さらに、こうした「気づく力」を鍛えていく実践として、荻野はマインドフルネス瞑想を勧める。
「マインドフルネスや瞑想は、癒しのためだけのものではありません。癒しにつながることはありますが、それは結果です。本質は“気づき”なんです」
自分はいま何を感じているのか。身体にどんな反応が起きているのか。何に注意を奪われ、どんな意味付けをしているのか。そうした自分の内側の変化を観察する力を、瞑想によって鍛えていく。「ジムでいろいろな部位の筋肉を鍛えるように、瞑想によって注意力や観察力という“筋肉”を鍛えるイメージです。週に1回でも5分、10分でもいい」。
荻野がマインドフルリーダーシップの活動を始めたのは約13年前。当時、大企業の会議室で「これから瞑想をします」と言えば、奇異に見られても不思議ではなかった。ところが現在、状況は大きく変わった。荻野はこれまで、大企業の経営者候補や管理職などへの研修やコーチングを数多く担当し、ある大手銀行では約600人を対象にマインドフルネスのトレーニングを行ったこともあるという。
「これはちょっとした“プチ革命”だと思っています。昔だったら、仕事の時間にみんなで瞑想していて大丈夫なのか、と思われたかもしれない。でも今は、『必要ですよね』と受け入れられるようになってきました」
いつもの自分は変えられる
荻野が最後に語ったのが、脳の可塑性についてだった。私たちは過去の経験によってつくられた予測や思考のパターンに従い、半ば自動的に反応している。だが、脳には経験や学習に応じて神経回路が変化していく可塑性がある。だから、いつもの自分は絶対的なものではない。
怒りを感じた瞬間に相手を責める代わりに、一度呼吸する。不安から問題を避ける代わりに、自分はいま何を恐れているのかを観察する。失敗したとき、反射的に自分を否定するのではなく、本当に100%自分だけが悪いのかと捉え直してみる。
「不安や怒りを感じなくなることが、メンタルの強さではありません。それらが生まれたときに、身体の変化を捉え、自分の思考のクセに気づき、立ち止まる。そして、これまで無意識に繰り返してきた反応とは違う行動を自ら選び直すことが、しなやかなメンタルを育みます」
荻野淳也◎一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート(MiLI)代表理事。慶應義塾大学卒業後、外資系コンサルティング会社やベンチャー企業の経営企画室長・事業担当役員などを経て現職。企業のリーダーシップ開発や組織開発の分野で、個人や組織の変容を支援するコンサルティングや研修、エグゼクティブコーチングに従事。グーグル本社で開発されたマインドフルネスベースの人材開発プログラムを日本で初めて開催。多摩大学大学院MBA客員教授、慶應義塾大学大学院理工学研究科非常勤講師。


