メイド・イン・ジャパンの高品質にこだわる「D’URBAN(ダーバン)」初の直営店にて今年11月、Forbes JAPAN読者限定のトークイベントが行われた。テーマは「世界のトップリーダーたちから学ぶスーツの着こなし術」。
日本が誇るスーツブランドのフラッグシップストアを会場にして、ファッションディレクターの森岡 弘氏と、Forbes JAPAN副編集長の谷本有香が、リーダーをさらなる成功へと導くスーツの着こなし方について語る。
服は自分にとって一番のサポーター。服の力を借りてさらなるステージアップを!森岡 弘氏(以下、森岡):私はエディターやスタイリストとして活動した経験をバックボーンに、今は企業の社長や政治家の方などのファッションアドバイスなどもしています。率直に申し上げて、日本の人たちのファッション感度はまだまだ低い。みなさんに、服の力を借りて、さらにステージアップしてもらいたいというのが本音です。
谷本 有香(以下、谷本):おっしゃる通りだと思います。私もたくさんのトップリーダーの方にお会いしてきましたが、日本の方のファッションスキルをもっと上げたいと思っています。
森岡:今の日本のトップリーダーたちが仕事を始めた80~90年代は、まだ服なんかにうつつを抜かすなと言われる時代でした。着飾る=仕事ができない男だ、と。ですが、ここ最近は真逆ですから気をつけてください(笑)。きちんと服を着こなすことは、ビジネスの上でもひとつのスキルになっています。服は自分の一番のサポーターなんです。
ただ、男性には明確なドレスコードがあります。まずは、色はネイビーかグレーが基本。ブラックのスーツやボタンダウンのシャツは正式な場ではドレスコード上NGです。これを念頭に入れて、これらを着ていい日、いけない日と使い分けていただければ。
谷本:スーツ、ネクタイ、シャツというように、男性にとって着こなしのルールはある程度決まっている中で、特に仕事ができると見られるスーツの身につけ方、着こなし方はどんな点に気をつけたらよいのでしょう。
森岡:一番大事なのはサイズ感。間違ったサイズを着るとだらしなく見えます。常々言っているのですが、ウン十万円を払ってもジャージのような着心地はスーツにはありません。スーツは着心地の良い服ではないのです。ただし、だからこそ男を一番格上げしてくれる服なのです。なぜなら、サイズを自分の体型にきちんと合わせると、間違いなく男性的な格好良さが強調されるからです。極端なことを言うと、スーツは補正服。なで肩ならパットを入れれば端正に映りますし、後ろ側にシボリを入れれば細い体型でも逆三角形に見えます。スーツは決して着心地が良いわけではないことを前提として、着心地の良いジャストサイズの一着を探していただきたいですね。
次に大切なのが色使い。濃色系なら、仕事に対する意識が高い人に見えます。もうひとつ重要なのが、ネクタイを正しく結ぶことができること。実は半分以上の方がきちんと結べないんですよ。だらしなく結んでいる方や、結び目とシャツの襟がぴたっとくっついていない方も。この3点が整うと、仕事に対して意識が高い人という印象が生まれます。
個人的に似合う装いはない。スーツは皆のもの。スーツの質で着こなす。谷本:業界によって、または所属する部署によってもふさわしい着こなしは変わってきますよね。
森岡:自分の職種をどうみられたいか、を考えていただければ。基本的にドレスコードとして許される柄はストライプです。が、堅いお仕事をされている方はネイビーの無地が一番ですよね。ウィンドウペン(格子柄)では遊びすぎ。ただし、クリエイティブ系やマスコミ系ならフィットします。
谷本:まず業界のドレスコードを理解しますよね。次に自身にふさわしい着こなしへと落とし込んでいく際、例えば、身長の高低だとか、痩せ型・しっかりした体型など、個々人に似合う装いはどんなものなのでしょう。
