石油1バレルの価値は、油田から採掘する量だけで決まらない。いつ生産し、原油のまま売るか精製するか、どの経路で運ぶかによって利益が変わる。2026年には、中東産原油の重要な輸送路であるホルムズ海峡の通航が混乱し、物流費が急増した。
アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ国営石油会社(ADNOC)は、OpenAIやAI・クラウド企業G42と提携し、油田開発から石油取引までの判断にAIを導入する計画だ。数千本の油井や油層などの数十年分のデータを分析し、従来数カ月かかっていた油田開発計画の策定を数時間に短縮することを目指す。
さらに、AIで原油の需給や価格、利益率を予測し、まだ地中にある石油について、生産時期から精製、輸送、販売方法までを一体的に評価する構想だ。ADNOCは、部門ごとに下していた経営判断をAIで結び付けようとしている。AIが示す結論の根拠を人間が検証し、必要に応じて判断を覆せるかが問われる。
アブダビ国営石油会社は地中の原油の価値までAIで評価する計画
提携への署名は、2026年11月2日にアブダビ市で開かれたエネルギー業界の国際会議ADIPECで行われた。UAEが自国で管理するAI基盤を整備する動きとして受け止められやすいが、重要なのはAIエージェントの使い道だ。
G42はAI製品を開発する子会社Inception42を通じて、今回の提携に参加している。ADNOCの発表によると、OpenAIの企業向けAIエージェント基盤「Frontier」を導入する初のエネルギー企業となる。Frontierは、OpenAIが2026年2月に発表した製品だ。ADNOC、OpenAI、G42は共同でシステムを開発・導入し、G42がUAE国内で提供するAI基盤上で稼働させる計画だ。
生産量だけでなく原油の需給・価格・利益率までAIで予測する
OpenAIはFrontierの発表時、社名を公表していない大手エネルギー生産企業が、AIエージェントを使って生産量を最大5%増やしたと説明した。ADNOCが目指す用途は、生産効率の向上にとどまらない。初期導入で予定する2つの用途のうち、2つ目では「まだ地中にある石油を1バレルごとに評価する」という。ADNOCは、この技術を使う初のエネルギー企業になるとしている。
生産・処理から精製、物流、販売、取引までの情報をつなぎ、操業、設備投資などへの資金配分、商取引に関する判断を順番ではなく一体で下せるようにする計画だ。具体的には、複数のAIエージェントが原油の供給量、需要、価格、利益率を継続的に予測する。操業や商取引の判断が及ぼす影響を事前に評価する計画だ。AIの活用範囲は技術部門を越え、国営石油会社の商取引の判断にまで及ぶ。
ADNOCの最高経営責任者(CEO)、スルタン・アル・ジャベルは発表で「AIが次に切り開くのは、単に物事を速く進めることではない。これまで手の届かなかったことを可能にすることだ」と述べた。
ホルムズ海峡の混乱で物流費が急騰し、輸送経路の重要性が増した
提携の狙いは、発表時点のエネルギー市場の状況とも関係する。ジャベルはADIPECの開幕演説で、ホルムズ海峡の通航が混乱して以降、世界の原油在庫が10億バレル近く取り崩されたと説明した。原油1バレルの費用に占める物流費の割合は、危機前の5%未満から演説時点で30%超へ上昇したという。
エネルギー安全保障は、石油を生産できるかだけでなく「供給先に届けられるかどうかでも測られるようになった」と語った。2026年にはホルムズ海峡の通航が料金や許可に左右されるようになり、石油1バレルの価値は油層の条件と同じくらい、輸送経路にも左右される。



