「独自性を尊ぶオーデマ ピゲ」
スイス時計産業のゆりかご「ジュウ渓谷」
そもそも時計産業というのは、王侯貴族のような実力者がお抱えの時計師に、世界に一つの時計を作らせるという形で発展と遂げてきた。しかしフランス革命などで社会変革が起きると、経済の中心は資本家へと移行していく。そこで力を発揮したのが、スイスの時計産業だった。
スイスでは高品質の時計を効率よく作るために分業制を採用していた。時計産業の中心地はジュネーブだったが、増加するオーダーに対応するために、スイス北部ジュウ渓谷の農夫たちに、農閑期の仕事として時計パーツの製造を依頼することになる。
やがてジュウ渓谷は“ウォッチバレー”と呼ばれるほど時計産業が盛んとなった。そして時計師たちの中から、技術と商才に長けた人物たちが、次々と時計工房を立ち上げるようになっていった。
この地に生まれ、複雑機構の製造に情熱を傾けていたジュール=ルイ・オーデマとエドワール=オーギュスト・ピゲは、1875年にジュウ渓谷の小さな街ル・ブラッシュに時計工房を立ち上げた。それこそが「オーデマ ピゲ」であった。
スイス北部にあるジュウ渓谷の標高は約1000m。静かな街で時計が生まれる。
技術力で時計業界をけん引する「オーデマ ピゲ」
ル・ブラッシュはウォッチバレーの中核をなす街で、オーデマ ピゲ以外にもいくつかの有名時計ブランドが社屋を構えている。一年の約半分が雪に閉ざされる過酷な地域だが、そんな環境があったからこそ、細かいパーツを徹底的に美しく仕上げ、粘り強さや未知なる機構をじっくりと研究しようという探求心が養われたのだろう。
オーデマ ピゲの創業者であるジュール=ルイ・オーデマとエドワール=オーギュスト・ピゲは、グランド/プティットソヌリとミニッツリピーター、アラーム、スプリットセコンド・クロノグラフなどを備える懐中時計「グランドコンプリカシオン」を、1882年に発表する。これは世界初の超複雑時計だった。
その後もオーデマ ピゲは、数多くの“世界初”の機構を実現させ、スイス時計業界で確固たる地位を築く。その一方で、創業から100年間で16万本(つまり年産1600本)しか時計を作らないことで、エクスクルーシブな存在であり続けた。
創業者のジュール=ルイ・オーデマ(左)とエドワール=オーギュスト・ピゲ(右)
家族経営を貫き、スタイルを守る
1970年代。スイスは日本製の高精度クオーツウォッチの攻勢によって多大な影響を受け、経済規模が1/3まで縮小してしまう。しかしオーデマ ピゲは、エクスクルーシブなブランドであり続けるという戦略を維持した。なぜそのようなことが可能だったのか?
実はオーデマ ピゲは、ジュール=ルイ・オーデマの曽孫ジャスミン・オーデマとエドワール=オーギュスト・ピゲの曽孫オリヴィエ・オーデマという二人のという創業家ファミリーが、経営に携わっている。しかも独立資本なので外部の影響を受けずに、自分の道を選ぶことができるのだ。
その結果オーデマ ピゲは、創業以来の哲学を守り抜くことが可能となり、さらには50年後、100年後へと、伝統やノウハウを継承することができる。たとえ百年前の時計であっても完璧に修理することで、スイス時計文化を後世に伝えていくのだ。
ジュネーブで経済誌の編集長をしていたジャスミン・オーデマ。
オリヴィエ・オーデマは素材科学関連企業の経営者でもある。
“革新”を貫く「オーデマ ピゲ」の時計たち
新たな歴史を作り出した「ロイヤル オーク」
1972年に誕生した「ロイヤル オーク」は、高級時計でありながら頑強なステンレススティールを使用し、スポーツウォッチでありながら、ドレスウォッチ級の仕上げや磨きを行っていた。しかも天才ジェラルド・ジェンタが手掛けた8角形ベゼルや多面構造の美しいケースは、薄型なのでドレッシーなスタイルにも似合う。そのオールマイティな魅力も価値を生んだ。
このような時計は前代未聞であり、「ラグジュアリー・スポーツウォッチ」という新しいジャンルが生まれるのだった。
この革新的なデザインとコンセプトに時計業界は驚愕し、多くのフォロワーが生まれることになる。しかしその揺るぎないスタイルを守りながらバリエーションを増やし、誕生から40年以上を経た今でも、刺激的な存在であり続ける。
ロイヤル オークのデザイン性を変えることなく、超薄型の永久カレンダー機構を組み込んだ「ロイヤル オーク RD#2」。5年かけて開発したCal.5133の厚みは2.89㎜しかなく、ケース全体の厚みは6.3㎜。高度な機構と洗練されたルックスを兼ね備えた次世代のロイヤル オークだ。自動巻き、PTケース、ケース径41㎜。価格未定/発売時期未定のコンセプトモデル。