森岡:スーツは皆のものだと思っていますから、どんなスーツも基本的には大丈夫です。ただ、スーツの質をご自分の職種やランクによって上げていかれるのが良いかと。たとえば、エントリープライスのスーツを会社のトップのような方が着ることは避けていただきたい。生地や仕立てが変わると佇まいが変わるからです。それは仕事への意識が高くなることと、服自体がその方の仕事振りや存在をバックアップし印象をより良くみせてくれるのです。
谷本:スーツを着て好感度を上げる、仕事が出来るように見える等、ベースの部分を覗きましたが、是非森岡さんに伺いたいのがファッション性について。自身の業界やポジションのドレスコードと、ファッションの流行とのバランスは、どのように考えたらいいのでしょうか。
森岡:難しいところですよね。ビジネススタイルの中でも小さな流行があります。分かりやすいのは、バブルの頃はソフトスーツがありましたよね。浮き足立っていた時代に生まれたものですが、センシティブでシビアな時代になった今に着るのはちょっと違いますよね。最近なら、佇まいにおいては正当的にかっちり見えることは重要。柔らかなスーツをソフトに着るのではなく、肩の位置や袖の長さを正しく合わせて着るようなブリティッシュ化傾向があります。着こなし面の流行で言うならば、ネクタイとスーツを濃色でまとめるのは今っぽいのかな。
谷本:やはり、何事もきちんと着こなすという前提があっての流行という色付けなのですね。例えば、スーツを選ぶ際、自分に最も似合う一着を森岡さんのような方に直接アドバイスを頂ければよいのですが、実際は必ずしもプロの意見を伺えるわけではありませんよね。ご自身でスーツを買う際、事前にどのようなリサーチをして行けば良いのでしょう。
森岡:「この人いつもちゃんとしているな」というメンターを何人か見つけて観察してみてください。そうすると、ちゃんとしているように見える理由に気づくはずです。なおかつ、スーツブランドはやはり最新の提案をしていますから、意識してチェックすることは重要です。
そして、ご自分のマイカラーをお作りになられるのはおすすめです。男性の場合はグレーやネイビーの定番色をベースに、そこに1色だけ足すんです。男性の場合は女性に比べて、スーツやネクタイにシャツなどアイテム数が少なく、皆が同じアイテムを使っているからこそ、差が大きく見えてしまうんですね。なぜこの人は輝いて見えるんだろう、と思う人は着方や色合わせが違うんです。
女性も同じです。ご自身が管理職になった際には、今まで見てきた方を参考にすれば大きな間違いをしないですむと思いますよ。
女性のリーダースタイルは、まずは男性のドレスコードを基本に谷本:女性も同じというご意見いただきましたが、男性と比べて自由度が高い女性のファッションは、より選ぶ幅が広すぎて、シチュエーションにあわせての選択が難しいように思います。実際、私の周りの女性経営者の皆様は大変苦労されています。ぜひ、女性のビジネススタイルについても聞かせてください。
森岡:基本は男性も女性も同じです。女性の管理職の方は増えていますが、その方々が言うには着られる服、または着たい服がないということ。つまり、お洒落に見られるではなく、仕事に対して意識の高い人だと意思表示ができる服がないと。
谷本:世界の女性のリーダーの方たちとお話をしていると、特に日本でその傾向が強いように思うんです。色も形もバリエーションが残念ながら乏しいここ日本において、女性経営者やマネジメントに携わる方たちからは、男性のようにネイビーやグレーのスーツを着ていけば良いのか、ピンクやホワイトなどあえて女性らしさを出す着こなしをすれば良いのか、という声をよく聞きます。森岡さんはどのように思われますか?
