超AI時代の暮らし方について未来の住空間を考える対談型カンファレンス【blueprint】を連載。

超AI時代を迎えつつある現代において、人々の暮らしはどうアップデートされていくのか。そしてその住空間との関わりは、いまとどのように変化していくのだろう。
オーガナイザーを務める"現代の魔法使い"落合陽一が第3回のセッションで対話するのは、インターネット上の仮想空間及びVR研究の第一人者・三淵啓自。お互いデジタルハリウッド大学の教授である二人が語るのは、住空間を仮想世界に構築するときに問題となるリアルの構造。人は果たして住空間で何を快適と感じるのか?


人類は全ての風景にピントが合った状態にどう反応するか

落合:この前研究所にお邪魔したときは、三淵先生、野球をしてましたよね?

三淵:
ああ、あれ(笑)。いま、VRの研究の一環で、「身体性の再現」をやっているんですね。それで三次元の仮想空間の中でピッチャーが球を投げるところをつくったので、今度はそれを打ち返すところをシミュレーションしていたんです。

落合:
なるほど、最近はそうしたものを。

三淵:
あとはですね、医師の監修を入れて、認知症の患者さんがどう見えて、どう感じているかのVRを作成しています。看護師などのサポートする人たちが、仮想体験でその状況を感じることができれば、疑似的にでも体験を共有できるわけですから、より良い医療が可能になるはず。

落合:
へえ、それは興味深い。

三淵:
それと絵本の世界を三次元仮想空間に落とし込む試みですね。もちろん絵本は二次元ですから、不自然でないように3Dへと落とし込んでいかなければならない。



落合:
それはフレームの問題につながりますね。有史以来人類は、プリントアウトすることで枠ができてしまっていた。絵本の世界ももちろん本の大きさで枠ができる。それを取り外す試みでもあるわけですよね。

三淵:
そうですね、ただ面白いことに、人間はヴァーチャルリアリティーの中にいると、枠のない果てしない空間では落ち着かないんですよ。リアルの世界で家の中にいたほうが落ち着くように、絵本の中の世界でも鬱蒼とした森で木々に遮られているなど、ある程度の枠に収まったほうが落ち着く。制作の段階でそういうことを発見しました。

落合:
僕はメディアアートも手がけているので、「無限遠」というキーワードについてよく考えます。象徴的なんですが、現代都市において無限遠(カメラの焦点が一定の距離離れると全てに焦点が合い、ピント不要になること)を手に入れるためには、高い建物を建てるしかなかったんですね。高層の建物の窓から外を見れば風景は無限遠になる。暮らしのなかで、家具などとともに窓を通して無限遠の風景が見えるという状況が、そこで生まれたので。

三淵:
確かに通常なら、近くのものにピントを合わせて他はぼける、フォーカスぼけの状態で暮らしていますからね。

落合:
だから無限遠という全てにピントが合った状態の中に、ポンと人間が置かれると不安になる……。

三淵:
そう、家や部屋など、区切りがほしくなる。つまり囲まれていないと人間は不安なんです。

落合:
その辺りは、網膜投影(直接画像を網膜に投射するVR技術)でも問題になってくるんです。全部にピントが合った画像を投影すると、強い違和感を覚える。

三淵:
まあ、慣れの問題も大きいと思うんですけどね。いままでの経験と全く違うから。以前8Kのモニターを見たときに強い違和感を感じました。全部にピントが合っているのが、何とも気持ち悪い。

落合:
そうなんですよ。手元のものを見ているのに、周囲の遠くにあるはずのものにもピントが合っている状態。これはどうにも落ち着かない。人間としてはリアルに感じられないんですね。

8Kのモニターがあれば、窓はもう必要ない!?

落合:8Kのモニターを見たとき、僕は「あ、窓だ」って思ったんですね。全部にピントが合っている無限遠なので。

三淵:
そうですね、8Kモニターやプロジェクターが家の中に入ってきたら、それこそ家の中の常識が変わる。

落合:
極端に言えば太陽光のシミュレーションをして、窓からの明かりも時間帯によってプログラムを組んでおけば、照明自体はもう不要なものになってしまうわけですから。

三淵:
部屋の中に陽が差している状態をつくってね。時間帯に合わせて影もシミュレーションして。

落合:
研究所にフェムト秒レーザーを2台導入したんですが、それでつくる空中プラズマは空間的に止まってるしすごいですよ。あとはレーザーだと、網膜投影も。映像がそれこそ止まって見える。投影している感じではないんです。

三淵:
解像度的には十分ですね。人間の網膜自体の解像度がそれほど性能が良くないし、相当リアルに感じられるでしょう? 残像効果もありますし。

落合:
そうですね、ほとんどリアル。これが8Kになったら、人間の目では決してわからない。NHKが2020年までに実用化しようとしている「インテグラル立体8Kテレビ」、見た人によると、あれはもうリアル以外の何物でもないと言ってましたね。



