北朝鮮は、暗号資産取引所のバイナンス(Binance)を何カ月もかけて狙い続けたすえに、わずか20分ほどで60億ドル(約9480億円)を超える暗号資産を盗み出した。
古代ローマの詩人ウェルギリウスは、叙事詩『アエネーイス』でトロイの木馬を語った。北朝鮮によるバイナンスへの攻撃もトロイの木馬と同じく、圧倒的な力を見せつけることや、特殊な技術を使った手口から始まったわけではない。始まりは、ごくありふれたものに見えた。偽の求人と、ある従業員がダウンロードした採用選考のコーディング課題だ。
ブロックチェーン分析企業のTRMラボによると、北朝鮮のハッカー部隊TraderTraitor(トレーダートレーター)は、協定世界時(UTC)10月29日20時5分から資金を抜き取った。狙われたのは、10のブロックチェーン上にあるバイナンスのホットウォレット(インターネットにつながったまま運用するウォレット)である。63億6000万ドル(約1兆49億円)の大半が、20分ほどのうちに移されたという。
被害はバイビット事件の約4倍、人をだます手口と巧妙な資金洗浄
暗号資産の窃取でそれまで過去最大だったのは、2025年2月に暗号資産取引所バイビット(Bybit)から奪われた15億ドル(約2370億円)で、バイナンスの被害はその約4倍にのぼる。今回の事件はまた、バイナンスのみにとどまらない弱点も浮き彫りにした。
北朝鮮のハッカーは、ソーシャルエンジニアリング(人の油断や信頼につけ込んで情報や権限を盗み出す手口)とAI、そしてますます巧妙になる資金洗浄の技術を組み合わせている。北朝鮮の手口に対抗するために、暗号資産企業は3つのことに取り組む必要がある。従業員の守りを固めること、盗まれた資金が動き出したときにもっと素早く連携すること、そして政府と協力して、攻撃の背後にあるネットワークを断ち切ることだ。
バイナンスは被害額を約63億4000万ドル(約1兆17億円)とし、損失は自社で引き受けると約束した。10月31日時点で、影響を受けたトークン資産の98%をすでに手当てしたと明らかにしている。



