「まるで宇宙船だな」シンガポールの統合型リゾート「マリーナベイ・サンズ」でF&B(飲食部門)のアソシエイト・ディレクターとして働く中村健二郎が、アメリカからシンガポールにやってきたのは、6年半前のこと。バンケットチームからスタートし、ルームサービスチームを経て現在のポジションへ。
2010年3月、マリーナベイ・サンズの開業とほぼ同時期にシンガポールにやってきた中村は、その特徴的な外観を見て、多くの観光客と同じような感想を持った。サイズもスケールも規格外。
マリーナベイ・サンズでは、約60人の日本人が働く。中村は、レストラン全体を統括するマネージメントの立場に就く、唯一の日本人。そんな彼のバックグラウンドは、なかなかユニークだ。
シカゴ生まれ。父の仕事の関係で、3歳から13歳までを日本で暮らすも、再びアメリカへ。高校生の頃、旅先で出会ったホテルマンの仕事ぶりに感銘を受け、インディアナ州にあるパデュー大学のホテル学科を卒業。「フォーシーズンズホテル シカゴ」で働いていた頃、「マリーナベイ・サンズ」で宴会担当を探していると声を掛けられ、シンガポールへ。
曰く「マインドはアメリカ人、心は日本人」。
当初2年の契約だったが、「もう少しシンガポールに残りたい」という気持ちから、永住権を取得。アメリカを知り尽くしたはずの中村は、なぜシンガポールを選んだのか。
「一番の魅力は、シンガポールが多国籍であるということ」と中村は言う。たとえば、マリーナベイ・サンズで働くスタッフの約3分の1が外国人。中国人、マレーシア人、フィリピン人……。隣国から働きに来ている人も多く、それがとても居心地良いのだという。
「観光」が国を支える重要な産業である、ということが国全体に浸透しているとも感じている。
たとえば、シンガポールはいまやアジアのハブとなっており、ここマリーナベイ・サンズ内にも大型の会議施設や、シアター、そしてカジノもある。小さな国であるため、生き残るためには「観光大国」となるほかない。こういった統合型リゾートを作ることで世界各国から、旅行者だけでなくビジネスマンまでも多く惹きつけている。
TIMOTHY HURSLEYマリーナベイ・サンズには中村を含めた約60人の日本人スタッフがおり、オフィス、ホテルフロントオフィス、シェフ、そしてカジノまで幅広く英語を駆使しながら、世界各国から集まった9,000人以上ものスタッフとともに働く。
「外国人と一緒に働く、ということに本当に慣れているんです」と、中村は言う。
客層も、国際色豊かだ。各国から観光客が集まるシンガポールでは、米国では接客する機会が少なかった、さまざまな国籍の人々との出会いがある。
このホテルのオープニングの立ち上げに参加し、去年の2月にデイビッド・マイヤーズのAdrift(アドリフト)、 6月にゴードン・ラムゼイのBread Street Kitchen(ブレッド ストリート キッチン)などのオープンにも携わることができた。来年もいくつかのプロジェクトが待っている。
シンガポールで働く楽しみを見つけた。まだまだ当分、シンガポールにいるつもりだ。
【Column】日本では屋上プールのイメージが強いが、「マリーナベイ・サンズ」では、ショッピング、飲食、レジャー、そしてエンターテインメントに至るまで、幅広い楽しみ方ができる。施設を知り尽くした中村に、「24時間の楽しみ方」を聞いた。
早起きしたら、まずは屋上プールへ。じつは朝一が最も利用者が少なく、狙い時。同じく最上階にある「Spago Restaurant」のラウンジでは、ブレックファーストを提供している。
日中はショッピングやシアターでの観劇もおすすめ。取材に訪れた9月に公演を行っていたのは、なんとジュディ・オング。ブロードウェイミュージカルの公演も多く、世界最高峰のエンターテインメントが楽しめる。11月20日までは「Wicked」が上演されている。
ランチは、マリーナベイ・サンズのウリの一つである、セレブリティシェフのレストランへ。たとえば、最上階にあるシンガポールのセレブシェフ、ジャスティン・クエックの「Sky on 57」や、ショップの中にあり、イタリアンピザが楽しめる「Mozza」など。
午後は巨大な植物園「ガーデン・バイ・ザ・ベイ」を散歩しても。地元の人々も、何度でも足を運ぶスポットなのだとか。
Takao Hara/Luxpho夜は、レストランに併設しているバーがおすすめ。毎週火曜日は、18時〜21時まで「Social Hour」として、いわゆる「ハッピーアワー」を設けており、それぞれのレストランのシグネチャーカクテルが特別価格で楽しめる。
Takao Hara/Luxpho“夜景スポット”として、中村から挙ったのが、マリーナベイ・サンズの対岸にあるマーライオンパークから眺めるマリーナベイ・サンズ。
高級レストランだけでなく、ホーカーズと呼ばれる屋台のエリアもあり、家族連れも充分楽しめる。「地元の人々も、観光客も、何度来ても楽しめる場所なんです」
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