三淵:
なるほど、では絵画やオブジェなどがリアルのものとして家の中で投影できるわけですね。それは面白い。

落合:
ただデータ量が多いのでなんかやろうとすると、計算量的には、光や高周波などの性質を使った量子コンピューターがないとまだ難しい。これは一般にAI技術に言えること。ディープラーニング(統計的に特徴量を発見する仕組み)の時代になって、AIが人間の知能を超えるのではないかと言われていますが、まだまだ、そもそも知能じゃない。特徴の発見はフィルターのようで最適化手法の域を出ていない。GANみたいなもんだけど、やはり最適化と最適化を比べて選んでこそ、初めて知能と言えるんです。ただそこに問題があって初めて能力は必要になるものなので、AI導入などで暮らしがどんどん快適になっていけば、人で解決しないといけない問題が減る。何かを解決する知能はだんだん必要ではなくなるかもしれない。やはり、そこそこ問題があるほうが、生きている実感があって、人間は幸せを感じるものなのではないんでしょうか。

映画「マトリックス」の世界は、人類による涅槃の実装

落合:人間の幸せってなんだろうって考えたときに、思い浮かぶのは映画『マトリックス』(主演 キアヌ・リーブス)の世界です。あれは否定的に描かれていますが、あれこそ人類の涅槃の実装(実用のために組み込むこと)なのではないかと。外敵はいないほうがいいし、人間関係にしても環境にしても平和であることがいちばんだし、エネルギーもなるべく使わないほうがいいと考えるのなら、それはもう理想的なんですよね。

三淵:
確かに(笑)。VRもAIもやろうとしているのは、人間を再現すること。VR+AI=人間なのかというのは別の話として。正直『マトリックス』の中の世界にリアルを感じるなら、それはそれで認識は間違ってはいないんですよね。

落合:
ただ暮らしにはやはり、幸せかどうかということが関わってきます。スーパーな学位という意味での“ドクター・オブ・サイエンス”の本来の意味って、科学技術と人文領域の最上級は同じ答えになるっていうことだと思うんですよ。つまり技術的なことだけを突き詰めてもダメだし、哲学的なことを追求するだけでもダメという。その両方を統合して初めて、暮らしやそれにまつわる住空間の理想を考えることができるのではないかと。だからAI・VR技術の発達も、人間の幸福のための哲学的追求も同じ場所にたどり着くのではないでしょうか。

第3回のblueprint ───────── 空間に対する自分のセンスが住空間に一致する快適さ

三淵:それでもあえて言うなら、住空間には空気感が大切ですよね。

落合:
そう、人間の空間に対するコミットメントが高いことが重要。例えば羽生結弦選手のフィギュアスケートの演技は時間、空間に対する感度が異様に高い。一般の人でも自分の空気感が住空間と一致していないときにイライラするんだと思う。僕はタワーマンションに住んでいるんですが、窓から見える無限遠の風景が、エレベーターで降りると、近景=フォーカスぼけの世界に変わる。その落差が非常に心地良いんです。日々の暮らしとしてはこれは結構大事な要素です。

三淵:
それは僕も同じですね。見晴らしの良いところに住んでいるので。無限遠が見えない生活は考えられないです。これからの住まいの鍵となるのはそうした無限遠があるかどうかなのかもしれません。

落合:
人間はやはり、窓からの無限遠をほしがる生き物ですよね。ただ技術が発達したおかげで、それが将来8Kテレビになるかもしれない。そのとき、人間はそれをどこまでリアルと信じられるのか、テクノロジーは空気感を含めてどれほど再現できるのか、そこが気になるところです。




三淵啓自
1961年東京生まれ。セカンドライフに代表されるメタバース(インターネット上の3D仮想空間)を活用したコンテンツ制作、ビジネスモデル、経済モデル研究の第一人者。デジタルハリウッド大学院専任教授、メタバース協会常任理事、先端IT活用推進コンソーシアム顧問。スタンフォード大学コンピューター数学科修士卒業後、米国オムロン社にて人工知能や画像認識の研究に携わる。退社後、米国でベンチャー企業を設立。その後日本で、日本ウェブコンセプツ、米国で3U.com 社を設立。ユビキタス情報処理や画像認識システムなど、最先端のWebシステムの開発を手がける。

落合陽一
1987年生まれ。メディアアーティスト。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。筑波大学准教授・学長補佐、大阪芸術大学客員教授、デジタルハリウッド大学客員教授を兼務。ピクシーダストテクノロジーズCEO。2015年米国WTNよりWorld Technology Award 2015、2016年Ars ElectronicaよりPrix Ars Electronica、EU(ヨーロッパ連合)よりSTARTS Prizeなど国内外で受賞多数。著書に『魔法の世紀』(PLANETS)、『これからの世界をつくる仲間たちへ』(小学館)など。個展として「Image and Matter (マレーシア・クアラルンプール,2016)」や「Imago et Materia (東京六本木,2017)」、「ジャパニーズテクニウム展 (東京紀尾井町,2017)」など。

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