データ主権は「企業の内側」でも認められるべきだ
最近、ベンダー各社はデータ主権に関する懸念や要求、法規制への対応を強化している。特に国境を越えたコンピューティングに関わる領域で顕著だ。例えばMicrosoftは最近、欧州連合(EU)の取り組みへの対応を念頭に、Microsoft Sovereign CloudをSovereign Public Cloud、Sovereign Private Cloud、Sovereign Partner Ecosystemへと拡大した。
しかし、主権とは国境を越えることだけを意味するものではない。国境を越えたやり取りと同様に、企業の内側でもデータ主権を確保する必要性は極めて大きい。
何年もの間、企業は従業員が持つ知識や専門性を取り込み、蓄積し、利用可能にしようと試みてきたが、その成果はまちまちだった。ナレッジマネジメントプラットフォームやSharePointのようなソリューションが登場し、企業のあらゆる学びを引き出せる単一のリポジトリ、あるいはリポジトリやデータベースを高度に統合した連合体を提供すると約束してきた。
AIはそのモデルを根底から覆し、保存された知識を組織の管理が及ばない外部のシステムやモデルへと移している。その結果、最初のプロンプトから最終的なプレゼンテーションに至るまでの間に大きな空白が生まれつつあると、EqusのCEOでAmazon Web Services(AWS)の元バイスプレジデントであるサンディ・カーターは、ピーター・ドラッカー・フォーラムが公開した論考で強調している。
かつては非常に単純だった。従業員や管理職は、自らの知識や洞察の多くを頭の中に、あるいはある程度はナレッジマネジメントシステムの中に保持していた。だが現在、それは企業とベンダーの双方の領域にまたがるシステム内に保持されているとカーターは強調する。特に進行中の作業や未加工のデータがそうだ。未完成の仕事を考えてみてほしいと彼女はいう。それはいまや「ベンダーが所有するモデルによって記録され、保存され、読み取り可能になっている」。
通常、「企業の契約が対象にするのは完成した成果物であり、下書きはほとんど含まれない」と彼女はいう。要はデータが有効で、可視化され、適切な人の手に渡ることをどう保証するかという問題なのである。
データ生成から最終納品までの、その繊細な中間領域こそ、最も重要なイノベーションが練り上げられる場所だと彼女は続ける。「コパイロット(AI支援ツール)の中で反復された戦略資料はすべて、企業がどう結論づけたかだけでなく、どう考えたかの記録でもある。それは企業が生み出す最も価値あるデータでありながら、最も保護されていないデータでもある」
例えば、従業員が退職したとき、こうした洞察は宙に浮いたままになる可能性がある。ドラッカーがかつて述べたように、それらはもはや「ドアの外へ持ち出される」わけではないかもしれない。では、それはどうなるのか。
この露出した中間領域がもたらす影響は深い。Data Innovation Summitの創設者で、Hyperight ABのCEOであるゴラン・ツヴェタノフスキも同様の問いを投げかけている。「企業はすでに自社のビジネス理解の多くを外部に委ねてしまい、もはや十分に理解できないものを自動化してしまうリスクを抱えていないか。エージェントがより多くの業務を担うようになるにつれ、企業は結果を出す速度を上げる一方で、その背後にある意思決定を説明、再現、改善する能力を失っていく可能性がある」
ツヴェタノフスキは、企業が情報の所有権を、迅速な生産性向上と引き換えにしていると考えている。「即時の生産性をもたらす選択は、同時に知識がどこに蓄積され、次に誰がそれを利用できるかを決定する。そうした選択を理解することは、より大きな自立性、より良い意思決定、そして組織が学んだことを土台にしたイノベーションへの実践的な道を開く」
データが企業の内側に保持されていても、組織は「自社のビジネスがどう機能しているかを理解するために、なお外部の関係者に大きく依存している」とツヴェタノフスキは述べる。「重要な業務ルールは、アプリケーション、カスタムコード、サプライヤーの設定、経験豊富な従業員の記憶の中に分散している可能性がある一方、正式なプロセス文書は現実の簡略化された一面しか捉えていない」
AIによって、この課題は一段と差し迫ったものになる。「組織は、解釈や判断を伴う活動を委任し始めている」とツヴェタノフスキは警告する。「そうした活動が、企業が十分に説明も再構築もできないシステムに組み込まれると、生産性の向上と内部能力の弱体化が同時に進みうる」
すべては組織内で主権を維持することにかかっている。それは「市場、技術、優先順位が変化した際に自らの能力をより適切に適応させられるようになるため、サプライヤーに対する交渉力が高まること」を意味するとツヴェタノフスキはいう。「持続的な優位性は、自分たちが何を知っているのかを説明し、それを責任ある形で適用し、次の発展段階へと持ち運べる組織に属するのかもしれない。システムの背後にある知識を管理できて初めて、技術選択は実質的な意味を持つ」
中間領域に取り残された情報を取り戻すために、カーターは「成果物だけでなく下書きや作業中の文書について何と書かれているか、AIベンダーの利用規約を確認すること」を推奨する。「出版社が記事に報道禁輸(エンバーゴ)を設定するように、未完成の作業にプライバシー期間を設ける。オフボーディング(退職手続き)のチェックリストにAIの作業履歴を追加し、誰がそれを保持するのかを決める。そして、自社の従業員が下書きを別のツールへ自由に移せるようにするべきだ」
重要なのは、「最初のプロンプトから最終的なプレゼンテーションまでの間にある仕事を保護すること」だと彼女は述べる。「未完成の思考は、完成品と同じくらい、自社の競争優位を明らかにし得る。AIベンダーの規約が下書きや作業中の成果物について何と述べているかを確認すべきだ」
知識の発展がベンダーの領域内に閉じ込められないようにしなければならない。「自分たちの思考を持ち運び可能にすべきだ」と彼女は促す。「AIツールの導入を決める前に、チームが下書きや作業履歴を別の場所へ持ち出せるかを確認する必要がある。長年蓄積された専門知には、出口戦略が必要だ」



