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高見澤 文雄/「波の網、網の波」(撮影協力:フォトシンス)

「自由な発想の醸成」「コミュニケーションの場の創出」、さらには「ビジュアルイメージによる会社のビジョン共有」まで。アートをオフィスに導入する企業の狙いはさまざまだが、「星の数ほどある中から、どの作品を選ぶか」という課題は共通だ。AIを搭載した「ArtScouter」はその答えを導き出す。


ビジネスと社会、ビジネスと環境、ビジネスとカジュアル、ビジネスとデザイン……。

ビジネスとは縁遠かったはずのさまざまなモノ/コトが、ビジネスと深くつながるようになってきた。ビジネスとアートもまた、例外ではない。

美術展のオープニングパーティーで企業経営者を見かけることが珍しくない欧米とは違い、日本ではビジネスとアートとの間の距離は大きい──。そんなイメージは今も根強いが、歴史をひもといてみると、どうやらこれは一時的な事態に過ぎないようだ。

長らくアートを支えたのは朝廷や貴族、武家といった権力者だったが、室町時代の後期あたりに豪商や豪農が生まれて以降は、彼らもアートにとって大きな役割を果たすようになった。

明治維新の後も、戦前までは大小財閥の創業家などがアートに強い関心を持ち、作品の購入や作者の支援を盛んに行った。

こうしたビジネスとアートのつながりが弱まったのは敗戦から高度成長期にかけて。経済危機と財閥解体、そしてサラリーマン経営者の急増によって、アートに関わる経済人が激減したのだ。

プラザ合意からバブル期にかけては一時、日本企業がアートを買い漁ったこともあるが、バブル崩壊後には再び、ビジネスとアートの距離は開いた。変化が見えてきたのはこの10年ほど。IPO(新規公開株)に成功した若手起業家が数十億円単位でアートを購入して話題を集めたのは記憶に新しいし、ニュースにならないレベルでもアートに積極的に関わるビジネスパースンが珍しくなくなってきた。

コンテンツから空間まで幅広いデザインを手がけるロフトワークの諏訪光洋代表取締役社長は、アートに造詣が深い経営者として知られる。同社を立ち上げる2000年までニューヨークのブルックリンで暮らしており、再開発のためにアーティストを集めたエリアに文化が生まれ、地価まで上がったという「原体験」を持つ。

「ニューヨークでは大小さまざまなギャラリーがあって、どんどんいろいろな人と知り合える社交の場になっていました。今は東京に新しいギャラリーが増え、アートに関心を持つ経営者も増えて、状況が似てきている。アートは経営者にとって自分の“界隈”を拡げることのできる非常に面白いツールです」

ビジネスの課題をアートで解決する

一方、Aesthetic Science=感性学・感性科学を専門とし、アートが心理や健康、ビジネスにもたらす効用について研究を続けている慶応義塾大学文学部教授の川畑秀明は次のように語る。

「アートとビジネスには以前から接点があります。例えば高額なラグジュアリーブランドでは、商品やサービスのデザインに始まりブランドのイメージに至るまで、アーティスティックであることが不可欠でした。今ではアップルなどテクノロジー製品でもアーティスティックであることが重視されています」

アートをビジネスに持ち込むメリットは、デザインを通じたブランド価値の向上や販売の促進といった、クライアントに対する効果にとどまらない。労働環境の改善や人材育成・能力開発など、働く側への効果も大きい。繊細な判断を求められる経営の分野では、サイエンスやテクノロジーに続いてアートの素養が重視されるようにさえなってきた。

その背景には、見る者との間に相互作用を生み出すというアートの特性がある。例えば、オフィスにBGMを流したときとアート作品を置いたときの大きな違いは、「音楽は受動的に聴くことが中心になるが、アートは自分から能動的、主体的に観る必要がある」(川畑)こと。作者は何を伝えようとしているのか、この作品はなぜここに置かれているかなど、感じること、考えさせられることが多く、脳に多くの刺激を与えるのがアートなのだ。

