おいしさをつくる技、ひと、想い。KIRINの取り組みをご紹介します。

今、「クラフトビール」が人気を博し、文化としても定着しつつある。クラフトビール人気を牽引するのは、IPA(インディアン・ペール・エール)をはじめとした、大量のホップを使った香り高く味わい深いビール。ホップのフレッシュでフルーティな香りは、ビールに欠かせない魅力だ。



ビール醸造には海外産のホップが使われることが多いが、実は国内でもホップを育んでいる土地がある。柳田國男の「遠野物語」などで知られる岩手県遠野市で、日本一の栽培面積を誇る。ホップの契約栽培で、キリンビールと55年の関係を築いてきた。

しかし遠野産ホップの生産量はピーク時の約4分の1にまで減少、「ホップの里」は危機的状況に陥った。 「ホップの里」が「ビールの里」に進化すれば、新たな観光体験が可能になり、まちの活性化につながるのでは――。地元の有志が中心になり、官民連携でこんなプロジェクトが始まった。

地元産生ホップで作ったビールの奇跡 「ビールの里」で連鎖するプロジェクト

2015年から開かれている「ホップ収穫祭」。ホップの収穫を祝いながら、地元産のホップを使ったビールや料理などを味わった。五感を刺激する体験で、予想を超えるにぎわいと経済効果を生み出している。来場者数は年々増え続け、今ではすっかり遠野の名物行事だ。



遠野に集まるのは観光客だけではない。遠野に移住した醸造家・袴田大輔氏は仲間たちとクラウドファンディングで資金を募り、ブルワリーパブ「遠野醸造」をオープン。今年初めて、支援者らと「地ホップ」を使った地ビールでの乾杯にこぎつけた。まさに本物の地ビールを味わえるようになったのだ。これまで縁もなかった遠野に「ホップの産地の近くで、鮮度のいいものを使いたい」とやってきた袴田氏の思いがかなった瞬間でもあった。



一方、「BEER EXPERIENCE」の吉田敦史代表はホップに加え「遠野パドロン」の栽培に取り組んでいる。日本ではあまり見かけない野菜だが、スペインではビールのおつまみとして定番。吉田氏はパドロンを希少性の高い国産野菜として栽培を始めた。しかし「ビールの里」構想のメンバーとして活動をしていく中で、遠野パドロンの「ビールの里のビールのおつまみ野菜」としての付加価値に「アッと気がついた」という。「ビールの里」構想に新名物のおつまみも加わり、取り組みは広がりを見せている。



官民を挙げたこのプロジェクトでは、キリン社員も奮闘している。2013年から遠野に通い詰め、地元の方と一緒にまちの活性化を目指してきた浅井隆平氏だ。

今年2月、前述の「BEER EXPERIENCE(ビア・エクスペリエンス)」社がキリン等の出資を受け、設立された。ホップ生産の強化とビール文化で多様な価値を生み出すことを目的としたこの会社に、浅井氏はキリンから出向する形で社員として働いている。組織の垣根すら越えながら広がる「ビールの里」構想から、企業と地域の新たな協業の形が見えてくる。

遠野に注目 エバレット・ケネディ・ブラウン氏

遠野の取り組みに注目するのは、近著『黒船時代の技法で撮る 失われゆく日本』が話題のフォトジャーナリスト、エバレット・ケネディ・ブラウン氏だ。長年日本の文化を研究、撮影し、新潟県小千谷市や福島県相馬市などのまちおこしアドバイザーとして成果をおさめてきた京都在住のブラウン氏。



地域の優れた名品やプロジェクトを表彰する、内閣府後援の「ふるさと名品オブ・ザ・イヤー」の審査員をつとめている。昨年エントリーされた全プロジェクトのうち、ビールを中心としたまちづくりを進める遠野のプロジェクトが最も印象に残っているという。同プロジェクトは地域創生大賞を受賞した。

「地方創生」や「インバウンド対応」といった枠を超えた、企業の未来につながる地域との理想的な関係、CSV(企業が自社の利益と社会課題解決を両立させることで社会貢献を目指すという経営理念)のあるべき姿が、遠野の取り組みにはあると語るブラウン氏。

