ピーター・パンは、誰も大人になる必要のないネバーランドに住んでいた。今日、あまりにも多くのCEOが自らのネバーランドに暮らし、リーダーシップのあり方を根本的に変えることなく、人工知能(AI)が魔法のように自社のビジネスを変革してくれると信じ込んでいるように私には思える。
20年以上にわたり約1500人のCEOにインタビューを行ってきた中で、私が学んだのは、変革とは単に最新テクノロジーを受け入れることではないということだ。人間らしさを保ちつつ、すべてを再考する勇気を持ち、その上でテクノロジーを活用して戦略を推進することなのだ。
このことは、2026年10月5日に行った、シティ・プライベート・バンク、コグニザント、S&Pグローバル・レーティング、バンガードを代表する金融サービス業界のリーダー4人との最近の対話で、きわめて明確になった。そこから3つの重要な教訓が浮かび上がった。
1. AIで遊ぶのをやめ、ビジネスの再定義を始めよ
S&Pグローバル・レーティングのプレジデントであるヤン・ル・パレックは、次のように語り、これを強調した。「今日、最適化されていないプロセスを自動化したところで、機能しない」。彼の処方箋はこうだ。「合理化し、再考し、その上で自動化する」。彼はさらに、ビジネス(特に金融サービス)を再定義する鍵について詳述した。「今日のグローバル市場において希少なリソースは資本ではない。資本の移動を可能にする情報、機関、そしてフレームワークに対する信頼なのだ」
シティ・プライベート・バンク北米部門代表のクリス・ビオッティは、次のように述べた。「AIツールによってチームの時間にゆとりが生まれれば、最も重要なこと、つまりクライアントへの対応に専念できるようになる」
バンガードのアドバイス部門トップであるダグ・メントーは、マサチューセッツ工科大学(MIT)での最近のエグゼクティブ教育プログラムで得た洞察を共有した。「我々が集中すべきは、業務ワークフローとプロセスだ。モデルはすでに非常に高度であり、むしろ我々が十分に活用しきれていない。今の機会は、AIを試す段階を超えて、AIを中心にビジネスそのものを再設計すること、ワークフローや、人とテクノロジーの協働のあり方を再考することだ」
コグニザントのキャピタル・マーケット担当戦略ビジネスユニットヘッド兼バンキング・キャピタル・マーケット戦略責任者であるサティシュ・ランガナサンは、広がる過熱感に異を唱えた。「AIが単独ですべてを解決するわけではない。AIにできることと、企業が実際に獲得する価値との隔たりは、AIを中心にワークフローを再構想したときに初めて埋まる。AIの構築者として、私たちの仕事はそれを信頼できる実運用レベルのシステムへと設計することだ。戦略が整えば、AIは扉を開き、これまで考えられなかった速度で成果を高めるだろう」
CEOは、アクセルを強く踏み込む前に、自分たちが正しい道を進んでいることを確認しなければならない。
2. 世界が人工的になるほど、人間性の価値は高まる
私はある挑発的な問いを投げかけた。5年後、顧客を「所有」するのは誰か。メントーは即座に答えた。「信頼を得た者だ」。メントーはVanguardが行った、アドバイスがもたらす情緒的恩恵に関する調査結果も共有した。「世界がデジタル化するほど、人間的要素の価値は低下するのではなく高まる。我々の調査では、アドバイスを受けているクライアントの86%が、自分一人で資産管理するより、アドバイザーとの関係があることで資産について考える際の安心感が大きいと回答している。最終的には、クライアントの信頼を勝ち得た会社が勝つ」
シティ・プライベート・バンク北米部門代表のクリス・ビオッティは、示唆に富む視点を示した。「顧客は自分自身を所有する(顧客自身が主導権を握る)ようになると考える」。これはすべてを変える。顧客はこれまでにない情報と選択肢を持つようになる。競争上の優位性は単なるテクノロジーではなくなり、関係性になるのだ。
続いてビオッティは、自らが創り出そうと努めているリーダーシップ文化について語った。「私たちはチームとして、自分が正しいと主張することではなく、正しい選択をすることに尽力しなければならない」。そして彼は、すべてのCEOが考慮すべき予測を示した。「将来のリーダーシップにおける価値の重要な構成要素は、EQ(心の知能指数)になるだろう。チームのモチベーションの源泉を理解し、彼らとどのように心を通わせるかを理解しなければならない」
ル・パレックも、AIを活用する世界における人間の専門知識の重要性に共鳴した。「未来とは、AIがアナリストに取って代わることではない。AIによってアナリストが判断を下し、市場と向き合い、重要な洞察を提供することにより多くの時間を割けるようになることだ」
ランガナサンもまた、自身の中核的なリーダーシップ哲学を共有した。「未来は、人間の働き手とデジタルワーカーから成るハイブリッドな労働力を管理することになる。不可欠なのは、人間を置き換えるのではなく人間を増幅すること、役割を再構想すること、AIと並んで働くためのスキルを構築すること、そして自ら学び、自らの知性を複利的に高めていくネットワーク型企業の中で成長することだ」
3. 未来は、現状に甘んじるリーダーではなく、勇気あるリーダーのものだ
ビオッティは、プロのアイスホッケー選手だった若き日からエグゼクティブへと至る中で培った哲学を共有した。「ハイパフォーマンスなチームは、思考や背景の多様性を集約することによって構築される。最も成功している人々は、考えてから行動を起こすのではなく、行動を通じて新たな思考に至るのだ」
ル・パレックは、AIが強力になるにつれて、最も重要なリーダーシップ能力がさらに価値を増すと信じている。「現在の状況とAIを考慮すると、何よりも大切なのは共感力(エンパシー)だ。顧客への共感、チームへの共感、彼らの立場に立って考えることだ」
ランガナサンは未来について明確に語った。「安全策をとっても何の役にも立たない。浅い実験では企業価値は生まれない。しかし、人を中心に据えて仕事の進め方を再構築する勇気を持つリーダーは、AIの可能性を持続可能な競争優位性へと変えることができるだろう」
ダグは続けて、将来のチームが顧客により良い成果をもたらすために、人間の判断とテクノロジーをどのように融合させるかについて、リーダーは異なった考え方をする必要があると述べた。「将来のリーダーはテクノロジーに対して慎重になるどころか、より勇敢になる必要がある。AIが顧客へのサービス提供やビジネス運営に組み込まれるにつれて、適切な監督や管理を含め、AIが生み出すシステム上のリスクを管理することが、リーダーシップの役割の核心部分となる」
次世代の変革型CEOは、どれだけの知能を自動化したかではなく、どれだけの人間の知恵を育んだかによって定義されることになる。人工知能がどこにでも存在するようになる世界では、本物の「人間らしさ」こそが究極の競争優位性となるからだ。



