かつて、人々がCMを見るのを心から楽しみにしていた時代があった。
1960年代、広告は芸術の一形態だった。ニューヨークのマディソン・アベニューに拠点を置く広告代理店には、ビジネス界で最も創造的な人材が集まり、大衆文化を形作るキャンペーンを生み出していた。
テレビシリーズ『マッドメン』は、キャンペーンがありふれた商品を誰もが知る名前へと変え得た、そんな黄金時代を描いた。
しかし、その後の数十年で何かが変わった。
今日、人々はCMを回避するために追加料金を払い、ポッドキャストのスポンサー枠をスキップし、広告ブロッカーをインストールし、スポンサー投稿をスルーしてスクロールする。
2026年4月のガートナーの調査によると、米国の消費者の81%は広告を無視しようとしていると答え、なかには積極的にブロックしている人もいる。
これが、事業を運営する立場にとって何を意味するか考えてみてほしい。企業は、自社を積極的に避けようとしている顧客にリーチするために資金を投じているのである。
では、なぜこのような状況に至ったのか。そして、企業はどのような新しいアプローチをとっているのだろうか。
広告の黄金時代
広告の黄金時代は1960年代に終わったわけではない。
Appleの伝説的な1984年のスーパーボウルCMを覚えているだろうか。
リドリー・スコットが監督したそのCMは、広告というより映画の予告編のようだった。Appleは新しいMacintoshコンピューターの機能を列挙していたのではない。IBMの支配に対抗する形で自らを位置づけ、「他とは違う(Being Different)」という概念を打ち出したのだ。
人々は、こうしたCMが娯楽として面白かったから見ていた。なかには、合間に挟まれたテレビ番組と同じくらい記憶に残るものもあった。
しかし、テレビチャンネル、ウェブサイト、デジタルプラットフォームが増えるにつれ、広告は視界に入るあらゆる場所に現れるようになった。
CMが番組を中断し、ポップアップがウェブサイトを覆い、広告がインターネット上で人々を追いかけ回した。
そこで人々は反撃し始めた。
ハードディスクレコーダー(DVR)により、CMを飛ばせるようになった。広告ブロッカーはオンライン広告を消し去った。ストリーミングサービスは広告なしのサブスクリプションを提供した。
企業は、消費者が意図的に遮断しようとしている「関心」に対して費用を払っていたのである。
だが、顧客にリーチする別の方法は、ずっと前から存在していた。
口コミは元祖インフルエンサーマーケティングだった
ソーシャルメディアが登場するはるか以前から、企業は個人的な推薦の力を理解していた。
エイボンは1886年以降、戸別訪問の美容販売員を軸に事業を築いた。タッパーウェアは1950年代にホームパーティーを普及させ、女性たちが友人に商品を紹介した。メアリー・ケイは、独立系の美容コンサルタントとその人間関係を軸に化粧品会社を築いた。
これらは歩合制の販売モデルだったが、重要なことを示していた。
広告に全面的に頼るのではなく、企業はすでに自分の社交圏にアクセスを持つ人々を通じて顧客にリーチできるということだ。
そしてソーシャルメディアが登場すると、その考え方は拡張可能になった。
ソーシャルメディアはすべてをどう変えたか
ソーシャルメディア以前なら、誰かがある商品を10人の友人に勧める程度だったかもしれない。
今では、1人の人物が一夜にして数百万人にそれを紹介できる。
Gymsharkを例に取ろう。2012年、当時19歳だったベン・フランシスは、ピザの配達員として働きながら大学で学ぶ傍ら、フィットネスアパレル事業を立ち上げた。
彼にはNikeやAdidasと競うだけの広告予算はなかった。
そこで、彼は憧れていたフィットネス系YouTuberたちに衣服を送り始めた。
これらのクリエイターには、ボディビルやフィットネスに情熱を持つ忠実な視聴者がすでにいた。彼らが動画でGymsharkの商品を着ると、フォロワーたちはそのブランドを知るようになった。
無料の商品を送ることから始まった取り組みは、長期的なインフルエンサーパートナーシップへ、そしてフィットネスを中心に築かれたコミュニティ全体へと発展した。
