ。なお、同社が手掛けるMaaS事業と同様、必ずしも沿線内に閉じない事業展開を目指している。

「大企業が、ビジネスパートナーとして静脈企業と直接的に接点を持っていることはまれだと思います。まずは小田急とルビコンのような既に立ち上がりつつあるエコシステムを足掛かりに対話の機会を持ち、自社としてどのように関与が出来るのかを模索していくことが糸口になるでしょう」(田中)

サーキュラー・エコノミーを契機とした新たなオープンイノベーションを

上記3つ理由から、サーキュラー・エコノミーは今後経済活動として必須となり、そして新たなビジネスチャンスが生まれることが理解できるだろう。では、日本がグローバルの潮流に取り残されず、一歩先んじるためには何から始めたらいいのか?

「キーワードは、街づくりです」と語るのはグローバルでサーキュラー・エコノミー関連案件を数多く経験している加藤彰だ。循環型のエコシステムを確立した都市、いわゆる「サーキュラー・シティ」である。



海外ではニューヨーク、ロンドン、アムステルダムなどででサーキュラー・シティ化が進んでいる。中でもアムステルダムは、サーキュラー・エコノミーの経済的・環境的なメリットを重視し、イノベーティブな企業がビジネスを立ち上げるのに魅力的な場所となるための官民学一体型プロジェクトを2016年から実施している。

The City of Amsterdam’s Circular Innovation Programmeの調査によると、2040年までに7万軒の循環型住宅を建設すると、毎年8500万ユーロ(約103億円)の経済効果が生まれるほか、700の新しい事業が創出され、CO2排出量を年間50万トン削減されることが明らかになった。

サーキュラー・エコノミーに特化したイベントとしては世界最大のフォーラム「World Circular Economy Forum」に2年連続で参加した加藤は、去年横浜で開催されたフォーラムと比較し、今回は“街”に関する議論が大きく増えていたと語る。

 「私はこれを、世界規模での“サーキュラー・エコシステム”競争だと見ています」(加藤)

どの街も高い基準を掲げることで循環型社会の意義を高め、それに共感する先進的な大企業、スタートアップ、アカデミア、NGOなどを集結させる。さらに、地域の“らしさ”を掛け合わせているという。

ニューヨークは、ファッション業界との連携で「ファッション×サーキュラー」のキャンペーンを進めている。ヘルシンキはそのコンパクトさや先進的なバイオマス技術を活かし、スタートアップと協業できる「サーキュラー・エコノミー実証実験の街」というブランディングで都市の価値向上を図っている。

「ヨーロッパが世界的な産官学のネットワークを作りながら本気で推進している。この傾向は今後加速化すると思います」と、加藤は予測する。

日本でもサーキュラー・シティの試みがみられる。

Tokyo Marunouchi Innovation Platform (TMIP) は、2019年10月に設立された、大手町・丸の内・有楽町(大丸有エリア)の大企業、スタートアップ、東京都や国土交通などの官公庁や、地権者等約70団体で構成されるまちづくりのイノベーションの創出を支援するプラットフォームだ。2020年度は、サーキュラー・エコノミーをメインアジェンダの1つとして掲げる予定だ。大企業が集う都心の立地を活かしながら、エリア内のスピーディな実証実験の環境提供等を行い活動を広げていく予定だ。


2019年10月3日に開催されたTMIPのセレプション

また、前述した小田急電鉄とルビコンの事例でも、小田急電鉄は、座間市とサーキュラー・エコノミーに特化した協定を結び、2020年4月から実証実験を開始すると発表している。

他の事例を挙げると、徳島県上勝町は2003年から「ゼロ・ウェイスト」活動があり、ごみの分別ステーションを日本らしいコミュニティ形成と掛け合わせている。この取り組みは、ごみの埋め立て・焼却を極力減らし、ごみを45品目に分別することで価値ある資源としてリユースしようという取り組みだ。2003年からの活動開始以降、現在のリサイクル率は約80%にのぼり、年間250〜300万円の収入をもたらしている。また、分別の場が町民同士のコミュニケーションを深めているという声もある。

このような丁寧な分別手法やコミュニティ形成等の独自のナレッジや、課題先進国である日本との掛け合わせは、海外が日本から学びたい部分も多いという。

しかし、海外はリーン・スタートアップの手法でどんどん失敗から学んでおり、一気に日本を追い抜こうとしていると、加藤は警鐘を鳴らす。

「あえて挑発的な表現を使うと、良いプレイヤーを囲い込みされてしまう、『ジャパン・パッシング』のリスクもあると言えるかもしれません。早く動くことが求められています」