アートの生み出す刺激の効果は、すでに医療や福祉の現場でも痛みの軽減や認知能力の向上など、さまざまに明らかにされており、ビジネスにおける効用も、すでに触れたように幅広い。そのため、川畑によれば、重要なのは、何を目的として、どんな作品を導入するかだ。

「労働環境の整備を目指す場合でも、自由でクリエイティブな発想の生まれる場を狙うのか、集中して効率よく作業を進められる場を狙うのか、それとも闊達なコミュニケーションの場を狙うのかなどによって、置くべき作品は違います」(川畑)。どのようなアートがどのような効果につながるのかについては研究が進みつつあり、目的に合った作品を選ぶことが可能になっているという。

ビジネスの課題に応じてアートを導入し、成果を目指す──。ビジネスとアートの関係はすでにそこまで進展している。その実例を見ていくことにしよう。

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宍戸竜二/「いっしょに歩こう」(撮影協力:Relic)

「普通」から離れるためのアート

「ウチはオフィスづくりにものすごく力を入れています。それは洗練された製品は洗練された空間から生み出されると考えているからであり、企業のビジョンとミッションがスタッフに浸透する場がオフィスだと考えているから。社是を墨で書いて貼ったりするのではなく、もっと美しく、もっと効果的にやりたいと思ってアートを活用することに決めました」(河瀬航大・フォトシンス代表取締役社長)

「課題の解決をもたらすイノベーションは、常に『問う』ことから生まれます。日常の仕事や生活で問い続けることは難しいのですが、一生をかけて問うことを仕事としているのがアーティスト。スタートアップの経営者でも大企業のイノベーション担当者でも、アートの作品や作家と接点をもつことは、新しいモノ、新しいコトを生み出す原動力になります」(野村幸雄・渋谷スクランブルスクエ アSHIBUYA QWS Div.担当部長・ディレクター)

「アートがあることでインスピレーションを加速させるという狙いがあります。作品を置いたのは新規事業の開発担当部門のオフィスで、元々ハンモックが吊るされていたり、ピザが届いたり、大きなスクリーンに映画が流れたり、いろいろヘンテコなことをやって意識的にコミュニケーションの場をつくろうとしてきました。このアートも、『なんか変な絵が入ったぞ』となってさまざまな会話が生まれてくれたらいいなと思って」(大畑健・ユースタイルラボラトリー代表取締役)

「人によって感じ方がさまざまで、同じ作品について話してみても受け止め方が違ったり、または同じ印象を抱いたことに気づけて面白いのがアート。同じ人でも時間が経つと感じ方が違ってくることに気づいたりもします。こうした体験が日常にあるのはすごく素敵だなと思いますし、また、こういう感覚的な気づきだったり、感性的なものを大切に共有し育てることが私たちがこれから広げていこうと考えるビジネスやサービスにとても重要なのではないかとも考えています」(久保田裕菜・イグニション・ポイント・シニアアートディレクター)

……というのは、最近、業務環境にアートを導入した企業の経営者やマネージャーに、その理由を尋ねて返ってきた答え。共通するのは、これまでとは違うプロダクトやサービスを生み出そうとする熱意、イノベーションは普通の環境では生まれにくいという認識、そして、「これまで」や「普通」から離れるためのツールとしてアートに寄せる期待だ。

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田中紗樹/「untitled」(撮影協力:イグニション・ポイント)

アートは人と人との交流を加速させる触媒

法人向けに、スマートロックを活用した後付け可能なクラウド型「Akerun入退室管理システム」を展開するフォトシンス(本社:東京・芝)は、高見澤文雄の「波の網、網の波」というアートと出会い、東京タワーが間近に見える本社内の絶景ポイントに迎え入れた。「多くの細胞が葉脈でつながって光合成を起こす1枚の葉」というオフィスのデザインのテーマと絵のモチーフに共通点を見出したからだ。

