カナダと米国は世界で最も長い国境線を共有している。とはいえ、注目すべきなのは両国を隔てる想像上の境界線ではなく、両国を実際に結びつけている何十本もの送電線だ。
このつながりは100年以上にわたって続いてきた。カナダはいま、それにあまり依存せずに済むような電力網の構築に乗り出している。
その広大な国土にもかかわらず、カナダの送電線は国内を東西につなぐものよりも、南にある米国の州と結ぶもののほうが発達している。カナダでは各州がそれぞれ独自の電力網を管理している一方、人口がカナダの10倍近くある米国には大きな電力需要があり、カナダの電力事業者にとって電力を南に販売するほうが容易でもあれば収益性も高かったためだ。
南北の接続から東西の接続へ
ドナルド・トランプ政権の米国との間で貿易をめぐる緊張が深刻化するなか、カナダは国内の送電線を東西方向に拡充する取り組みを始めた。マーク・カーニー首相は5月、2050年までに電力網の容量を2倍に拡大することを目指す国家電力戦略を発表した。翌月、カナダ政府は州間を結ぶ送電線の整備で5つの優先プロジェクトを指定した。
今年8月、両国間の貿易交渉は決裂し、米国はカナダからの輸入品およそ200億米ドル(約3兆2000億円)相当に50%の関税を課した。ただ、この関税ではエネルギーなどは対象外だった。数日後、カナダ東部オンタリオ州のダグ・フォード首相は、対立が激化すれば米国のニューヨーク州、ミシガン州、ミネソタ州への電力輸出を止めることも辞さない考えを示した。カナダ当局は送電網の拡充について、主に電力価格の手ごろさや電力供給の信頼性を確保していくための取り組みと位置づけつつ、国家安全保障上の問題でもあるとしている。
国内を東西を結ぶ送電線を整備すれば、カナダはこれまで持っていなかった選択肢を手にすることになる。自国で発電した電力を、自国内にとどめることが可能になるのだ。カナダと米国の間で電力網が分断されれば、双方の電力網の信頼性が低下するだろう。ただし、その程度は均等ではない。たとえば米北西部では、電力需給が最も逼迫するときに重要な電力供給の一部をカナダから調達しているからだ。



