超AI時代の暮らし方について未来の住空間を考える対談型カンファレンス【blueprint】を連載。

CASPAR AIを開発したBoT社CEOのアシュトシュ・サクセナ氏が現代の魔法使い・落合陽一と描く住居の未来の姿。そこでは子どもたちは犬や猫と遊ぶようにAIやIoT機器と戯れ、高齢者は日常のアクションでAIの恩恵を受けることができる。そこにはもう壁のスイッチもインターフェイスも存在しない。住居自体がコンピュータになることで、人間の暮らしはもっと豊かで快適に、そしてクリエイティブなものになっていく。


家が住まう人間の目的を察知する
AIによるホーム・テクノロジー

落合陽一(以下、落合):最初にCASPAR AIのデモンストレーションを見た時、機械学習を用いているのかなと想像していたんですが……。

アシュトシュ・サクセナ(以下、アシュトシュ):使っているのは教師なしのディープラーニング技術です。多くのAIアルゴリズムを使って、彼が何をしようとしているかを感知していくのです。居住者がどこにいるのかは、ヒートマップと人の動きを追尾できるヴィジョン・アルゴリズムも使用しています。このAIは非常に高機能ですよ。「映画が観たい」といえば、自動でテレビがオンになり、カーテンが閉まります。

落合:それはどの様に決定されるのでしょう?

アシュトシュ:ディープラーニングが日々、居住者のことを猛烈に学習していきます。以前、映画を観ようとしたときに画面に日光が映り込んだのでカーテンを閉めた。その居住者のアクションを覚えているからです。私たちはこれを「コンテクスト(状況)」と呼んでいます。

落合:住居が居住者の行動をディープラーニングしていく、とても興味深いです。自分は研究者なので、複数の問題を別々のフィールドで解決することが多いんです。CASPAR AIのようにトータルで解決していく手法は素晴らしいと思います。

アシュトシュ:あなたの論文は読みました。コンピュータグラフィックスは、コンピュータビジョン(「ロボットの目」をつくる研究分野)とは正反対のスタンスですよね。環境を構築する研究と、すでにある環境をどうするかという点で違っていますね。

落合:それこそ住居も居住者もバラバラなわけで。初期設定をどうするのかなど、アーキテクチャに興味を引かれます。

アシュトシュ:CASPAR AIは可能性を追求し、将来起こり得ることを絶えず想像しているのです。



落合:膨大なデータ量ですね。

アシュトシュ:でもプライバシー保護の観点から、データ自体は保存しないのです。確率学習を使って居住者のLSTM(長期の時系列データ学習)を生成し、毎日更新するだけです。それが長期にわたるのは、クリスマスの行動は、次のクリスマスまで覚えておかなくてはならないことだから。

落合:クラウド全盛の時代ですが、ローカルでデータを処理しているんですよね。

アシュトシュ:私たちはすべてクラウドに接続されるのは良いことだとは思っていません。多くのコンピュータが危険に晒される状況で、クラウドではプライバシーを守るのは難しいと思うのです。

落合:確かに、現実的な解決策ですよね。

家自体がコンピュータになったとき、
居住者のアクションがインターフェイスになる

アシュトシュ:現在流行しているスマートスピーカーにインターフェイスはありません。ただ話しかけるだけ。でも家自体がコンピュータになったとき、話しかける言葉さえ必要なくなるのです。5〜10年先には壁からスイッチはなくなるでしょう。

落合:スピーカーも照明も環境に埋め込まれて意識する必要がなくなるということですね。光照射野やコンテンツそのものだけがあり、物理表現はない……。これは僕たちの3D分野に関する考え方も変えてしまいますね。ところで、AIを応用するのになぜ住居を選んだんですか?

アシュトシュ:人生の3分の2を過ごす家が、最もテクノロジーから取り残されていたからです。木と鉄とコンクリートでできていて、まるで情報化されていない。ここを変えられるのなら、大きなインパクトになると考えたのです。

落合:去年、僕は第1子が生まれたんですが、家の活動というのは実に無駄だらけだと思います。妻が息子の面倒を見ているのですが、常に様子を監視して注意していなければならない。これを家のAIが代わって監視してくれるのなら、危険も減らせるし、人間も疲れなくて済む。息子の誕生で、初めてその必要性に気づきました。



アシュトシュ:家には子どもだけでなく、高齢者もいます。テクノロジーが家庭に入り込めば入り込むほど、さまざまなデバイスを管理する人工知能が必要になってくるのです。

落合:問題はそうしたIoTデバイスとどう付き合うかということですが、息子を見ていたら、公園で水遊びをするように機器と遊んで使い方を学んでいくのではないかと思いました。

アシュトシュ:なるほど、子どもたちはそれこそ犬や猫と遊ぶようにAIとの付き合い方を学んでいくということですね……。それは面白い考え方です!

落合:息子にiPadを与えたんですが、ピアノアプリを使って弾くのが大好きなんです。そのうちいろいろなところに指を置くわけです。そして「どうしてここでは音が鳴らないの?」と聞いてくる。

アシュトシュ:確かにCASPAR AIなら、センサーがあり、ジェスチャーがあればピアノの音を鳴らすでしょう。非常にクリエイティブな環境になることは確かです。

落合:
優秀な執事のようなものですね。話しかければいい。

アシュトシュ:いやもう8割以上は何も言わなくてもアクションを起こせる段階に来ています。家は自主的に望むサービスを提供してくれます。間違えたとしても「CASPAR、やめて」と一度注意すれば記憶します。そしてキャンセルしない限り、それは良いことだと判断していきます。

落合:僕が驚いたのは、怒りの表情を学習しますよね。怒った状態では冷蔵庫からお酒が取り出せないという面白いこともできる。老人が寝てばかりいたとしたら、家は居住者が病気だと判断する。高齢者にとっても大いに役立ちますよね。

アシュトシュ:そうですね、転倒も察知できますし。アルツハイマー病による徘徊の問題も住居が検知できるので、問題解決につながるでしょう。

落合:社会保障コストも下がりますね。

アシュトシュ:そして家だけでなく、将来的にはインテリジェントビルなどにセンサーが設置されれば、都市がコンピュータになります。気温、湿度、振動、環境光、マイクロフォンとカメラからのデータを活用して、どんなことができるかと思うとワクワクします。

落合:キャスパーが子どもたちを運動させるように仕向けたり、勉強させるようになる。ビデオゲームに興じるよりも子どもたちには良いでしょうね。




アシュトシュ・サクセナ
スタンフォード大学の人工知能博士であり、スマートハウスのベンチャー企業、CASPAR AIを開発するBrain of Things(BoT)社(本社:米国カリフォルニア州レッドウッド)CEO。AIロボティクスの第一人者であり、スティーヴン・スピルバーグ制作の「Tintin」のHolopad(3D)アプリの制作に参加したことでも知られる。

落合陽一
1987年生まれ。メディアアーティスト。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。筑波大学学長補佐、大阪芸術大学客員教授、デジタルハリウッド大学客員教授を兼務。ピクシーダストテクノロジーズCEO。2015年米国WTNよりWorld Technology Award 2015、2016年Ars ElectronicaよりPrix Ars Electronica、EU(ヨーロッパ連合)よりSTARTS Prizeなど国内外で受賞多数。著書に『魔法の世紀』(PLANETS)、『これからの世界をつくる仲間たちへ』(小学館)など。個展として「Image and Matter (マレーシア・クアラルンプール,2016)」や「Imago et Materia (東京六本木,2017)」、「ジャパニーズテクニウム展 (東京紀尾井町,2017)」など。

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