モニター デロイトでは、企業はサーキュラー・エコノミーをはじめとしたサステナビリティに対する取り組みを「義務」ではなく「戦略」として取り組むべきと唱えている。

企業の戦い方は、機能・品質・価格の面で競争優位を高め、自社単独でシェアを拡げていく「エゴ」システム型から、社会課題解決(大義力)とルール(秩序形成力)を加え、ステークホルダーと協業しながら市場を創り出していく「エコ」システム型へ変化しているのだ。


戦い方の変化:EgoからEcoへ 出所 : SDGsが問いかける経営の未来

そして、このようなエコシステム型の戦いで最も重要なのは、ステークホルダーの共感・熱狂を獲得するための「骨太な大義」だ。

リニア・エコノミーは、短期利益の最大化が巡り巡って企業の経営環境自体を破壊する「社会課題ブーメラン」の原因であるにも関わらず、長年当たり前とされてきた。サーキュラー・エコノミーは、そうした従来型経済への大いなる挑戦である。


短期利益追求によるリニア・エコノミーがもたらす「社会課題ブーメラン」 出所: デロイト トーマツ コンサルティング作成資料

サーキュラー・エコノミーはあらゆる企業にとって、「大義」を掲げることが出来るテーマであり、今後エコシステム型の戦いの主戦場となっていくことが予想される。

モニター デロイトは、マイケル E. ポーター教授が提唱したCSV(Creating Shared Value)の実践に早期から取り組んできた。企業が経済価値と社会価値を同時に追求(=Shared Value)する経営モデルへの変革をリードし、企業のビジネスが成長すればする程、社会も良くなっていく世界作りを目指す。

業界でも珍しくCSV/Sustainability戦略に特化した専門チームを有し、グローバルのベストプラクティスを含む豊富な知見や、多様な業界に渡る企業へのコンサルティングを行ってきた実績から、ビジョンや戦略の提案はもとより、実行力の伴うイノベーションおよび成果の創出に至るまで、End to Endのパートナーとして経営者に寄り添っている。

モニター デロイトはなぜ、サーキュラー・エコノミーに本気で取り組んでいるのか

最後に、田中と加藤に、なぜサーキュラー・エコノミーに対し、情熱を持って取り組むのかを尋ねてみると、それぞれ、生い立ちから色濃く影響を受ける、循環型社会への熱い思いが感じられた。

子供の頃からモノを捨てるのが苦手だった田中は、小学生の頃に見学した焼却処分場のイメージが鮮明にあり、「あんな風に焼かれるなんて可哀想」という感情が今でも抜けないと話す。

「サーキュラー・エコノミーを追求することは即ち、モノを捨てずに済む。私にとってストレスなくモノと付き合えることを意味します。それは、例えば家族と一緒にモノを修理しながら長く使うなど『楽しめる世界』を追求することにも繋がるのです」(田中)

「笑われるかもしれませんが、私は理不尽さをゼロにした社会づくりに貢献したいと思っています」と語る加藤は、カナダに住んでいた小学生の頃から社会的弱者、いわゆる難病患者や先住民、障害者の課題を目の当たりにしてきた。

そしてゴミに関して無関心だった加藤の心を動かしたのは、業務中の収集運搬車に乗車した経験からだった。

「日夜問わず、365日汗水を流しながら必死にゴミを収集しているにもかかわらず、いわゆる“3K”として見られている。サーキュラー・エコノミーの一翼を担っている人が報われていない、まさに理不尽な状態だと確信しました」

リサイクル業者の人たちは、ゴミを資源化する高度な技術があるのに、それをスケールさせる機会がない。このような状況を変えることに少しでも力になりたい、というのが加藤の原動力になっているという。     

21世紀の世界経済で、もはや待ったなしの状況となったサーキュラー・エコノミー。その世界を創る側に立ちビジネスを成長させるのか、誰かが創った世界に適応するためにビジネスの変化を強いられるのか、いまこの瞬間の動き出しが、結末を大きく左右しそうだ。

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Promoted by モニター デロイト│text by Rikako Ishizawa│photographs by Kayo Takashima │Illustration by Sadahira Nagai

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