テクノロジーの進化は未来の企業社会や組織の在り方にどのような変化をもたらすのか──。AI(人工知能)などの先端的技術の導入やチャットツールの普及によりいま、組織のあり方、個人の働き方に大きな変化が訪れようとしている。そうした中、未来の組織、働き方について考えるイベント「Future of Work Japan 2018」が2018年9月6日、7日の2日間にわたって虎ノ門ヒルズで開催される。イベントの開催に先立って、Forbes JAPANでは「未来の組織、働き方」をテーマにした特別対談を実施。組織のコミュニケーションの在り方を変えるビジネスコラボレーションツールとして注目を集めている「Slack(スラック)」。その創業者であるスチュワート・バターフィールドとHRテクノロジー分野のリーディングカンパニーとして、戦略人事クラウド「HRMOS(ハーモス)」などのサービスを展開するビズリーチ代表取締役の南壮一郎が未来の組織、働き方について語った。
Slackによって高まる組織の「アラインメント」とはスチュワート・バターフィールド(以下、バターフィールド):Slackは2017年11月に日本語版をリリース以降、急速に日本での存在感を高めていきました。日本のデイリーアクティブユーザー数は50万人を突破し、世界で2番目のユーザー規模に成長しています。
ただ、ローンチの当初から英語版を利用しているユーザーも多く、その大半はゲーム開発者や、ソフトウェアのエンジニアたちでした。
未来の働き方の変化を考える上で、これは非常に興味深い動きだと思います。新しいコミュニケーションツールの活用が、まずはテクノロジーに近い人々から始まり、それがマネジメント陣や経営者層にまで広がっていった。
米国版のSlackもまずはシリコンバレーのエンジニアたちの間で利用が広がりましたが、それと同じ動きが日本でも起きようとしています。
南壮一郎(以下、南):ビズリーチは2016年にSlackの導入を開始し、1カ月ほどの間で全社に広まりました。最初に導入が進んだのはやはり社内のエンジニアチームで、それが社内全体のコミュニケーションを変えていった。
既存ツールの置き換えになるため、社内の一部からは反発の声もあがりましたが、私は信念を持って推進しました。未来の働き方を考える企業のトップとしてテクノロジーが業務を変えていくという確信があったのです。今では社内のコミュニケーションはすべてSlackに移行しています。今後はSlackのようなビジネスチャットツールが、テクノロジー系以外の企業にも活用されていく。スチュワートはそんな見通しを持っていますか?
バターフィールド:そうです。テクノロジーが広範囲な企業に活用されるなかで、伝統的な大企業も変革を求められている。かつてEメールが業務コミュニケーションの形を変えていったように、今後はSlackのようなビジネスチャットツールが職場のコミュニケーションの在り方に変化をもたらしていくはずです。
Slackの強みは組織内の意思疎通のボトルネックを無くし、チームをまたいだ情報共有をスムーズにすることで、生産性が向上する点にあります。
近年の企業マネジメントを語る上でよく用いられる用語に、アラインメントという言葉があります。アラインメントというのは製造やセールスやマーケティングといった各部署がうまく連携をとり、共通のゴールに向かって進んでいくこと。
一言でいえば団結力とも言えるでしょう。アラインメントが高い組織では、チームの全員がお互いの業務を深く理解し、業務のプライオリティを共有できる。Slackは組織のアラインメントを高め、生産性向上の効果をもたらすツールです。
カリスマ性はいらない。リーダーに必要なのは「地道な努力」南:テクノロジーの進化によって人々の働き方は大きく変わってきました。いま、マネージャー層に求められるのはどのような役割でしょうか?
バターフィールド:昔の企業社会における生産性は、シンプルな指標で測られていました。例えば、限られた時間で何台のクルマや椅子が製造できるのか、そういう具体的な数値目標が常にあった。しかし、組織や業務の複雑化が進むなかで、各部門や個人のパフォーマンスの指標というのは抽象度が増し、明確な指標の設定が難しくなっているのが現状です。ただし、私に言わせるとそれはやはりアラインメントの問題であり、マネージャーは常にどうすれば組織の団結力を高めていけるかを考えるべきだと思っています。
南:ビズリーチには現在、1,200名ほどの社員がいます。5、6年前に70名ほどだった組織が急速にチームを拡大したという点では、Slackと同様だと思います。スタートアップ企業が急激な成長を遂げるためには、どのようなアプローチが必要だと思いますか?
