不完全な情報のなかで「賭ける」
アドバンテストの先見の明を支えるもの。それが顧客との対話である。
アドバンテストの顧客は、製造設備をもたずに設計や販売に特化し、製造は外部に委託するファブレス企業が多い。彼らは新たなデバイスのロードマップや、あらゆるAI関連技術を牽引している。設計と製品のテストは密接に結びついているため、アドバンテストは顧客との対話を通じてAI業界の最新トレンドを誰よりも先取りし、独自の視点をもつことができる。
「お客様とオープンな対話を行い、どのような課題を抱えているのか、何を解決する必要があるのかを共有し合う。そうすることで、お客様と一緒に絶えず革新を続けながら業界第1位のポジションを維持できているのです。私たちのビジネスは、お客様との信頼関係に大きく依存しているといえます」(ラフィーバ)
そうは言っても、半導体業界はとにかく動きが速い。市場の動きについては、誰も正確な予想ができていないというのが正直なところだ。実際、アドバンテストも26年7月29日に27年3月期の業績予想を見直し、売上高を前回発表時の1兆4200億円から1兆7140億円に、営業利益を6275億円から8460億円に、当期利益を4655億円から6600億円にそれぞれ引き上げた。推論用AI半導体向けのテスト需要が想定を大きく上回っていることなどが要因だ。
未来を正確に見通せないなかで、同社が迫られるのが「ストラテジック・ベット」だ。不確実性やリスクを織り込んだうえで、長期的なリターンを得るために資金や時間、人材を集中投下する。アドバンテストはAI業界の急速な成長に対応するため、過去数年間で生産能力を約3倍に拡大した。今後もさらなる増強を続ける方針だ。こうした決断は、時に受注が確定する前に行わなければならない。受注した段階で準備が整っていなければ「手遅れ」だからだ。
「私にとって最も難しいことは、『不完全な情報の中で意思決定すること』です」ーー。ラフィーバは、アドバンテストの『統合報告書2025』のなかでこう語っている。
半導体テスタ界の雄として業界を牽引する立場にあるからこそ、需要を先回りし、未知の領域にも大胆に挑戦することが求められる。
「すべての情報が揃うのを待っていたら、お客様のスケジュールに間に合わせることは決してできない。だから、私たちはストラテジック・ベットをしなければならないのです」(ラフィーバ)
判断の物差しは、期待値を用いたROI(投資対効果)だ。だが、数字だけで決められるわけではない。「正直に申し上げると、私たちは何よりもまず自分たちの経験に頼らざるをえません。そして、時にはやや判断を誤ったこともありました」とラフィーバは明かす。
ラフィーバは1998年にエンジニアとしてアドバンテストの米国法人に入社し、内部昇格した生え抜きのCEOだ。30年近く同社に勤めるなかで得たさまざまな経験から、「早く失敗して、早く学ぶ」ことの大切さを実感してきた。
「私は失敗することを恐れたことがない」とラフィーバは言う。「これは誰にとっても必要なことです。失敗を恐れる人は、失敗したときにただ打ちのめされるばかりで学びを得ることができないからです」。
実際、新規事業を担当していたころは「数えきれないほど失敗した」と振り返る。戦略的な合理性があれば新規事業は成功すると思い込んだこともある。戦略を実行に移すための体制づくりが十分ではなく、撤退に追い込まれた事業もあった。そして、それらすべてが学びに変わり、リーダーとしての自信につながった。
「私たちは辛抱強い会社です。自分たちの戦略や市場の読みが理にかなっていると信じられるのであれば忍耐強く取り組みます。なかには20年近く取り組み、ようやく今、主流になりつつある製品もあります。この忍耐強さと長期的な思考は、日本の文化的なルーツによるところが大きい。これは、アドバンテストの大事なカルチャーだと思います」(ラフィーバ)


