台湾の山岳地帯に生息するタイワンカモシカは、カモシカの亜種とされる偶蹄類だが、体長85cmほどの小さなカモシカで、愛くるしい姿は台湾で大人気とのこと。そのタイワンカモシカが、じつは「生態系エンジニア」であることが東京農工大学や台湾の国立屏東科技大学らによる研究グループの調査で判明した。
タイワンカモシカは、偶蹄類の中でも珍しく木に登る性質がある。木登りをすることが知られている偶蹄類は7種(全体の2%)しかいない。2024年、同研究グループはタイワンカモシカが木登り行動をすることを世界で初めて明らかにしているが、木に登って高所の葉を食べることで、キョンやサンバーといった同じ環境に暮らす木に登らない偶蹄類との食料争奪戦を避けているものと思われる。

その食べ跡を調べたところ、最大で地面から6.8mもの高さにまで登っていることがわかった。キリンの頭より高い位置にある木の葉を食べていたわけだ。だが、どんどん高い所に登って葉を食べているわけではない。成獣の体重が20kgほどあるので、何度も登り降りしている木では、枝がしなり、上方向ではなく横方向に伸びるようになっていることがわかった。また、枝の根元あたりの葉枝を集中的に食べることで、そこから新たな枝が伸び、比較的低い位置にたくさんの枝葉をつける形に木が変化していることも判明したのだ。

こうしてタイワンカモシカは、自分たちの食事に都合がいいように樹形を変化させていた。その恩恵を受ける別の動物たちもいて、タイワンカモシカの行動が生態系を整えているともいえる。こうした行動をとる動物を、生態学では「生態系エンジニア」と呼んでいる。タイワンカモシカも生態系エンジニアであったことが、今回の調査で判明したということだ。
生態系エンジニアとして知られる動物には、森林に道を切り開くアフリカゾウ、川にダムを作るビーバー、また土の通気性や肥沃度を高めるミミズもその仲間だ。単に自分の生活に都合がいいように環境を変化させるだけでなく、そうして作り出された環境に依存して生活する動植物もいることが、生態系エンジニアの特徴とされている。タイワンカモシカの樹形を変化させる行動は、その木に依存して生きる生物にも影響を与えている可能性がある。
タイワンカモシカの生態はまだよくわかっていないが、今回の発見は、今後の保護対策を考えるうえで重要な情報源になるということだ。



