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次世代を担う「30歳未満の30人」を選出したForbes JAPANの「30 UNDER 30」。Forbes JAPANと、若手ビジネスパーソン向けウェブマガジン「EL BORDE」による特別賞「EL BORDE特別賞」が、これからのビジネスシーンを牽引する3人に贈られた。

今回「EL BORDE特別賞」を受賞した巣籠悠輔(すごもり・ゆうすけ)は、今年のForbes ASIAの「30 UNDER 30」にも選ばれ、W受賞となった。

巣籠は人工知能を使った医療情報の分析やオンライン診療サービスを手がける株式会社情報医療(現・MICIN)を共同創業し、CTOを務める。ニュースアプリ「グノシー」やクラウドファンディングサイト「Readyfor」の創業メンバーでもある。若くして東京大学の招聘講師も務め、ディープラーニングなどの著書でも知られる。

飄々とした佇まい。自身を「人並み」と評する巣籠だが、「努力の天才」であることは間違いない。まだ挫折をしたことがない、ということは、挫折をしないだけの努力を徹底的に重ねているということだろう。

「苦労が好き」「知っていることだけやってもつまらない」と話す彼のバイタリティは、どこから生まれるのか。なぜ、人の何倍も頑張れるのか。なぜ彼は、苦労して習得した技術や知識を次世代に「教えたい」と語るのか──。

気鋭のAI専門家である巣籠が、今回の受賞を機に初めて、自らの原動力の源泉をさらけ出した。以下、一問一答を紹介したい。


リスクはチャンス。どんどんリスク取っていこう

─30 UNDER 30 JAPANの「EL BORDE特別賞」を受賞したお気持ちをお聞かせください。

率直に、すごく嬉しいです。ちょうど今年、Forbes ASIAの「30 UNDER 30」にも選ばれて、今年からForbes JAPANでも始まるとのことで、第1回でこのような特別賞をいただけるのは本当に嬉しく思います。

今まで自分がやってきたことを少しは認めていただけたのかな。これからもっともっと頑張っていかないと、と思います。

学生時代に「グノシー」や「Readyfor」に創業メンバーとして携わったのですが、やはり5、6年前は、ベンチャーを立ち上げる人が少なかったんですよね。今は結構、ベンチャーに挑戦しやすい世の中になってきているというのは感じますし、リスクを取りやすい世の中になっていると思います。

若い人には、「ダメならダメで、またすぐ何か別のことをやれる環境が整ってきているので、どんどんリスクを取っていこう!」と伝えたいです。

幸いにも私はリスクだらけの環境にいるので、周囲の人もリスクだらけなんですけど……。とにかく後ろ向き思考はしてほしくない。

─ご自身にとって、「リスクを取る」とは?

基本的に、起業してから常にリスクを取っていて、いつもギリギリの戦いをしています。一歩でも気を緩めたら、ガラガラ崩れ落ちる状態。

これは3つ上の姉の言葉ですが、「挫折はいつでもできる」をモットーにしています。私はまだ挫折は経験していません。挫折はいつでもできることだから、挫折しそうになっても、踏ん張って乗り切ってきました。ネガティブな状態にならずステップアップしていくことを意識しています。

言語の問題なのかもしれませんが、日本語で「リスク」といった時に「危ないもの」みたいなイメージがあると思います。でも、例えば金融の世界では、「リスクはチャンスだ」という考え方があります。私たちはどんどんリスクを取るべきだと思うんですよね。

リスクっていう日本語を変えてしまえばいいのかな、と時々思います。

自主制作のサイトで自信を、出版で認知を獲得した

─これまでのキャリアの中で、ブレイクスルーを感じた瞬間を教えてください。

2015年の3月、電通時代に「CSS SANS」というサイトを自主制作で立ち上げたんです。

CSSは段落の周りに線を引いたり、段落の大きさを整えたりといったことができるウェブデザイン用のコンピュータ言語ですが、それを応用して文字を作ってみたんですね。CSSがわかる人にとっては、超絶「やばい」サイトというのがわかるんですが……。

国内だけでなく海外での反響が大きく、「Hacker News」というサイトに掲載されると1日で30万PVぐらい獲得し、一気に広まりました。フランスの雑誌にも取り上げられました。

しばらくして、イギリスの出版社から声がかかり、初の著書『Java Deep Learning Essentials』を出版することになりました。



まず海外で、英語で出版し、日本の出版社から訳書を出さないかと打診がありました。そして日本語版『Deep Learning Javaプログラミング 深層学習の理論と実装』も出しました。自分が著者かつ訳者です(笑)。



「CSS SANS」は自分の自信に、著書は世の中に自分が認知されることにつながったと思っています。この2つの経験を経て、自分の能力で実現できることが結構あると自信がついたことで、よりリスク志向になりました。

─インプットやアウトプットの際に、心がけていることはありますか。

私は勉強が好きで、勉強ばかりしているのですが、インプットする際は「なぜ」を無くすようにしています。「なんでそこに行き着いたか」という疑問を自分の中に残さないようにしますね。