だが、狙いはもうひとつあった。Akerunは、後の創業メンバー同士が居酒屋で「こんなのあったらいいよね」と語り合ったのがきっかけで生まれた基幹製品。そうした自由な発想や遊び心が生まれるよう河瀬は「以前からアートを導入しようと考えていました」と語る。

渋谷駅前の新たなランドマーク、渋谷スクランブルスクエアの15階にオープンした共創施設「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」は、アートの利用に積極的だ。野村によると、ミーティングルームに川内理香子の「How to make a woman」を掲げることに決めた理由も「見る者に強く『問う』ている作品だと感じられた」というものだった。

いまや数多いスタートアップ支援施設の中でQWSを際立たせている特徴としては、大学5校が連携パートナーである点や、運営会社が鉄道3社(東急、JR東日本、東京メトロ)の合弁であり、渋谷の価値を高める使命を持っている点などがある。それに加えて、「アートに触れる機会、アーティストと触れ合う機会を提供できる点も差別化につながると考えています」(野村)。

アートを人と人との交流を加速させる触媒に……という狙いは、介護事業と介護事業者向けサービスの双方を手がけるユースタイルラボラトリー(本社:東京・中野区)も共有している。過去半年ほどで人員数が2倍以上に増えた新規事業開発部門では、さまざまなバックグラウンドを持つスタッフたちの間の社内コミュニケーションの活性化が課題。その解決策の一環として、淺井裕介の「常闇に吠える」を導入した。

オフィス内はフリーアドレスで各自の席は固定されていないのに、何か新しい刺激がないと人がなかなか動かず、新しいつながりが生まれにくい。その「新しい刺激」となる今回の作品はサイズが大きいため、大畑は、「社員たちが絵の下にホワイトボードを持ち込んで『この絵のタイトルは?』などと変なゲームを始めるんじゃないかと密かに期待しています」と明かす。

デジタルトランスフォーメーション(DX)や事業創出などのプロフェッショナルサービスを提供するイグニション・ポイントは、これまでにもオフィス内に階段やバーカウンターを設けたり、ラジオ番組の収録を行ったりと、「普通ではない」環境を生み出す取り組みを続けてきた。田中紗樹の2点の「untitled(無題)」作品を掲出するようになったのも、その一環だ。

最初から複数の作品を並べたのは、今後さらにアートの導入を進めていく計画があるためである。アーティストの作品を増やすだけでなく、社員のお気に入りのデザインプロダクトや、社内のエンシジニアやデザイナーの仕事など各所に並べることで「いい意味でゴチャゴチャとアートが身近に存在できるオフィス」を目指すプロジェクト案もあるという。

各社それぞれに明確な狙いを定めてビジネスの場に持ち込んだアート。こうした企業による作品選定のプロセスは実際、どのようなものだったのだろうか。


平子雄一/「Pot7」「Pot8」「Perennial02」(撮影協力:渋谷スクランブルスクエア SHIBUYA QWS)

「オフィスに最適な一枚」を選ぶ方法

ビジネスにアートを導入することの有効性、そして実例を見てきた。だが、「ではぜひウチでも……」と思い立っても、すんなりとは進まないというケースもないわけではない。独特の閉鎖性で知られた日本のアートの流通は、バブル崩壊後の30年で大きく変わったが、わかりにくさや敷居の高さがまだ残っていることは、次のようなコメントから見てとれる。

「企業がアートを入れたいと思ったときに、気軽に探せるタッチポイントはまだ少ないと感じます。どうやって探し始めればいいんだろうと思う人たちも多いのでは」(イグニション・ポイントの久保田裕菜)

「買う気でギャラリーに行っても、いきなり『これください』では、下手をすると『あんた誰ですか』となるのがアート。ちゃんと関係を築いていかないと買えないこともあります」(ロフトワークの諏訪代表取締役)こうしたハードルを取り払う取り組みとして注目を集めているのが、アート導入を希望する企業と、国内大手を中心としたギャラリーとを結ぶ新たなプラットフォーム、「ArtScouter(アートスカウター)」だ。

