AIが招く値上がり、電力やデータセンターに資金が向かう
インフレの火に油を注ぐものが、もう1つある。インフレの要因として数える人は、ほとんどいないものだ。
AIである。
AIは何よりも、新しいアイデアを次々に生んでいる。アイデアにはお金が要る。しかも、そのアイデアはあらゆる分野に及ぶ。電力、エネルギー、データセンター、機器、半導体、電池、建設資材、そして、念を押しておくと、さらにエネルギー。エネルギーは何度でも繰り返す価値がある。あらゆるものを生み出すのに欠かせない投入物だからだ。
巨大IT4社の設備投資は約81兆円、銅は39%高
数字は信じがたいほどだ。アマゾン、マイクロソフト、アルファベット、メタの4社は、6月30日までの12カ月間に、設備投資に5110億ドル(約80兆7400億円)を投じた。1年前の2910億ドル(約45兆9800億円)から大きく増えており、各社の事業が生み出す現金の77%にあたる。そのお金はモノの購入に回り、すでに価格を押し上げている。アマゾンによれば、メモリー半導体の値上がりで、2026年の設備投資計画は2000億ドル(約31兆6000億円)から約2200億ドル(約34兆7600億円)に膨らんだ。配線や送電線に使われる金属である銅の価格は、7月に前年同月より39%高かった。木材は14%、電気料金は4%高かった。
なぜナイキもスターバックスも、技術競争で減速できないのか
世界中のあらゆる企業が、AIで先頭に立ちたいと考えている。AIで、よりよい靴をつくる。よりよい衣料品を。よりよい医療機器、よりよい医療、より高機能な素材を。しかも各社は、それを競い合っている。今すぐに、だ。なぜか。そうしなければ取り残されるからだ。立ち止まってなどいられない。ナイキは、スポーツ用品のアンダーアーマーより速く、賢くAIに投資しなければ負ける。スターバックスは、ドーナツチェーンのダンキンを引き離さなければならない。支出を減らすと名乗り出るCEOや取締役会は、ほとんどいない。7月には、アルファベットとアマゾンがそろって、その年の設備投資計画を引き上げた。
ここに良い面と悪い面がある。良い面は、支出が急増していることだ。悪い面は、その急増が速すぎるかもしれないことだ。これほど大きな需要が、これほど品薄のものに集まる。価格はそうやって上がっていく。
エヌビディアの最新システムで、計算単価は半年で6割強下落
ここまでが、AIがインフレにつながる側面である。AIには市場の側面もあり、ひびが入っているのはそちらのほうだ。
AIの計算は急速に安くなっている。エヌビディアは5月、同社のBlackwell Ultraシステムでは、AIの出力の基本単位であるトークン当たりのコストが、半年で60%下がったと明らかにした。軽量なAIモデルは、今やノートパソコンでも動く。
マイクロソフトやグーグルは自社製チップへ軸足を移す
しかもクラウド大手は、エヌビディアの半導体に頼らなくなりつつある。マイクロソフトは、自社開発の半導体「Maia」を、AIを動かすための主力のアーキテクチャにする計画だ。グーグルは、自社で開発したAI向け半導体「TPU」を使ったシステムを、顧客のデータセンターに納め始めた。AnthropicとOpenAIは、アマゾンが自社で開発したAI向け半導体「Trainium」を、複数年にわたって使うと約束している。
巨額支出は報われるか、誰が代金を払い続けるか
安くなるのは、利用者にとってはよいことだ。だが投資家にとっては、そう単純な話ではない。AIの価格が、利用の伸びを上回る速さで下がれば、あれだけの支出から得られる稼ぎは、期待されていたほどにはならない。そして、その期待、つまり成長への期待を織り込んで株価がついている銘柄こそ、現在急騰している銘柄である。エヌビディア株(NVDA)がどこまで下がりうるのかも、気にかけておきたい。実際、私たちは、市場の大幅な下落に至る道筋の多くが、1つの問いに行き着くとみている。これだけのAIの計算に、誰がお金を払い続けるのかという問いである。


