超AI時代の暮らし方について未来の住空間を考える対談型カンファレンス【blueprint】を連載。

超AI時代を迎えつつある現代において、暮らしはどうアップデートされていくのか。そしてその暮らしを包み込む建築物との関わりは、どう変化していくのか──。
オーガナイザーを務める"現代の魔法使い"落合陽一が第2回のセッションに迎えたのは、コンピューテイショナルデザイン時代を代表する建築家・noiz 豊田啓介。 彼が手がけるデザインの範疇は、もはや単なる建築物を超えた、未来のビジョンへとシフトしているという。


建築業界がもっている未来を描くデータ

落合:以前から、豊田さんの手がけるコンピューテイショナルデザイン(コンピューターを活用した設計)で生み出される都市空間レベルのデザインにすごく興味をそそられていました。自分でも部屋の家具・家電・自動車は手がけていますが、それこそ建築となると10〜100倍のレベルの大きさなので、一体何が行われているのかと。

豊田:重厚長大の代名詞のようなものですからね、建築は。建てると決めてから完成まで早くて5年。10年20年先というのも珍しくありません。スピード感は現代的という意味からはほど遠い。また安全や法規制という問題も関わってくるので、アイディアを実現するのに大きな時間と手間がかかってしまうんです。でも最近変わってきて、未来のビジョンを描いてほしいという依頼が増えましたね。

落合:建築物は都市の中にあるわけで、必然的に都市とは関わってきますからね。僕も人の動き方のデザインや都市計画に関わることが多いので、どこまでデザインするかということはよく考えます。でも、きりがないですよね、実際。

豊田:そうです、もっと建築や都市をモノという次元を超えてインタラクティブに、ということを考えると、デザインが自然に都市のインフラの問題にもつながる。建築というとハードウェアのように思えますが、実はもっとソフト的に考える必要性があると思うんです。例えば最近再開発の計画をしているときに頭を悩ませるのがセキュリティーポイントの位置。オフィス・タワーは通常六本木ヒルズのように1階にポイントがあってその先はコントロールされたエリアとして一元管理していますが、昨今のようにシェアオフィスやアウトソーシングのような働き方が発達してくると、いろんなレベルで組織に関る人が日常的に入りやすくしなければならない。



それはどの程度入りやすくするべきか、例えばオフィスの床面積で換算すると、30%くらいの部分をセキュリティーポイントの外側として開放することで解決するのか、そこの構造や機能配置、アクセス性はどうするべきかといったことに関して建築業界はまだ何の知見も持っていないんです。そうした情報をシミュレーションしたり解析したりしないとデザインできないのだから、それはソフトやプログラム側の問題ですよね。かと言ってこの先、建築がソフトだけで解決できるかと言えばそうではない。必然的にハードでもありつつ、ソフトの情報が混じり合う。モノの世界と情報の世界って、実際には意外とオーバーラップしていないじゃないですか。でも、今新しいビジネスの可能性ってその境界領域がフロンティアなんだと思うんです。そこで実は、建築業界がもっているBIMやCAD(建築設計用データ形式)のデータ群は社会的にはすごい価値になり得ると思うんです。

落合:なるほど、確かに。僕もCGが専門なので、最近、建築以外の人からもBIM CADの相談をよく受けます。「Google Earth」は外的なデータを収集していますが、そうした建物内、室内のデータとなるとやはりBIM CADが、圧倒的に使われますね。

豊田:そうなんです。室内をスキャンしてもそれは形の情報でしかなくて、しかも非常に重いデータとなってしまい、しかも現時点でCADやBIMデータとの互換性はとても低いですよね。ただの壁やドアを区別なしに数億点として認識してしまう。


BIM CADとは
BIM(ビー・アイ・エム)は、Building Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)の略で、建物の設計だけでなく、形状、材料の数量から周辺地理など、さまざまな情報含むデータベース。BIMを利用したCADはいまままでの三次元CADによる設計では成し得なかった他のツール・情報・事業者との連携、そしてAIへの活用など、これからの主流となる考え方。