バターフィールド:私自身もまだ試行錯誤を重ねている段階です。ただ、ひとつだけ言えるのは、リーダーは大切なことを、何度でも繰り返し伝えること、リマインドしていく努力を怠らない。それが何より大事だと思います。
南:それは私も同感です。新しいビジネスモデルや戦略を語るのも大切ですが、経営者は時には少し後ろに戻って、同じことを反復して伝えることも重要だと思います。
バターフィールド:マネージャー層に求められるのは、適切なツールを使いこなしてメッセージを発信していくこと。メールやSlackに限らずビデオ会議も重要です。私の場合、毎日3時間ほどをビデオ会議に費やしています。Slackやメールは会話の履歴の検索性の高さがメリットですが、ビデオ通話のような対面型のコミュニケーションにも他にはない良さがある。様々なテクノロジーが台頭してくるなかで、企業のリーダーは適切なツールを使いこなす柔軟な姿勢が求められます。
社内外でのコラボがイノベーションを促進する南:少し話が飛躍しますが、私は個人的にダーウィンの進化論に興味を持ち、南米の秘境と呼ばれるガラパゴス諸島に10日間ほど滞在したことがあります。そこで考えたのは、生物が進化の過程でどのように生き残ってきたかということ。現代の企業社会においても、個人が変化に対応する必要に迫られていることを強く感じています。
かつての終身雇用の時代とは違い、現代のビジネスパーソンにとっては大学を出てから一生同じ会社に務め続けるような働き方は、もはや当たり前ではなくなった。複数回のキャリアチェンジを重ねながら、新たな能力を身につけ、サバイブしていくことが求められています。そのためには環境の変化に柔軟に対応し、進化していく姿勢が必要です。
また、個人だけでなく企業も様々なチャネルを通じて、外部の企業とコラボレーションすることが求められると思います。Slackは昨年から企業間のコラボレーションを促進する新機能「Shared Channels(共有チャンネル)」を始動させましたね?
バターフィールド:はい。企業間のコラボレーション市場には今後の巨大なポテンシャルが眠っていると考えています。Slackはこれまで主に、社内のコミュニケーションに用いられるツールでしたが、Shared Channelsでは取引先や協業先と、共有チャンネルを通じたやりとりを効率化させる機能を追加しました。
Shared Channelsは、現在はまだベータ版として運用中の機能ですが、今後はメッセージのやりとりにとどまらず、セキュアなドキュメントの共有やインボイスのやりとりなど、企業間のコラボに必須の機能を盛り込んでいきます。Slackを利用する企業同士が連携することにより、さらなるイノベーションを生み出し、生産性を高めていくことを目標としています。
南:たしかに企業間のコラボレーションには大きな可能性があると思います。さらに、その話から連想するのはダイバーシティという課題です。ダイバーシティというのは日本では一般的に、女性の社会参加という問題と捉えられがちですが、私の考えではもっと広範囲なもので、企業の意思決定に参加する人々の多様性をもっと拡大していくべきだという考え方。それがダイバーシティだと考えています。
ビジネス社会が変貌するなかで重要なのは、これまでよりもっと多様な人々が意思決定に参加し、お互いのコアバリューを認識しつつ、生産性を高めていくことだと思います。企業が認識すべき課題は、従来の硬直したマネジメントの在り方を改め、チームに参加する全員の参加を促しつつ合理的な判断を下し、前に進んでいくことだと思います。
そんな意味でも、組織の垣根を超えたコミュニケーションを促進するSlackは非常に重要なツールであり、今後の企業社会を変えていく原動力になると期待しています。
Slackを筆頭とした、さまざまなツールの登場によって変わりつつある「組織のあり方」。また、AIの台頭によって、変革のうねりは「個人の働き方」にまで押し寄せてきている。
「働き方改革」を合言葉に、組織のあり方、個人の働き方が大きく変わっている昨今、企業の経営層、マネージャー層は何を考え、実行していくべきなのだろうか。
Future of Work JAPAN 2018
公式サイト:https://futureofwork.jp/
日時:2018年9月6日(木)7日(金)10:00~18:00
場所:虎ノ門ヒルズフォーラム(東京都港区虎ノ門1-23-3 虎ノ門ヒルズ森タワー5階)
対象:経営層、事業部長、経営企画・人事部長等
Future of Work Japan 2018では、イノベーションを起こし続けてきた先駆者たちが「未来の経営、働き方」をテーマに語り合う。ネスレ日本株式会社代表取締役社長兼CEO高岡浩三、株式会社セールスフォース・ドットコム代表取締役会長兼社長小出伸一のほか、USJ躍進の立役者として知られる株式会社刀代表取締役CEO森岡毅、SHOWROOM株式会社代表取締役社長前田裕二、青山学院大学を箱根駅伝4連覇に導いた原晋ら豪華スピーカーが登壇。組織づくり、人材活用についての最新の知見が得られる2日間になるはずだ。