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(左)パルミジャーニ・フルリエの創業者、時計師ミシェル・パルミジャーニ(注1)。(右)2009年に修復が完了した「ピーコック」インペリアルイースターエッグ(注2)

時計をよく知る目利きたちが熱い視線を注ぐ、100%スイスメイドのタイムピース。そのブランド創業者の人となり、築き上げてきた成果、企業の形態、最新作を、徹底検証する。

1. THE MEISTER - 時計師 -

高級時計業界で「神の手を持つ男」と呼ばれるのはただひとり、ミシェル・パルミジャーニである。

彼はスイス北西部の街、フルリエの近郊で1950年に生まれた。現在66才。彼の名が時計界に広く聞こえたのは、修復不可能とされたアンティーク時計を見事よみがえらせたときだ。マリー・アントワネットの時計師として知られる天才、アブラアン-ルイ・ブレゲが1800年前後に製作した「シンパティック・クロック」は、あまりの複雑さゆえに専門家も構造がわからず、設計図も失われ、誰も直せずにいた。その伝説的な名品を、ミシェルは見事修復したのだ。

時計づくりのマイスターとしてのミシェル・パルミジャーニの半生は、数奇なものだったといえるかもしれない。建築家になろうか、それとも時計師になろうかと迷ったが、結局フルリエにある時計専門学校に入り、上級時計師の国家資格を取得。優秀な成績で卒業したものの、ちょうどその頃、日本製クォーツ時計が爆発的な勢いで世界に広まり、古くから機械式時計の製造で栄えていたスイスは未曾有の危機に陥っていたのだ。いわゆる「クォーツショック」である。

前途に暗雲がたれこめる中で社会に出たミシェル・パルミジャーニは、むしろ奮い立ったという。スイスの国家的文化遺産である機械式時計づくりが死に絶えようとしていることは、彼には耐えがたかった。周囲の反対を押し切って独立し、生活に困窮しながらも独創的なコレクターズピースを作り続ける。やがて彼の仕事ぶりは、時計愛好家や収集家の間で知られていった。

自らの名を冠したブランド「パルミジャーニ・フルリエ」を興したのは、1996年のこと。製薬会社ノバルティスの創業家であるサンドファミリー財団が、彼の才能に惚れ込んで起業を強く奨め、全面的にバックアップした。こうしてひとりの腕利き時計師は、インターナショナルブランドのトップへと転身したのである。

2. RESTORATION - 修復 -

サンドファミリー財団とミシェル・パルミジャーニを結びつけたものは、時計修復の超絶技巧だ。サンド家は美術的価値の高い懐中時計やオートマタなどを集めた、世界屈指のコレクションを所蔵する。それらの修復やメンテナンスには「神の手を持つ男」の技が絶対的に必要だったのだ。

17世紀から時計産業が栄えたスイスには、各地に古い時計を所蔵したミュージアムがある。しかしそこに飾られた作品のほとんどは、実は動いていない。機械化による合理的な大量生産が当たり前となった現代では、産業革命前のロストテクノロジーを詰め込んだ職人技の再現は、手に余るのだ。だがミシェル・パルミジャーニは、この道に精通した天才だった。

パルミジャーニ・フルリエの社屋には、修復専門の職人が常駐するフロアがあり、今日もミシェル・パルミジャーニが力を注ぐ修復プロジェクトの拠点となっている。ここで修復された極めて貴重なアンティークのうち、最もよく知られているのはファベルジェが製作した「ピーコック」インペリアルイースターエッグだろう。


(左)1800年代ジャルドン&ステッドマン工房が製作した英国製懐中時計。ケースにロイヤルブルーのギヨシェエナメルと天然真珠をあしらったヴィクトリアンスタイルの意匠。サンドファミリー財団所蔵。(右)時計愛好家たちをうならせたパルミジャーニ・フルリエの「オーバルパントグラフ」。懐中時計の修復で得た技術を盛り込んだ。中心に配されたカムが、針の関節をパンタグラフのように動かす。懐中時計のムーブメントを腕時計用に小さくするのに苦心したという。