氏が語る、遠野×キリンの取り組みが成功した理由から、「相利共生」の形、そしてこれからの日本企業が学ぶべきポイントが見えてきた――。



1、地域×企業の「テロワール」と「アルティザン」 遠野を動かす原動力

遠野は、僕にとってとても思い出深い場所です。昔、東北の魅力の虜になり、釜石にあった企業の仕事を担当していたことがありました。休日には「遠野物語」の本を手に遠野に通い、歩き回りました。豊かな自然、茅葺き屋根の家々など、昔の日本にタイムスリップしたような、本当に素晴らしい土地でした。



遠野は文化やストーリーを持っている土地で、「遠野物語」という強いブランドがあった。地元の方々も「遠野人」というアイデンティティに誇りを持っています。

その遠野が持つ魅力を考えたとき、私は「テロワール」と「アルティザン」という言葉が思い浮かびました。テロワールはワインの味わいの決め手になる、ぶどう畑のある土地の気候や土壌などの性質を表す言葉で、アルティザンは職人という意味です。

地方創生やまちづくりで最も大事なことは、地元の方々との土壌づくりです。遠野にはホップの契約栽培で、地元の方々とキリンとのテロワールが土壌としてあった。そんな共同体の中で官民連携の新たなプロジェクトが生まれ、経済効果も生み出しているのは素晴らしいことです。

遠野では高校生が自発的にホップの蔓を使った和紙を作っていたり、小学校の子供たちがホップについて学んだりしているそうですね。みんながホップ文化を大切にしてきたことがうかがえます。

今回、そんなテロワールを生かし、官民協働でビールを中心に盛り上げていこうという思いが生まれた。そこに地ビールづくりのアルティザンが加わったから、新たな挑戦が成功しているのでしょう。

モノカルチャー(単一文化)の傾向が進んでいる現在ですが、本来、日本の地域には、その地域ごとの魅力や価値観があります。日本人の本当の強みは多様性なのです。キリンは各工場所在県のビールを出すなど、画一的な価値観の押し付けではなく、多様性を重視した取り組みをしていますね。だからその土地のテロワールに合った寄り添い方ができるのでしょう。

2、「本物」志向と長期的な視点が生み出す、協業の価値

遠野のみなさんとキリンが共有している価値観があります。それは本物の「ものづくり」にこだわる姿勢です。そしてこの価値観の共有が長期的視点に立った協業を生み出しているのではないでしょうか。

遠野プロジェクトの評価すべきところに、大手の飲料メーカーであるキリンが、地元に構えた醸造家を懸命に支援しているという点があります。ある意味、競争相手になりますので、短期的には利益相反になりえることです。企業の社会貢献自体が目的化していたり、数字だけを追いかけたりしていては、決してできない姿勢です。



ここで改めて、遠野の皆さんが着目したビールの本質に目を向けてみたいと思います。

長年、日本各地を歩いて来ました。その土地ならではの味わいを感じられる地ビールが各地で盛り上がってきていますね。私も常温に近い地ビールを飲むと、その地域の土壌を味わっているような、本物のビールを味わっている感覚があるんです。

最近の地ビールの潮流を鑑みると、「ものづくり」としてのビールの製造過程を感じられる、本物の味や香りを求める人が増えているのではと感じます。



グローバルでは本物志向が進んでいます。日本でもこの傾向は続いていくでしょう。「丁寧さ」や「匠」、「クオリティの高さ」といった、日本人が大切にしてきた価値観は、本物を求める世界的潮流の中で強みになっていくはずです。これからの日本の企業は、改めて「本物」を追求していくべきです。

キリンの遠野での取り組みは一見遠回りかもしれませんが、ビール文化自体を支援することは、長期的には相乗効果があると言えます。キリンの社員が日本のビール文化の再興を目指し、自社の未来にも活かそうと、遠野から多くを学んでいるようにも感じます。

激しい競争や、縦割りのセクショナリズムの中で、今ものづくりに携わる人たちは、自分たちが一体何を生み出しているか、どんな価値を大切にしているかがわからなくなる時があると思います。キリンの地道で丁寧な向き合い方が、地元での横のつながりを生み出した。その経験が今後、キリン社員たちが仕事に向かう志になるのでしょうね。