疑問を無くす、という意味で本という形でアウトプットしているのかもしれませんね。アウトプットしながらインプットするみたいな。アウトプットしていたら、インプットの疑問点に気付くので。

初の著書は英語。一週間の楽しみは「シェイクシャック」

─最初の著書がディープラーニングについての英語の本だったのですね。

実はこれまでで一番挫折しそうになったのは、この本を書いていた時です。限界まで「やばい」と思った瞬間ですね。やっぱりできないかもしれないと、出版社に“I apologize”というメールを書き始めたんですよね。最終的には送りませんでしたけど。

人生で最初の本で、その本が英語という。出版社から依頼が来た時には「ま、書けるだろう」と思って気楽に引き受けましたが、書いていたら予想以上に辛くて、書き終わるかなと……。

その時に踏みとどまることができたのは、姉の「挫折はいつでもできる」という言葉があったからです。

─どのように執筆していたのですか。

執筆自体は4、5ヶ月、出版に行き着くまでは1年くらいかかったと思います。ちょうどグーグルニューヨーク支社に行っていた時なので、ニューヨークで執筆していました。ニューヨークのアパートがボロくて、毎日3匹以上出てくるゴキブリと戦いながら執筆していたので、病気になりそうに……。

当時は毎週土曜日にハンバーガー店「シェイクシャック」に行くのを楽しみに生きていたので、それをモチベーションに頑張っていました。土曜はシェイクシャックに行って、日曜日にはメキシコ系ファーストフードの「チポトレ」に行って、執筆して。すごく楽しかったです。

意識していることは、長い道のりを細かく分割して、自分の中でコンスタントに達成感を味わっていくことです。書けない日もありましたが、「2ページずつの執筆を一週間続ける」とか、「1章書き上げたら一人で飲みに行く」とか決めたりしていました。

漫画「ドラゴン桜」で、中国の万里の長城をどう作ったかを生徒に教えているシーンがあるんですが、スタートからゴールまで一気に作っていくのではなくて、いくつかのブロックで分けて少しずつ作っていったのだそうです。そんな感じで短い期間で達成感を味わうようにしています。

「好き」を貫いた結果、今がある

─なぜAIやディープラーニングの分野に関心を持ったのですか。

ディープラーニングを始めたのが2012年の終わりなんですが、2015年ごろに国内でたまたまブームがきたんです。

AIは数式が美しいんですよね。数学は得意ではないんですけど、数式は好きで。「この分野が流行りそう」みたいな感じでやってきたわけではなくて、好きを貫いた結果、今があるみたいな感じですね。

私が文章を書いたりAIを研究したりしているのは、「人間の脳ミソを再現したい」という思いがあるからなんです。文章も数式も究極的に伝えたいことは一緒だと思っています。数式も基本的に何かの表現ですよね。中でも多分AIってイメージしやすい。人間の脳ミソを数式で書いて再現できるか、ということなので。

医療分野に関心を持ったのは、サイエンスの意味で人間の脳ミソを知りたいなと思い始めたからなんですよね。この分野には昔から興味があって、なんなら医学部を受験しようかな、くらいの勢いでした。また、まだIT化されていない、手付かずの領域をやりたいと思っていました。

ソフトウェアの文脈においては、医療は全然IT化されていない。医師不足で困っていますし、大変だなと思います。

以前、ものすごくお腹が痛くて、病院に行ったことがありました。それで治らず、違う病院に行ったら、また一から話さないといけないのが辛かったんです。その医療情報が医師間で共有されていないことが、すごく不便だなと思ったんですよね。私以外も大勢感じているんじゃないかなと思います。

好きなことなら、苦手でも、苦労してでも、飛び込んでみよう

─同世代のビジネスパーソンに、ぜひアドバイスをお願いします。

変な話、今の世の中、日本企業の終身雇用ってあやしくなっているなと思うので、どの環境にいるにせよ、自分の思うことをやったらいいと思います。自身の才能やスキルを生かすべき場所じゃないと思ったら、素直に場所を変えたらいいと思うんです。それはそれでリスクをとるということですよね。

でも、独りよがりの考えで環境を変えるのではなく、学ぶべきことは学ばなければいけないと思うので、本当になんか違うと思うなら変えるべきですけど、そうじゃないんだったら学び切る。信念があって、曲げられないことならば曲げなければいいと思います。

私は、一番苦手なところに飛び込む癖があるようです。例えば、東大の松尾研に入った時もプログラミングが全くできないけれど、やってみたいという強い気持ちがあった。周囲はできる人がたくさんいて、私はできなかったのですが、そこは努力してできるようになりました。好きなことであれば、苦労することも厭わないです。全くバックグラウンドがなかった医療も興味があってやっていますし。

20代は知っていることだけやってもつまらない。もうそこで終わりになってしまうじゃないですか。自分が知らないところにどんどん飛び込んでいって、ステップアップしていくことが大切ですよね。

