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2017.03.01 11:00

アルゼンチン・オラロス塩湖でのリチウム資源開発が支える 日本の次世代自動車と現地住民の未来

アルゼンチン・オラロス塩湖の全景。炭酸リチウム精製工場は写真の右下、扇状の蒸発池の下の一角

アルゼンチン・オラロス塩湖の全景。炭酸リチウム精製工場は写真の右下、扇状の蒸発池の下の一角

写真はアルゼンチン北部、ボリビア国境近くの標高4,000メートル近い地点にあるオラロス塩湖。白く見える部分だけで大阪市と同じくらいの広さがある。

ここが、次世代自動車の技術開発にはなくてはならない資源、希少元素・リチウムの採掘現場だ。しかし、写真の白い部分は塩。リチウムはこのオラロス塩湖の地下200メートルから汲み上げた灌水(金属炭酸塩などを含んだ水)から精製する。海水を天日干しして塩を作る塩田のように、汲み上げた灌水から約300日乾かし、不純物を取り除き、最終的には粉末の炭酸リチウムが出来上がる。その精製工場は写真の右下、扇状の蒸発池の下の一角。いかに広大な土地かわかるはずだ。

これが、豊田通商が2014年12月に、投資SPC経由現地事業会社のサレス・デ・フフイ(Sales de Jujuy)に25%出資する形で本格稼動させた、日本企業初のリチウム資源開発プロジェクトだ。

工場の開所式は、このプロジェクトへのアルゼンチンの期待がよくわかる催しとなった。州知事をはじめ、鉱業庁長官、駐アルゼンチン大使館参事官、現地政府関係者が出席し、会場の大スクリーンには当時のクリスティーナ大統領からのビデオメッセージが流された。同工場での年間生産量は炭酸リチウム換算で約1万7,500トン。現地のリチウム埋蔵量は640万トンと見積もられている。

時は2009年にさかのぼる。そのオラロス塩湖のあるアルゼンチン・フフイ州に豊田通商金属資源部の片山昌治はやってきた。日本のちょうど裏側、時差にして12時間。
商社マンとして世界各地を飛び回る片山からみても“最果ての地”だった。

環境に優しいプラグインハイブリッド車(PHV)や電気自動車(EV)開発の加速化とともにリチウムイオン電池の需要が見込まれ、リチウム資源開発はバブル状態だった。PHVやEV開発を進めるためには、安定したリチウムの供給源が必要だ。トヨタグループの総合商社として豊田通商がリチウム資源探索プロジェクトをスタートさせたのには、そんな背景があった。

当初は、片山を含め、たった3人での船出だった。片山は「鉱山プロジェクトには4つのリスクがある」と言う。すなわち、資源量の確認、開発許認可取得、資金調達、そしてものづくり。これらを一つひとつクリアしていく時間のかかる仕事だ。

「権益者や大使館、地元行政、担当大臣などとの折衝や事業化調査など、しなければならないことは山積みです。折衝にしても、プランAがひっくり返されることも多く、常にプランB、プランCを用意して臨まなければならない。設備投資ひとつとってもトラブル続き。例えば、汲み上げた灌水の濃縮池のシートひとつでも、アルゼンチン製のものを使用しなくてはならないという圧力があった。地元企業が“つくれる”というので依頼をすると、完成まで数カ月かかり、その間は工事に影響が出た。また、現地製の設備は故障がちで……。辛抱強くやるしかありませんでした」(片山)

ビジネス以外にも辛抱が必要だった。それはオラロス塩湖周辺の生活環境の過酷さだ。

「現地は標高3,900メートルの高地。空気が薄くて、ただでさえ脳の効率が落ちるうえに、地球の裏側で時差は12時間。最初の会議では気を失いかけました。以降大事な会議は標高の低いフフイの街まで下りてやりました。プロジェクト周辺には何もないのでキャンプ暮らし。慣れるまでは生活するのも大変な場所でした。おまけに、当時はアルゼンチンの厳しい外貨規制などもあり、ビジネス環境もシビアでした」

そんな現場に2カ月に1度の頻度で訪れ、行くたびに最低20日間は滞在した時期もあった。「肉とワインは安いので、いつも1人で500gの肉を食べていた。和食が食べたくなっても、町には中華レストランさえありませんでした。」(片山)

2010年にこの地で100%の権益を所有していたオーストラリアの資源開発企業Orocobreと共同でリチウム資源開発事業化調査を開始。2012年には州政府から開発許認可を受け、採掘権を確保、この年の末着工した。そして2014年12月、ついに本格生産がスタートした。同時期にアルゼンチンでの資源プロジェクトに参入した多くのライバル企業が撤退していくなか、片山たちは粘り強く最初の目的地までたどり着いた。だが、片山の目線は先を向いている。

「プロジェクトがスタートして今年で8年目ですが、これまでは種まき。これからは刈り取っていかなくてはなりません。気が長い仕事ですが、これが資源ビジネスだと思います」

事業の持続可能性を高めることも重要だ。リチウム精製時に発生する塩が風で現地集落に飛散しないような措置を講じたり、取水により懸念される地盤沈下リスクの検証など、環境規制をクリアにしたり、地元住民の雇用のための準備をするのも、プロジェクトの重要な仕事だ。

「地元の村に教育支援もしています。このプロジェクトを立ち上げたときから、現地で働いている周辺住民の子どもたちが将来、技術者としてこのサイトで働いてくれたらいいなと思っています」(片山)

この希少資源が日本の次世代自動車の未来を支えるのは間違いない。

逆境を克服して巨大プロジェクトを成功に導くだけでなく、周辺住民の未来さえも明るく照らす道を探る商社マン。彼らもまた、日本の未来を支えている。


片山昌治(かたやま・まさはる)豊田通商株式会社 金属資源部 部長◎2005年キャリア入社し事業開発部に配属。前職では原子燃料などエネルギー関連事業に従事。09年Olarozプロジェクト開発契約締結時より金属資源部リチウム事業担当メンバーとして事業化調査やファイナンス確保に奔走。14年より現職。

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Promoted by 豊田通商 文=鈴木裕也 写真=後藤秀二 編集=高城昭夫

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