落合:確かにそれだけのデータをサーバー側で処理させるというのは、現実的ではないですね。

豊田:その点、BIMやCADのデータならたった4点でこれは平面の壁だ、ドアだと判断がつくわけです。さらにその壁の向こうにどんな電気設備が埋まっているかということまで情報として持っている。これは非常に貴重なデータです。しかしそれが貴重になるのは社会的に共有されてからで、建築業界はまだバラバラに、個別に囲い込もうとしてなかなかオープンなプラットフォームになる気配がない。

落合:そのデータがあると、ロボティクス分野は大いに飛躍しますね。

BIM CADデータ活用でロボティクスは進化する

落合:どこに壁があり廊下があるかわかるBIM CADデータがあれば、ロボティクスおよびパーソナルビークル(個人用電動車両)などの分野が大きく飛躍しますね。今はルンバが掃除してくれて、食洗機が皿洗いを引き受けてくれてはいますが、食事の配膳機はない。なぜならモノを運ぶタスクがデータ的に重いんですよね。

豊田:そうです。だからBIM・CADデータのように軽いデータで三次元空間を認識できれば、モノをロボットに運ばせるなどの自律走行系は飛躍的にやりやすくなるはずです。パーソナルモビリティーも建物内を効率的かつ自由に動けるし、それが一定の都市空間まで広げられれば、自律運転の可能性は大きく広がる。例えばアウトレットパーク全体のBIM・CADデータを自律走行のプラットフォームとして活用できる設定がデフォルトであれば、その中でのモビリティーや人の移動のコントロールや体験のデザインが圧倒的にやりやすくなる。少なくとも同じデペロッパーが手がけた範囲内の街では、エレベーターがあって当然なのと同じレベルで自律走行モビリティが配備されて、それが街の価値になるみたいなこと、結構早々に実現されるはずなんです。

落合:データフォーマットを統合できれば、それこそ都市単位での運用も可能になりますね。そうなると物流・人の流れまで変わるじゃないですか。例えばいま、物流システムはイコール首都高速。実は荷捌き場まではものすごくスムーズなんです。しかしラストワンマイルで苦労する。ここを必ずしも宅配業者に依存する必要はないんですよね。建物が取りに行くほうが合理的になる可能性も大いにある。



「ファイナルファンタジー XV」の〈メタAI〉に学ぶ

豊田:まさに。デベロッパーサイドが一番動きやすいスケールを抑えてるんです。ここで業種は違えど、ゲーム業界の技術が役に立ちます。例えばスクウェア・エニックスはゲームAIの実装で日本をリードする企業ですが、そこではエージェントAIがキャラクターをコントロールし、ナビゲーションAIがマップを管理し、メタAIがゲーム全体を面白く進めるための指揮をとる。それらの効率的な運用を可能にするのは、人間が構築したデジタルで記述された環世界です。これと同じように街や建物がデジタルに記述され、それをベースに建物のAIと物流のAIが最適解を導き出して物流をコントロールというような可能性、たぶん今一番ノウハウ持ってるのはゲーム業界なんじゃないかと。

落合:あるひとつの県の人口よりも多い人がFFを楽しんでいる現状、こんなにゲームに親和性のある国はなかなかないわけで、このゲームを現実に移し替えるのは意外と容易だと思うんですよね。

豊田:ただそれをデペロッパーに話しても、「うちでポケモンGOをつくるんですか!?」といった答えが返ってくるような理解のレベルになってしまうので。もちろんイベントから入ること自体は段階的な実装という意味で悪くないんですけどね。

第2回のblueprint ───────── 「デジタルデータと実空間が整合した未来の可能性」

落合:つまり建物内部の部屋の中に至るまでのデータ化が、新しいAI時代の暮らし方を決める。そしてそれらのデータはスキャンして解析・変換する必要はなく、すでに建築業界にあるものだと。