ピーター・カール・ファベルジェは、帝政ロシア末期の皇室御用達宝石商。ロマノフ家最後の皇帝、ニコライ2世からの注文で、イースターの贈り物にする美しいエッグ形オブジェを毎年制作した。1908年製のイースターエッグは、透明な水晶の中にエナメル細工の孔雀が鎮座している。これを取りだしてテーブルに置くと、孔雀は優雅に歩き出し、尾羽を広げてまた閉じるのだ。

ゼンマイや歯車による精巧な仕掛けを組み込んだ自動機械は、オートマタと呼ばれる。このイースターエッグもオートマタの一種。超絶技巧の粋を集めた、ロストテクノロジーのかたまりだ。「修復は、修理ではない」と、ミシェル・パルミジャーニは言う。構造をじっくりと分析し、膨大な関連資料をひもとき、先人たちへ敬意を捧げつつ、信じられないほどの忍耐力で取り組まなければならない。彼が修復に注力するのは、スイスの文化遺産を未来に継承したいという情熱からのことだが、その成果を今の腕時計づくりに活かすという目的もある。

例えば1800年代に作られたユニークな楕円形の懐中時計は、針がパンタグラフのように伸び縮みしながら時を刻むのだが、その技術は「オーバルパントグラフ」という腕時計となって現代によみがえった。ケースの形状に合わせて針が伸縮するので、短い針を使うことなく、いつも美しいバランスで針がインデックスを指し示す。パルミジャーニ・フルリエの腕時計が、芸術の域に達したと賞されるゆえんである。

3. THE MANUFACTURE - マニュファクチュール -

スイスのヌーシャテル州にあるフルリエは、時計づくりに関連した大小の企業やアトリエが散在する伝統ある街。スイスの時計産業はそれ自体が巨大な企業のようなもので、ムーブメント専門、ケースの切削専門、サファイアガラス専門、針専門......などなど、細かく分業された家内工業的な会社が、国内のブランドにさまざまな部品を供給しているという構造だ。部品のすべてを自社で製造できるブランドはごく限られているが、パルミジャーニ・フルリエはまさにこれに当たる。傘下に専門性の高い5つの企業を持ち、レザーストラップ以外のすべての部品を自社でまかなえるマニュファクチュールなのだ。


2003年よりパルミジャーニ・フルリエの傘下で新体制をスタートさせた、ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエ。パルミジャーニ・フルリエ設立前のミシェル氏自身の会社にあったム ーブメント部門を独立させ、発展させたもので、複雑さを極めた機械式ムーブメントでも、ヴォ ーシェなら完成させることができると高い評価を受けていた。開発責任者を務めるのは、日本人時計師の浜口尚大氏。牧歌的な立地で、職人たちがムーブメント組み立てに静かに没頭している。

この体制づくりを強力に推進してきたのも、サンドファミリー財団。パルミジャーニ・フルリエを外部に依存しない独立したマニュファクチュールとし、高度なクォリティコントロールを行い、ブランドを永続的なものにしていくためである。

そこで、まず高級時計のケース製作で知られたブルーノアフォルテ(現レアルティザンボワティエ)を買収し、どんなに複雑な形状のケースでも1点から作れるようにした。続いて傘下に収めたのは、歯車やヒゲゼンマイを供給するアトカルパ。時計の精度に関わるヒゲゼンマイは、大手ブランドでも外部からの供給に頼らざるを得ないほどの精密部品だが、アトカルパが加わったことで質の高いものが安定して得られることとなった。さらに、精密切削加工専門のエルウィン、文字盤製作専門のカドランス&アビヤージュを買収。もともとミシェル氏の会社であった、高級ムーブメント製作で名高いアトリエ、ヴォーシェにも出資して、ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエを設立。

こうした優良企業を垂直統合することで、重要な部品を外部調達することなく、すべてを自社で製造できる、100%スイスメイドの稀有なウォッチブランドとなったのだ(ちなみにレザーストラップだけは、エルメスから最高級のものを特別に提供されているのである)。

