この夏、私は欧州で顧客数社と会っていた(ついでに最高のアメリカーノを出すカフェを探していた)のだが、そのとき、あることに気づいた。企業はAIの「玄関口」になろうとするのをやめるべきだ、ということだ。
このところ、あらゆるソフトウェアベンダーが顧客の技術スタックに入り込み、自社のAIチャット画面をデスクトップ、タブレット、スマートフォンに置こうとしているように見える。ツールの乱立は現実の問題であり、AI疲れも現実だ。特にエージェント型AIをめぐってはそうである。以前にも書いたように、「既存のプロセスにAIを後付けするのは簡単だ。」おそらく、簡単すぎるのだ。
人々はいら立っている。Capgemini(キャップジェミニ)の調査によると、61%の組織がエージェント型AIの導入を検討している一方で、それを実装できるだけのデータとインフラの成熟度を備えている組織は20%未満にとどまる。新たなAIツールは次々と登場しており、いま本当に問われているのは、人々が実際にそれらへどうたどり着くのかという点だ。
入り口を1つに絞る
もし私の家の写真を見せられ、そこに玄関が10個あったら、なぜそんなつくりにしたのかと疑問に思うだろう。まったく筋が通らないからだ。
ソフトウェアやAIの導入でも同じことがいえる。あらゆるソフトウェアプロバイダーが、自社のAIアシスタントや会話型AIをエンドユーザーにとっての「玄関口」にしたがっている。そして、ツールが1つ増えるたびに、ユーザー体験はそれだけ悪化する。入り口が複数あるということは、同じ作業をこなすためだけに、複雑さが増し、問題が増え、ユーザーへのトレーニングも増えるということだ。
これが持続可能ではないと人々に話すと、皆うなずく。製品ごとに別々の玄関口など望んでいない。だからこそ、私たちは「入り口は1つ」の世界へ向かっている。
1つの玄関口が持つ力
家の話であれソフトウェアの話であれ、やりたいことを何でも実行でき、その後の処理はバックエンドで整理してくれる玄関口が1つあるほうが、はるかに便利だ。主要な入口になろうと本気で取り組んでいる信頼性の高いプラットフォームはいくつもあるが、最終的に落ち着けば、玄関口はおそらく1つ、あるいは多くても2つになるだろう。
私の会社はMicrosoftのパートナーであり、こうした大企業の間でこの流れが形になりつつあるのを目にしている。今年初め、同社が法人向けと個人向けの利用者を同じ担当者の管轄に置こうとしているとの見方が出た後、Microsoftは「誰にとってもよりシンプルで一体感のある体験を生み出すため、Copilotを更新する」と発表した。言い換えれば、同社はユーザーが1つの玄関口からすべてにアクセスできるようにしているのである。
誰かに玄関口を任せることの利点
多くの人が、頼りにされるAIアシスタントの座を手に入れたいと考えている。なぜなら、その場所を支配する者は価値あるポジションを握るからだ。一等地であり、率直に言えば、私もそれを所有したい。だが現実には、私たちの大半はAI大手と真っ向勝負して勝てるわけではない。
数十年にわたりエンタープライズソフトウェアを構築してきた企業のCEOとしての私の見方はこうだ。必要なら、もちろん私が玄関口になってもいい。顧客が権限管理や特定のガバナンス要件を満たすために別個の玄関口を必要としているなら、私たちはそれに対応できる。
しかし私は、顧客には、ほかのあらゆる用途ですでに使っているAIを使ってもらうほうを強く望んでいる。ユーザーが自社のビジネスにとって最善の判断に基づき、プラットフォームを選べばよい。そのうえで私たちはそれに乗り、APIや、IBMが指摘するように「AIエージェントがツール統合の標準化されたプロトコルに準拠しながら、コンテキストを認識できるようにする」MCPのような標準化されたプロトコルを使って、顧客のエージェント型のアプローチに接続することで関与していく。
玄関口を手放すことが賢明なアプローチである理由は次のとおりだ。
導入が進みやすい
既存の玄関口を使えば、人々は新しい扉がどこにあり、どう使うのかを覚える必要がない。新たな合言葉もいらない。ユーザーはこれまで通りのことを続けるだけでよい。
コストを抑えられる
企業はトレーニング時間を節約でき、ソフトウェアプロバイダーもUIを維持する必要がなくなるためコストを抑えられる(あるいはUIを維持する場合でも、そこに割くリソースを減らせる)。
統制しやすくなる
芝生や野原にできた踏み固められた「けもの道」を見たことがあるなら、人々がより楽なルートを選ぶのを常に止められるわけではないことがわかるはずだ。AIの入口を1つにすれば、企業はガバナンスとガードレールを合理化できる。
UIへの固執をやめる
ますますエージェント化していく世界に接続していくなかで、UIの重要性は低下している。むしろ、時には邪魔になることさえある。だからこそ、より多くのソフトウェア企業が、新技術をUI版と、標準化されたプロトコルを通じてエージェントと連携する「ヘッドレス」版の両方で提供している。
私の経験では、重要なのはAIが何をするか、そしてデータをどこから得るかであって、インターフェースの見た目ではない。たとえば特定のデジタルワークプレイスの課題を解決したいなら、そのAIは高品質で、エンドポイントに基づくコンテキストデータによって支えられているべきだ。サービスレベル目標(SLO)を活用して価値を生み出し、AIによって手間のかかる作業を減らす方法を見つけるべきなのである。
UIに固執してAIの玄関口の座を争っているなら、それはおそらく時間の無駄だ。ソフトウェアプロバイダーであれ、AIソリューションを導入する企業であれ、時間とエネルギーを費やすべきなのは、扉そのものではなく、その扉の向こう側にあるデータとワークフローである。



