「垂直軸型マグナス風力発電機」で再生可能エネルギーに挑戦するチャレナジー清水敦史。「ポルシェみたいになりたい」と語る清水に、ポルシェ ジャパンの七五三木敏幸が大いに共感したある言葉とは。2018年11月に開催の「Forbes JAPAN CEO Conference 2018」。ポルシェ ジャパンによるスペシャルプライズ「e-Performance賞」に輝いたのが、チャレナジーの清水敦史だった。かたや、自動車の電動化に積極的に取り組むポルシェと、再生可能エネルギーに向き合うチャレナジー。七五三木 敏幸(しめぎとしゆき)と清水敦史(しみずあつし)が交錯する思いを語り合う。
──清水さんの選考理由を教えてください。七五三木敏幸(以下、七五三木):理由は3つです。まず、新しいテクノロジーを使って社会問題の解決に取り組まれていること。それは効率化を追求してテクノロジーをいち早く導入するポルシェの姿勢にも通じるものです。そして、我々も電動化を進めるにあたって、同じチャレンジをしている方、つまり電気に取り組まれている方と一緒に歩いていきたいという意味を込めて受賞にふさわしいと考えたこともひとつの理由。
そして最後に、次の10年、20年、さらにその次の30年と、次世代を切り開く若者が賞をとるべきであること。これを高いレベルで満たしていたのが清水さんでした。今日は清水さんとお話ができるということで、なぜ、再生可能エネルギーに取り組もうと考え、なぜ垂直軸型マグナス風車という世界初の発電装置を考案できたのかをお聞きしたかったのです。
清水敦史(以下、清水):もともと、私は大手電気機器メーカーのいちエンジニアでした。風力発電を昔から研究していたわけではないんです。福島第一原発の事故をきっかけに、ひとりの日本人として「僕らの世代には次の世代に再生可能エネルギーを残す責務があるのではないか」と使命感を感じたことが挑戦の始まりでした。
まず再生可能エネルギーを知るために本を買って読むところから始め、日本は風力発電の大きな可能性をもっているにも関わらず実際には普及していないことを知り、ここにはチャンスがあるのでは? と考えました。日本で風力発電が普及しない理由として、既存のプロペラ風車が日本の環境に適応できていないことが指摘されており、この問題をエンジニアリングの力でクリアできれば日本にもっと風力発電を普及させ、エネルギーシフトを起こせるのではないかと考えたのです。
七五三木:清水さんご自身が、またはその着想を形にできるスーパーエンジニアがいらっしゃったのですか?
清水:最初は個人的なプロジェクトでした。まず、日本の環境に適応するためには、風向変化の影響を受けず、台風などの強風にも対応できる仕組みが必要だと考えました。風向変化については垂直軸風車にすることで解決できますが、強風に対応する仕組みの実現が難しく、たどり着いたのがプロペラを使わずマグナス効果を利用するというアイデアでした。
次に、そのような技術がすでにあるのかを知るために、特許を調べました。すると世界中で特許が出願されており、日本でも大手企業が2社特許出願中でしたが、特許化されていませんでした。大手企業が特許出願するほどの可能性をもった技術にもかかわらず、誰も実用化できていない。それを知ったとき、私のエンジニア魂に火が付き、垂直軸型マグナス風力発電機の実現方法を模索する日々が始まりました。そしてある日、公知技術とは全く異なるアイデアを考えついたわけです。2013年に特許を取得できたことで、この技術を実用化するために脱サラして起業する覚悟を決めました。
七五三木:清水さんがさらっとおっしゃった言葉が私には非常に印象的でした。清水さんは「僕は考えついたよ」とおっいましたよね。誰もできなかった。でも私は考えついたんですと。これはすごい言葉で、非常に大事なことです。たとえば私どもがつくっている電気自動車というものは、あえて言ってしまえば誰でもつくれるんです。しかしポルシェが考えた優れたソリューションとしてつくるところに意志が生まれ、強いメッセージとなる。その点で「僕は考えついた」という言葉が意味することは非常に大切だと考えます。ここでも、私どもと共通するものがあると感じました。
2018年8月から、沖縄県石垣市にある、株式会社ユーグレナの敷地にて実証試験を行っている「垂直軸型マグナス風力発電機」の10kW試験機。すでに2016年から実証試験を行っている1kW試験機とともに、台風環境下での発電実験に成功しておりこの10kW機は量産試験の位置づけ。2020年の量産化を目指す。──清水さんはポルシェの電動化の取組みについてはどう思いますか?清水:我々が直面している環境問題や、化石燃料の枯渇問題を考えれば、自動車の電気化は人類の未来のために必要不可欠です。一方、電気自動車に供給する電気をどうやってつくるかも重要です。再生可能エネルギーで電気自動車を動かしていくのが真のサスティナブルですが、世界中の電気自動車に電気を供給できるだけの発電量を実現できなければ、根本的な解決にはなりません。それを実現するのがチャレナジーの使命だと考えています。