森岡:女性はドレスコードがないからこそ、男性の装いを理解してくださいと話します。女性が男性服のルールの基本を理解してそれをベースにコーディネートすれば、「この人は分かっているな」と男性に伝わります。そこから崩していかれるのが良いと思います。100点満点の着こなしを分かっていながら崩している人と、いろんなところで間違えて崩れている人。両者は決定的に違って見え、清潔感や佇まいがまったく変わってしまいます。
例えば、テーラードスーツを作る際、女性のファッションにはルールがないから、仕立てやフォルムでちゃんとした感を演出できていれば、極端に言うと女性ならベージュのスーツでもいいと思います。男性と同じようにネイビーである必要はないかなと。
谷本:ファッションを語ろうとすると、つい、お洒落に見せたいとか格好良くしたいといった気持ちが先走ってしまいますが、森岡さんの話を伺っているとそうではないんですね?
森岡:“スーツを着る意味”をご自身で問いただしてみてください。ほとんどの方は遊び着ではなく仕事着ですよね? なら、仕事着でお洒落に見える必要はあるのか? と問えば、ない、と僕は思います。
グレーゾーンを広げて奥ゆきを作ることでお洒落を楽しむ谷本:私は海外のトップリーダーにインタビューをする機会が多く、彼らからよく聞くのは、日本から来る若手のリーダーたちは確かにお洒落だけどトップとしての威厳が感じられない、と。お洒落が過ぎてしまうとリーダーやCEOとしてふさわしいと見られないということなんですよね。この話を聞いた時にドキッとしました。
考えてもみれば、経営者になる際に、様々な帝王学は学ぶことはあっても、ファッションのことって学ばないんですよね。特に日本ではあまり聞いたことがありません。一方で海外や外資系企業では、女性も男性も役職が上がるにつれて、リーダー学の一つとして着こなしの講座を受けていらっしゃるという話も聞きます。リーダーになればなるほど、様々な場所にでていかなければならない。そこで、オケージョン別にどのような着こなしがふさわしいのか森岡さんにお伺いしたいのですが。
森岡:100点満点の着こなしから、オケージョンに合わせて引いていくのがよろしいかなと思います。例えば謝罪会見では、間違いなく無地の濃いネイビースーツがいいです。シャツは白。襟はレギュラーカラーで、ネクタイはスーツの色に合わせて無地系を。または、柄やストライプは、細くて小さい柄やピッチが狭いものがいいでしょう。ポケットチーフなどは入れず、誰が見ても余計だなと感じさせない着こなしを。
基本的に、柄が大きくなるにつれてカジュアルに見えます。ストライプもピッチの幅が広いとカジュアル、狭いとドレッシー。これをハンドリングできれば、シーンに合わせられるようになると思いますよ。
男の着こなしはグレーゾーンで遊んでほしいと思います。チェック柄はダメだけど無地のように見える柄ならこれはドレスコードを意識しているな、と理解させる。かつサイズ感も合っていてきれいに着こなしていれば、なおいいですね。普段は正統派にきちんと装っているんだけれど、TPOや職種によって違うドレスコードの境目となるあいまいな部分=グレーゾーンを広げて奥ゆきを作っていくというのは、実は楽しいことなんですよ。
イベントではケータリングやシャンパンが振舞われた
森岡弘◎婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に入社後、『メンズクラブ』の編集部でファッションエディターに。1996年に独立し、株式会社グローブを設立。ファッション界を中心に、スポーツ選手、政治家や実業家などのスタイリングも行う。「ビジネススーツ超入門 成功する就活スーツ・フレッシャーズスーツはどれだ?」(講談社)、「きちんと見える 信頼される デキる女のおしゃれの方程式」(講談社)など著書多数。
谷本有香◎フォーブス ジャパン副編集長。証券会社、Bloomberg TVで金融経済アンカーを務めた後、2004年に米国でMBAを取得。その後、日経CNBCキャスター、同社初の女性コメンテーターとして従事。2016年2月より『フォーブス ジャパン』副編集長 兼WEB編集長。同年4月より跡見学園女子大学兼任講師就任。著書に「世界のトップリーダーに学ぶ一流の『偏愛』力」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。