「Art empower the workplace」を旗印として、NTTドコモの協力のもと、アートアンドリーズンが昨年5月に運営をスタートさせた。アートスカウターの特徴は、信頼できるギャラリーの作品のみが取り扱われる信頼性、幅広い作品から最適な1点を選び出す作業を専門家の視点を学習したAIが助けるという高度なテクノロジー、そして企業による購入やレンタルを円滑に進める取引システムがもたらす利便性の3点。すでに多くの企業が利用しており、登場してきた各社もユーザーだ。

アートスカウターを利用する企業の経営者やマネージャーは次のように評価する。

「登録ギャラリーもたくさんあり、検索軸も豊富で作品を見つけやすい。また、検索で絞り込まず、作品全体をざっと眺めることも可能で、当社ではスタッフ全員で全作品を眺めてみるところからスタートしました」(BtoB企業にセールス・マーケティング分野のソリューションを提供する2BCの御手洗友昭代表取締役社長)

「はみ出る、飛び出すといった文脈に沿ってさまざまな検索軸を試していくうちに、全作品に目を通すことになり、動物をモチーフにした作品が当社の仲間づくりのビジョンに合っているなと考え、選び出しました」(企業オフィスの設計やプロダクト、グラフィックのデザインなどを手がけるディー・サインの赤沼百生取締役/プロジェクトマネジャー)

「近くで見る際のリアル感を重視して凹凸のある油絵やアクリル画から選ぼうと探していく中で目に留まったのが、純粋に躍動感を感じられた田中紗樹さんの作品です。アートスカウターはUIやUXの面でも使いやすかったですね」(スタートアップやベンチャー向けに特化したオフィス仲介企業・IPPOの関口秀人代表取締役)

「アートの導入をきっかけに自分の知らない領域へ飛び込もうとしているのに、自分の決めた観点で絞り込んでしまうのは何か違うなと思い、全作品を見ました。その上で、抽象画か具象画か、カラフルな作品かモノクロの作品かという具合に選んでいきましたね」(タックスマネジメントコンサルティングのHACHIの酒井菜穂子代表取締役社長)

「建物の共用部に人の目を引くシンボリックなものがあると、より彩りが生まれるのではないかと考え、作品を選定しました。弊社が運営する美術館の学芸員からも『作品の中にキャラクターがいて、見る人の間で会話が生まれやすい』といった評価をもらい、作品を絞り込みました」(三菱地所でコンパクトオフィスシリーズ「CIRCLES(サークルズ)」を担当する神宮春菜)

「アートスカウターでアートを見ていると、コンセプトやメッセージが明確なものと、そうではなくて解釈を見る人に求めるものがありますよね。今回選んだのは、挑戦者と一緒に未来へと進んでいくという当社の考え方とマッチしていた作品と、大変なことも多い新規事業開発を“楽しむ”大切さを思い出させてくれる、笑顔が描かれた作品の2点になりました」(企業のイノベーション創出に向けた取り組みを支援するRelicの北嶋貴朗代表取締役CEO)

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(中央)寺内 誠 /「スタンドライトthink」(右)坂本夏子/「P」(撮影協力:2BC)


このようにアートスカウターを利用してアートを導入した企業に満足度を尋ねてみると、おしなべて高い。数多くの作品を最少の手間で納得いくまで検討するという、アートスカウターの登場前には難しかった作品選びが実現したためだろう。

日本では一度縁遠くなってしまったビジネスとアートが、いま再び結びつきつつある。このシナジーが生み出す効果が目に見えるものに育つまでに、さして時間はかからないはずだ。



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Promoted by ArtScouter / text by Hiroyuki Okada / photographs by Tsuyoshi Ando, Kazuo Yoshida

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