私は宇多田ヒカルさんが好きなんですが、「20代はイケイケ!」という彼女の言葉があるんですよ。それをモットーにしていました。ちなみに彼女は「30代はほどほど。」と言っているのですが、私はまだ30代でもイケイケでいたいんですけど(笑)。

背中を見せる。苦労して学んできたから、次世代に伝えていきたい

─MICINのCTOとして、仕事上の楽しみは何ですか。

今の会社、最初は3、4人だったんです。今は30人。増えていく過程を見ているのがすごく楽しいです。

自分がいない所でも何かが出来上がっていっているのが嬉しいことですね。みんなでやっている意味を感じます。昔は全て自分がやらなければならなかったのに、今は自分がやっていないことでもどんどん出来上がっていく。

最先端のことをやらなくてはいけないので、傲慢かもしれませんが、私はエンジニアたちの目指すべき姿を見せる。アウトプットは結構頑張っていますね。

弊社のエンジニアはそれなりにハイパフォーマーなので、プレッシャーはかなりあります。私自身もちゃんとしていないと見限られそうだなと。私より優秀な人が育つのは望ましいんですけど、怖いっちゃ怖いです。

─今後のビジョンについて教えてください。

何かを作り続けていたいというのは間違いない。今は医療分野で全力コミットしているので、この分野で何か実績を残せればいいなと思っています。

今後やりたいことは色々あって、医療、教育、法律など。短期的ビジョンとしては医療、ライフワークとしては教育をやっていきたい。その傍で、実は将来小説を書いてみたいと思っています。村上春樹さんの作品のような、メタファーたっぷりの本を書いてみたいです。

結局、自分が思う世界をどう作るかということだと思います。私自身はエンジニア文脈で知られていますが、自分自身としては、クリエイターでありたいという思いがあります。

教育という意味では、たまに子どもたちにプログラミングを教えています。人に教えることが好きです。

東大に入った当時のことを思い出すと、大学の勉強についてクラスメイトたちに聞いても説明がよくわからなかったんですよね。みんな頭が良すぎて……。私自身はやっぱり人並みで、苦労して勉強してきているので、子どもたちにはちゃんと伝わるように教えたいという気持ちがありますね。

私は日本が大好きなので、将来の日本を支える人を育てたい。あまり言いたくないことですが、日本って今後ますます少子高齢化が進むじゃないですか。働く世代が足りなくなると言われていますけれど、今、特にITについて子どもたちに教えてあげれば、たぶん人口不足を機械がまかなってくれるはずなんですよ。労働不足にはならない、むしろちょうどいいくらいになるんじゃないかなと思うんです。

子どもたちに、何か私の持っている、知っていることをちゃんと伝えていければと思っています。


巣籠 悠輔(すごもり ゆうすけ)
1988年、東京都生まれ。学生時代に「グノシー」、「Readyfor」の創業メンバーとして、エンジニアリングやデザインを担当。大学院修了後、株式会社電通に入社。デジタルクリエイティブの企画・制作、ディレクションに従事。グーグルニューヨーク支社勤務を経て、2016年、株式会社情報医療(現・MICIN)を共同創業しCTOに就任。2016年9月より東京大学招聘講師。東京大学工学部システム創成学科卒(首席)、同大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻修了。『ビジネスパーソンのための人工知能入門』『詳解ディープラーニング』などの著書がある。


【共通質問】

・座右の銘は?

「挫折はいつでもできる」。姉の言葉で、挫折しそうになった時はこの言葉を思い出して乗り切ってきました。

・「#わたしのバイブル」として1冊挙げるなら?

バイブルって難しい。手前味噌ですけど、自分で書き上げた本って、思いが詰まっているので、辛くなってきた時は自分が書き上げてきた本を見て、「こういうことをやってきたのだからまだできる」と思っています。

・休日の過ごし方は?

シェイクシャックに行きます(笑)。それ以外の時間は勉強しています。最近はちょっと挫折しそうですが、物理経済学の本を読んでいて大変です。まあ、Netflixを見て1日が終わったみたいな日もありますけど(笑)。

・憧れの「Over 30」は

イーロン・マスクさんは一番すごいと思う。彼はいつもリスクをとって、どんどん新しいことをするんですよね。彼くらい富と名声があると、何もしなくても生きていけるはずじゃないですか。それでもさらに、フルレバレッジの姿勢が素晴らしいと思っています。あと、クリエイターでありたい私にとっては、やっぱり宇多田ヒカルさんは憧れです。プライベートで彼女と知り合いになるというのが人生の目標のひとつです(笑)。


EL BORDE」とは

日本のミライを創造する若きビジネスパーソンのために、 仕事やプライベートに役立つ知識や情報を発信する野村證券のオウンドメディアです。 野村證券は「EL BORDE」を通して、若者たちの「変革と挑戦」を応援していきます。

文=林亜季、写真=小田駿一

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