2020年までに、Gymsharkの評価額は10億ドル(約1580億円)を超えた。
あらゆる人にリーチしようとするのではなく、Gymsharkはすでにフィットネスに深い関心を持つ特定の人々の集団から始めたのである。
そして企業は、その成功を再現する機会をすぐに認識した。創業者であるなら、自社ブランドを中心に結集するコミュニティをつくることだ。
やがてクリエイターの推薦は広告になった
CMを作って人々が見てくれることを願う代わりに、ブランドは、視聴者からすでに信頼されているクリエイターと提携できるようになった。
美容系クリエイターはチュートリアルの中でスキンケアを紹介でき、ビジネス系クリエイターは、会社経営の方法を説明しながらソフトウェアを実演できる。
広告は、人々がすでに見たいと思っているコンテンツの一部になった。
そして業界は急拡大した。
インタラクティブ・アドバタイジング・ビューロー(IAB)によると、米国のクリエイター広告支出は2025年に約370億ドル(約5兆8600億円)に達し、2026年には440億ドル(約6兆9600億円)に達すると予測されている。
だが、これもまた変化するだろう。
誰もがクリエイターに対価を払って商品を宣伝してもらうようになったら、何が起きるのか。
消費者277人を対象にしたClutchの調査では、インフルエンサーが報酬を受け取っていると知った場合、その推薦を以前より信頼しなくなると答えた人が53%に上った。
クリエイターのスポンサー投稿も、いずれ従来型CMと同じ懐疑の目にさらされるのだろうか。
次なる機会:より小さく、ニッチで信頼できるコミュニティ
数百万人のフォロワーにリーチするためにクリエイターへ対価を払う代わりに、企業はより小規模で高度に専門化されたコミュニティの中に機会を見いだすかもしれない。
あなたが、企業のAI導入を支援する会社を経営していると想像してみよう。
関心があるかどうかわからない起業家に広告を出すため、何千ドルも使うこともできる。
あるいは、AIの使い方を積極的に学んでいる1000人の事業主が集まるコミュニティを運営する人物と提携することもできる。
売り込みをするのではなく、事業の一部を自動化する方法を示すワークショップを開く。
メンバーは有益なことを学び、あなたの専門性を直接体験し、実装に支援が必要な人はあなたの会社に依頼できる。
あなたは、自社が提供するものにまさに関心を持っている1000人の潜在顧客にリーチしているのである。
価値はオーディエンスの規模にあるのではない。その人々がどれほど関連性を持っているか、そしてあなたを会話の中に招き入れる人物を彼らがどれほど信頼しているかにある。
ある意味で私たちは、タッパーウェアのパーティーを支えていたのと同じ原則へ回帰している。ただし今、その集まりはZoom上、非公開コミュニティの中、あるいはクリエイターのニュースレターを通じて起きている。
企業が顧客に届くための新たな手段としてのAI
Shopifyはすでに、自社のコマースプラットフォームをメタの「Muse」を含むAIショッピングアシスタントと接続しており、AIエージェントが人間に代わって商品を購入できるようにしている。
Shopifyによると、2026年の最初の3カ月間におけるAIアシスタント経由のトラフィックは、2025年同期の8倍以上に達したという。
自分の予算とランニングスタイルに最適なランニングシューズを見つけるよう、AIアシスタントに頼む場面を想像してみてほしい。広告をスクロールして探す代わりに、商品の比較と推薦を受け取ることになる。
企業は、自社の商品が人間だけでなく、AIボットによってどのように発見され、推薦されるのかを考えなければならなくなる。
だからといって、広告が姿を消すわけではない。企業は今も広告に多額を投じている。
しかし、広告は変わりつつある。
1960年代、企業は最も記憶に残る広告をつくることを競っていた。
今日では、人々がすでに信頼しているコンテンツ、会話、コミュニティの一部になることを、ますます競うようになっている。
そして将来的には、AIエージェントが発見し購入するプロセスの一部になることも競うようになるだろう。



