AIエージェントの費用は、試みた件数でなく解決できた件数で割る
もう1度、小売業者の例で考えてみよう。AIモデルの利用料を、エージェントが処理を試みた返品の件数で割るだけでは、サービスの運用にかかる費用の多くが抜け落ちてしまう。計算には、既存システムとの連携、保守、監視、処理に失敗した分の費用、そして間違いを正したり、解決できなかった案件を片づけたりする従業員の費用も含める必要がある。
より役に立つ指標は、運用にかかる費用の総額を、小売業者が求める水準で解決できた返品の件数で割った値だ。あわせて、顧客がサポートに再び問い合わせてくる頻度も追うべきである。1回のやり取りは安く済んでも、顧客が同じ問い合わせを繰り返すことになれば、解決までには高くつくからだ。
解決できた返品1件あたりの費用で測れば、インフラ企業各社の主張も評価しやすくなる。1ワットあたりのトークン数が増えれば、提供事業者の採算はよくなるかもしれない。しかし、提供事業者を通じてAIを買う小売業者は、効率が上がった恩恵が、自社の支払う料金やサービスに表れているかを見極める必要がある。設備を自ら直接購入する企業であれば、購入した設備が持つ処理能力のうちどれだけを実際に使うのかも、勘定に入れなければならない。
返品処理で浮いた時間、従業員は新たに何をこなせるか
浮いた時間についても、同じように厳密に考える必要がある。エージェントが従業員を定型的な返品処理から解放するなら、経営者は、手の空いた従業員が新たに何をこなせるようになったのかを見定め、仕事の中身がどう変わったかを測るべきだ。浮いた時間が投資の根拠になるのは、対応できる仕事が増えたり、サービスがよくなったり、会社が避けられる支出が生まれたりする場合である。
AI支出をどう管理するか、経営者が問うべき5つの質問
ハーバード・ビジネス・スクールでエグゼクティブ・フェローとして教えるダグ・レビンは、AIへの投資を会計の面でもっと見える形にするよう勧めている。レビンの助言は、導入の判断と財務の監督を結びつけるために経営者が使える、以下に挙げる5つの問いに置き換えられる。
・AIへの支出は、予算のどこに計上されているか
・うまく完了したタスク1件あたりの費用はいくらか
・AIへの支出に責任を負うのは誰か
・どんなエージェントの導入を、事前承認の対象にするか
・監査委員会は、AIのコストについての報告をどれくらいの頻度で受けているか
5つの問いに答えていけば、エージェントの受け持つ仕事が増えるにつれて、支出がどう変わるのかが見えてくるはずだ。定型的な返品の処理なら割に合う導入でも、確認を何度も重ね、従業員の介入も要する、購入に異議が出た案件にまで広げると、費用がかさむおそれがある。経営者は、試験導入での成功が期待外れの投資に変わってしまう前に、支出の変化に気づけるよう、状況を十分に見えるようにしておく必要がある。
第三者試験を経て、返品1件あたりの総コストが下がったか確かめる
私が取材した時点で、ボライソーは、Napierについて見込むシステム性能は、シミュレーションと照らし合わせて確かめることになると話していた。Tensordyneが主張する優位を、モデルの精度を落とさずに、現実的な業務負荷のもとでも維持できるのかどうかは、完成したシステムを使った第三者の試験で確かめる必要がある。
Tensordyneの技術を検討する小売業者は、購入への異議や返品規定の例外といった、扱いの難しい返品を試験に持ち込むべきだ。そして経営者は、導入を広げる前に、推論の改善によって、正しく解決できた返品1件あたりの総コストが実際に下がっていることを示す証拠を求めるべきである。しかも、顧客がAIエージェントに期待するサービスの水準を満たした上での話だ。


