すでに他の海域では、謎の解明に役立ちそうな手がかりが見つかっている。とりわけ1995年に台湾で確認された情報が有力だ。漁師が捕えた体長33フィート(10m)の雌を調べたところ、2つの子宮から、異なる発達段階にある304個の受精卵と胚が見つかったのだ。これにより、ジンベイザメが生きた子どもを産む「卵胎生」であることが明らかになった。卵は、母ザメの体内で孵化し、泳げる状態になってから体外に出てくるわけだ。
のちに実施された遺伝子研究では、そうした胚が同じ父親のものであることも示され、母ザメが長期にわたって精子を体内に保存し、受精できる証拠にもなった。それ以降、科学者たちが記録した赤ちゃんジンベイザメの個体は世界全体で33例ほどにすぎない。発見場所は、大西洋からアラビア海、太平洋に至る熱帯海域に広く点在している。
世界各地で見えてきた「出産の秘密」
2025年の研究によると、生まれたてのジンベイザメは、酸素極小域(OMZ)と呼ばれる、海洋中の溶存酸素濃度が極端に低い海域において、偶然とは思えないほどの頻度で見つかっている。これを、捕食者を避けるための戦略だと見る向きもある。捕食者はOMZに近寄らないからだ。また、OMZの周縁部にはプランクトンが多く集まるため、幼いジンベイザメにとっては格好の餌場でもある。ということで母ザメは、産まれたばかりの子どもが捕食者に見つかりにくいOMZのような場所を、あえて選んでいるのだろうか。実に興味深い説だが、確かなことはまだわかっていない。これは、人間が何十年もかけて研究している種でも、未知の部分がまだまだ残されている証拠でもある。
科学者は現在、サーレ湾一帯でジンベイザメ25匹にタグをつけて追跡している。その多くが、湾内かその周辺でほとんどの時間を過ごし、時折遠くに出かけて行っては戻ってくることが判明している。
地元の漁師と、こうした動物たちとの関係も変化している。ジンベイザメはかつて、魚を競い合う恐るべき相手だったが、今では、成長を続けるエコツーリズムに欠かせない存在だ。若い世代は、観光客を海へと案内し、ジンベイザメを見てもらう道を探っている。環境保全に取り組むインドネシアの財団「Konservasi Indonesia」も、ジンベイザメを守るために、サーレ湾北部を保護区に設定する方向で動いている。
この幼いジンベイザメが本当にサーレ湾生まれなら、同じようなサメはほかにどのくらいいるのだろうか。世界最大の魚類ジンベイザメは、驚くほど人間に近い所で幼少期を送っている可能性がある。にもかかわらず、科学的な確認がなかなかできない、謎の多い存在であり続けている──少なくとも、今のところは。