──清水さんは冒頭で、日本の環境にあった風力発電の形を目指していると話してくださいました。実際チャレナジーの技術では台風でも壊れずに発電ができることが強みです。かたや電気自動車においては日本の環境に特有のあり方というものはあるのでしょうか。七五三木:電動化に限らず自動車の業界では数々の先端テクノロジーが生まれていますが、特定の国や地域に特化した技術というものは少なくなっている。それよりも、そこに住んでいる人たちの考え方や、彼らが理想とするライフスタイルにマッチさせることが重視されています。2020年以降に発売が予定されているポルシェの電気自動車であるタイカンでも、我々がタイカンという車をコンセプトからしっかりしたものをつくってきたこと、そこに共感して選んでいただくことが重要です。
ポルシェの一番新しい車だから、電気だから、というだけではありません。エクステリアは918スパイダーや911から引用し、未来のスポーツカーを具現化しています。車名は生気あふれる若馬のイメージに基づいたフレッシュなものです。そんな電気自動車に共鳴いただけますかという私どもの問いかけに共鳴してくださる人に乗っていただきたい。このコミュニケーションは世界各国で変わりません。
世界中に、自分に対してしっかりしたお考えをもっている方が沢山いらっしゃって、そういった方々が自分の物差しでこの商品を持ちたい、使いたいという風に選ばれる。電気自動車と言ってもその選択肢は多いですし、いろんな考えの方にマッチできるものです。だからこそ、自分たちのコンセプトを伝え、共感してくださる方に乗っていただくことが重要です。
清水:ポルシェというメーカーがひとつひとつのクルマを哲学をもってつくってきた、長い年月をかけてつくり上げてきたブランドの強さを感じます。チャレナジーも、一言で言えば「ポルシェみたいになりたい」のです。特別感があって、先進的なイメージをもち合わせていて、モノの信頼性も高い。そして何より、ブランドとして確固たる地位を築き上げている。そんなポルシェについて、今回の受賞を機にあらためて調べてみると、本当にさまざまなことにチャレンジしているんです。
一番驚いたのは、1940年代に風力発電を開発していたこと。実はポルシェは風力発電の大先輩だったんです! また同時期にハイブリッド戦車をつくろうとして失敗したという逸話も印象的でした。視野が広く、常識にとらわれず、チャレンジ精神の塊。それが結実したのが今のポルシェなのかなと思っているんです。その意味でもやはり、チャレナジーは風力発電界のポルシェを目指したい。そして、僕らの風力発電で世界中の電気自動車に電気を供給したい。そうすれば完全なゼロ・エミッションが実現できます。環境意識の高いタイカンのオーナーには、ぜひチャレナジーの風力発電もセットで所有していただけたらと思います。まるで営業トークのようですが(笑)。でも、本気です。
WHAT IS “MUGNUS EFFECT”?回転する円柱や球が風や水の流れのなかにおかれたとき、流れに対し垂直方向に力が働くことを「マグナス効果」という。チャレナジーはこれに垂直軸型の風車を組み合わせ、全方向の風に対応でき、かつ円筒翼の回転数制御により、強風でも風車の回転数を一定の速度に保つことで過酷な環境でも安定した稼働を実現する風車を開発。
TO THE FUTURE台風が多く、水平軸式の風車による風力発電が難しいアジア地域においてもチャレナジーの垂直軸型マグナス風車は期待されている。2018年5月にフィリピン国営石油公社再生エネルギー公社と同国での協業に関する合意書を締結。チャレナジーが同国での現地企業と合意書を締結したのはフィリピン国家電力公社についで2番目。
VENTURE SPIRITSリアルテックベンチャーのインキュベーション施設、センターオブガレージに居を置くチャレナジー。2014年10月に設立したばかりで「志を共にする仲間と、まるで耐久レースのような日々をチーム力で乗り越えて今に至っています」(清水)。表彰で清水が着用した赤いツナギ(今回の受賞式のために新調)も、そんなベンチャースピリッツの象徴だ。
七五三木敏幸◎ポルシェ ジャパン株式会社代表取締役社長。1958年生まれ。一橋大学卒業後、群馬銀行に入社。元来の車好きの情熱を抑えきれず、89年メルセデス・ベンツ日本へ転職。その後、クライスラー日本で代表取締役CEOなどの要職を経て、2014年2月から現職。
清水敦史◎株式会社チャレナジー代表取締役CEO。1979年生まれ。東京大学大学院修士課程修了。2005年キーエンスに入社し工業用センサーの開発に従事。福島で起きた原発の事故を機に再生可能エネルギーの開発をはじめ、2014年10月、チャレナジーを設立し現職に就く。