3、持続可能性を追求する、未来型のまちづくり

地域経済を活性化させたいというときに、上から一時的にポンとお金がおりてくるだけではだいたいうまくいきません。持続可能性が重要です。

その点で、企業が地方創生に携わる意義があります。ただ自分たちのためというだけではなく、ギブアンドテイクの精神で、どこまで真摯に地元のテロワールに向き合えるか。伝統を守るだけでなく、地元に寄り添って新たな伝統を作り、育てていけるか。

資金調達でいうと、遠野醸造さんが用いたクラウドファンディングの仕組みは最先端のようで、非常に日本人的な仕組みなんですよね。昔から神社などを作る際には、クラウドファンディングのような仕組みで地元の人などから資金を募っていました。



遠野の取り組みでは、持続可能性を追求してどんどん輪を広げていっていますよね。「ホップの里」に、ビールやおつまみ野菜で「飲食」という新たな魅力が生まれた。食は人を呼び込みますし、五感を磨くには素晴らしい体験です。遠野のテロワールを実際に味わえるエクスペリエンスが可能になりました。


遠野パドロンは、外国人観光客もきっと魅力に感じますね。新たな感動を覚えるでしょう。



遠野の事例は形だけの「地方創生」ではなく、その本質を感じられる取り組みですね。 遠野では、まちがビールのように発酵しているのではないでしょうか。官民一体となって、外部の風も採り入れて、まちが生きている。未来型のまちづくりなんですね。

知人が遠野でチーズづくりに取り組んでいます。遠野には質のいい牛肉もあると聞きます。今後さらに地域ぐるみで、様々なコラボレーションが生まれていくでしょう。







企業と地域の、あるべきかかわり方とは

ブラウン氏の言うように、CSR(企業の社会的責任)やCSV、地方創生は、それ自体が目的化してしまった途端、実際の取り組みがそれを実現するための「手段」になってしまう。

「ホップの里」を「ビールの里」にーー。もし少しでも「上から目線」でキリンが遠野に向き合っていたり、自社の都合を押し付けていたりしたら、この構想は実現しなかったかもしれない。

前述した遠野在住のキリンの浅井氏は長くディレクター的な役割を担ってきたが、決して自らリーダーになるわけではなく、リーダー的存在を見出し、支えることに尽力してきた。



「企業が地域をどうこうしようというのは非常におこがましいと思います。ビジョンのある地域のリーダーたちの夢を叶えるにあたり、例えば彼らだったら10年かかるものを、僕ら企業が加わることによって3年にする。そういう感覚を僕は持っています。だから、地域の未来のエンジンになることはできますが、先頭に立って牽引していくというのは違うと思っています。ですので、このまちでみんなの夢を牽引していくプレーヤーが現れた時には、『ああ、これはいけるな』と思いましたね」

浅井氏の言葉に、キリンの姿勢がうかがえる。

キリンは遠野市との長年にわたる信頼関係があった。本物のビールを追求するうえで、日本産ホップやその生産者を守り支えたいという強い思いがあった。ビールという新たなまちの魅力を押し付けるのではなく、地域と有志の力で実現できるよう、時間をかけてバックアップしてきた。

市場や利益、効率を追求するだけでは成し得ない、リスペクトに満ちた、企業と地域とイノベーターたちの丁寧な向き合い方。その結果として、遠野に「ビールの里」という新たな魅力が加わり、キリンにとっては、長年持ち続けてきた「ビールの本質を丁寧に追求する」という企業姿勢を体現する経験となっている。

ホップの危機という逆境から生まれた官民挙げてのクリエイティビティが、今後さらに遠野というまちの魅力を増幅させ、外国人を含めた多くの人を呼び込んでいくだろう。企業と地域の関わり方として、学べることは多いはずだ。



遠野産ホップを味わえる 「限定」一番搾り

遠野産ホップ「IBUKI(いぶき)」を使った「一番搾り とれたてホップ生ビール」が今年も10月23日から、数量限定で全国発売される。さらに今年は「IBUKI」のフレッシュ感が引き立つよう、ホップの使用量・投入方法を工夫したという。今しか味わえない、遠野産ホップの香りを楽しみたい。



ストップ! 未成年者飲酒・飲酒運転。 問い合わせ先/キリンビールお客様相談室 TEL:0120-111-560

Promoted by KIRIN / 文=林亜季 / エバレット・ケネディ・ブラウン氏写真=小田駿一 / その他写真=キリン提供

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