スイスには独立時計師と呼ばれる、どのブランドにも属さずに自力でこつこつと時計を作り続けるインディペンデントな作家たちもいる。ミシェル・パルミジャーニも、もちろんこのような道を歩むことができただろう。しかしそれをしなかったのは、スイス時計界の将来を見すえてのことだ。たったひとりで仕事をしていては、研究を重ねて得た知識と技術を未来に伝えることができない。また、愛するフルリエの地に持続的な雇用を生み出すこともできない。クォーツショックのもとで苦しみつつ仕事を続けた経験が、彼に起業家としての大きなビジョンを与えたのに違いない。

4. TIME PIECES - 作品 -

2017年1月、ジュネーブで開催されたSIHH(国際高級ウォッチサロン)に、パルミジャーニ・フルリエは出展した。世界の高級時計ブランドがこぞって新作を発表する時計見本市だが、毎年の参加が恒例となっている。今年、ブースの中央に飾られていたのは、見事に修復されて輝きを取り戻したファベルジェの「ユスポフ」インペリアルイースターエッグ。悠久の時を刻むエッグの周囲を、多くの紳士淑女が取り囲み、熱いため息をもらす。

新作のハイライトは「トリッククロノメーター」だ。ミシェル・パルミジャーニが初めて設計した腕時計「トリック」にさらなる磨きをかけ、新たな解釈を加えた意欲作となっている。搭載したムーブメントも、自社で開発し製造したブランド第一号の自動巻きキャリバーPF331。原点に回帰し未来を見つめ直すという姿勢をはっきりと打ち出した。

そのデザインは、一見したところはごくシンプル。アイコン的な槍型の時分針に日付表示のみ。しかし全体のバランスやケースサイズに入念な見直しが行われており、端正でモダンな顔立ちに仕上がっている。「トリック」とは、古代ギリシャ建築の柱の基礎部分を飾るトーラス(円環面)のこと。コリント式、イオニア式の柱の根元に見られるような、円の重なりがインスピレーションの源だ。時計ケースの周囲には、伝統的なゴドロン(うね)装飾に見立てた円がステップ状に重なり、そこに古代の柱を思わせるフルーティング装飾を刻んでいる。シンプルながらも、ひと目でこのブランドのものとわかるアイデンティティが何とも見事だ。


垂直統合された5社の技術力が存分に活かされた最新作。古代建築のモチーフを洗練された感性で取り込んでいる。自動巻き、ホワイトゴールド、ケース径40.8mm、30m防水、エルメス製アリゲーターストラップ。COSC認定クロノメーター。文字盤はオパーリンブラックとホワイトグレインの2種類。各1,840,000円。

実はミシェル・パルミジャーニが時計の設計によく用いているのは、黄金分割とフィボナッチ数列なのだという。黄金分割は、最も均整のとれた安定感のある比率とされていて、アテネのパルテノン神殿やミロのヴィーナスにも応用されている。また、中世の数学者レオナルド・フィボナッチが説いたフィボナッチ数列は、映画『ダ・ヴィンチ・コード』にも登場したが、植物の花びらの数や葉のつき方など、自然界のさまざまな事象に出現する数列のこと。

もちろん、新作「トリック」の絶妙にバランスのとれたフォルムにも、黄金分割やフィボナッチ数列が活かされている。幼い頃は薬草採集を仕事にしたいと考え、長じては建築の道に進むことも考えたと語るミシェル・パルミジャーニだが、いかにもそんな彼らしい独特のデザイン観が表れているではないか。


注1: パルミジャーニ・フルリエの創業者、時計師ミシェル・パルミジャーニ。時計専門学校の卒業後、修復の偉人マルセル・ジャン=リシャールに出会い、その手腕を見込まれた。イタリアからの移民だった父親は、精密機械にたずさわる職工だったという。

注2: 2009年に修復が完了した「ピーコック」インペリアルイースターエッグ。サンドファミリー財団は、ファベルジェの「ユスポフ」イースターエッグも所蔵する。

▷パルミジャーニ・フルリエの詳しい情報はこちら
 https://www.parmigiani.ch/en/

▷お問い合わせはこちら
 パルミジャーニ・フルリエ・ジャパン Tel. 03-5413-5745

Promoted by パルミジャーニ・フルリエ text by Keiko Honma

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