豊田:そうです。それらのデータを集積させて、同じフォーマットで空間情報を活用できるようにすれば、まだIT企業のプラットフォームに対抗できるだけのリソース、業界としては持ってると思うんです。すでに家の外の情報などは、Google Earthなどでかなりデータ化されているわけです。しかも私が思うにGoogleは数年以内にそのポリゴンデータから面や角などBIM化に必要な要素を認識する技術を実装してくるでしょう。そうであればこれまでGoogleの視覚だった建物の中まで、すべての空間データはスマホに組み込まれたTangoなどを通して近い将来Googleに網羅され、実空間のプラットフォームもGoogleに握られてしまうことになります。


ポリゴンとは
英訳である多角形が意味する通り、直線と平面で構成された形状を言う。線と面を細かくしていけば円や曲線を表現することもできる。3次元のグラフィックスの印象が強いが2次元でも昨今の地図表現などで使われる。今回の対談のケースも、ポリゴンでの表現がBIMと結びつき膨大で価値あるデータになる未来を示す。

Tangoとは
Googleが開発したAndroid向けの空間認識技術。昨今のAR(仮想現実空間)ブームの土台となるフレームワーク。例えばスマホのカメラを部屋などでかざすだけで、部屋の形状、モノの位置などを把握できる。


落合:室内外を含めての、パーソナルモビリティーの発達ですね。それは道路レベルなら、車の自動運転技術に直結する技術開発性を含む。そしてそこを走るクルマは必ずしも人間だけを載せるわけではない。荷物を乗せて自律運転して物流自体を根本から変えることも可能です。

豊田:いま一番の問題は、デジタルデータと実空間を整合する都市的なプラットホームを誰が打ち立てるかということ。それはまだ、誰も手をつけられていない分野なので。僕らもずっとゼネコンやデベロッパーにけしかけているんですが、なかなか内部からは動きそうにないので、去年新しく建築や都市とテックとを繋ぐコンサル会社(gluon)を、近い仲間と立ち上げたところです。それは移動や交通、体験の価値創造までシームレスにつながっていく。

落合:自動運転が実現し、さらに建築分野でも自動建築へと移行する、そのとき人間は無駄な作業から次々に解放され、本来の自分がしたいこと、すべきことに集中することができるようになる。それが未来ですね。人間がしなくてもよいことは、しなくていい。人々の暮らしは雑事に煩わせられることがなくなり、より人間ならではの行為に邁進できるようになる。それこそが理想の未来なのではないでしょうか。




豊田啓介
建築家。東京大学工学部建築学科卒。安藤忠雄建築研究所を経て、コロンビア大学建築学部修士課程修了(AAD)。アメリカのSHoP Architectsを経て、2007年より東京と台北をベースに建築デザイン事務所noizを共同主宰。彼のコンピューテイショナルデザインを積極的に取り入れた"情報建築"は、建築の未来に大きな革命を起こしつつある。2017年に建築・都市文脈でのテクノロジーベースのコンサルティングプラットフォームgluon設立。金田充弘、黒田哲二と共同主催する。

落合陽一
1987年生まれ。メディアアーティスト。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了(学際情報学府初の早期修了)、博士(学際情報学)。筑波大学准教授・学長補佐、大阪芸術大学客員教授、デジタルハリウッド大学客員教授を兼務。ピクシーダストテクノロジーズCEO。2015年米国WTNよりWorld Technology Award 2015、2016年Ars ElectronicaよりPrix Ars Electronica、EU(ヨーロッパ連合)よりSTARTS Prizeなど国内外で受賞多数。著書に『魔法の世紀』(PLANETS)、『これからの世界をつくる仲間たちへ』(小学館)など。個展として「Image and Matter (マレーシア・クアラルンプール,2016)」や「Imago et Materia (東京六本木,2017)」、「ジャパニーズテクニウム展 (東京紀尾井町,2017)」など。

Promoted by インヴァランス Text by Ryoichi Shimizu

あなたにおすすめ

合わせて読みたい