定番を進化させた「ロイヤル オーク オフショア」
大成功を収めた「ロイヤル オーク」だが、オーデマ ピゲは常に革新を求める。もっとスポーティな時計が欲しいという声を受け、ケースのサイズや防水性能を向上させた「ロイヤル オーク オフショア」を1993年に発表する。
時計デザインの大巨匠であるジェラルド・ジェンタがデザインした八角形ベゼルなどの特徴的なデザインを生かしつつ、大胆に進化させたのは、当時若手だったエマニュエル・ギュエ。42㎜というケースは当時としてはかなり前衛的な大型サイズであり、社内では反対の声も上がったようだ。それでも発売にこぎつけることができたのは、独立資本の一族経営であるため、自由に戦略を練ることができたから。革新を求めたからこそ、前例の無いチャレンジを成し遂げることができたのだ。
2018年に「ロイヤル オーク オフショア」の誕生25周年を記念して、初代モデルを復刻。ドット型のインデックスやクローズ型のバックなどは継承しつつ、ムーブメントは現代的にブラッシュアップしている。「ロイヤル オーク オフショア クロノグラフ・オートマティック」自動巻き、SSケース、ケース径42㎜。¥2,900,000
美的表現の新スタイル「フロステッドゴールド」
数々の世界初を生み出し、複雑機構に強いという印象が強いオーデマ ピゲだが、ジャスミン・オーデマが経営に携わり、“強い女性”の象徴であるテニスプレイヤーのセリーナ・ウィリアムズをアンバサダーに起用するなど、レディスウォッチにも力を入れる。
女性用の初代「ロイヤル オーク」は、1976年に誕生しているが、その特徴的なデザインをさらに輝かせるために、2016年に考案されたのが「フロステッドゴールド」という手法。これはゴールド素材の表面に、ダイヤモンドを取り付けた工具を使って微細な凹凸を作り上げ、きらびやかな光沢を作るというもの。「ロイヤル オーク」という優れたアイコンがあるからこそ、そこに新たな要素を加えるだけで、価値が生まれる。それも、オーデマ ピゲの凄さである。
素材の表面に無数の凹凸を作ることで、華やかなキラメキを作り出す「ロイヤル オークフロステッドゴールド・オートマティック」。斜面はポリッシュ仕上げを残しており、表情にメリハリが生まれた。自動巻き、18KPGケース、ケース径37㎜。¥5,200,000
機構美を楽しむレディスウォッチ
昨今は時計好きのパートナーの影響もあってか、女性でも老舗時計ブランドの本格時計を好む人が増えている。機械式ムーブメントを好み、その機構の美しさや永遠性に惚れるのだ。
オーデマ ピゲは機械式ムーブメントの小さなビスからケースまで、一貫して製造できるマニュファクチュールブランドなので、デザインと機構を両軸で開発することができる。そのためデザインとメカニズムが完璧に融合した時計を作ることができる。
楕円形ケースでネオクラシックスタイルを表現する「ミレネリー」は、専用設計した自社製ムーブメントCal.5201を搭載。文字盤側にチクタクと振動する脱進機が見えるようになっており、見事な美と技の競演を楽しめる。
オーデマピゲは古くは1883年からブローチ型などで女性向けの時計を製造してきた、長い歴史と伝統を持つ。今後もレディスウォッチの分野でも新たな価値を創造することで、オーデマ ピゲの名声はさらに高まる事だろう。
時刻表示を楕円形ケースの右側に移動し、生じた余白でチクタク動く脱進機を見せる「ミレネリー」。ダイヤモンドやメッシュブレスレットで、繊細な美を加えつつ、メカニカルな魅力もしっかりと表現する。手巻き、18KPGケース、ケース幅39.5㎜×35.4㎜。¥4,900,000
2019年1月、オーデマ ピゲから高級時計が変わる。
時計文化の継承を尊び、創業者ファミリーによる独立資本の経営基盤によって、独自性を追求してきたオーデマ ピゲ。彼らは2019年の1月に行われるSIHHにて、画期的な新作を発表するという。
現在、ティザーサイトも公開中。美しいビジュアルに、謎の「コード」とは……? 発表への期待感が否応無く高まる。
ティザーサイトURL https://www.audemarspiguet.com/jp/
この歴史ある時計ブランドは、果たしてどこへ向かうのか?ネクストステージが楽しみである。
オーデマ ピゲ ジャパン
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