製油所の稼働が大幅低下、ロシアと中東の燃料輸出も減少
ウクライナの無人機攻撃は、ロシアの内陸深くにある製油所にも届くことを実証した。ハーバード大学ケネディスクールのベルファー科学・国際問題センターの調査プロジェクト「Russia Matters」による推計では、被害が最大だった時期に、ロシアの原油精製能力の20~30%、場合によってはそれ以上が停止した。
エネルギーアナリストのセルゲイ・ワクレンコは、ロシアの現在の原油精製量を1日380万~400万バレルと推計する。通常稼働時の1日550万バレルから、大幅に減少している。
国際エネルギー機関(IEA)の2026年10月版「石油市場報告書」は、軽油などの輸出減少を指摘した。ロシアと中東を合わせた軽油とガスオイル(軽油と同種の燃料油)の純輸出量は9月、1日当たり130万バレル減の82万バレルだった。前年同月と比べても60%以上の減少だ。IEAはロシアからの輸出減少について、無人機攻撃で製油所が損傷し、稼働できる原油精製設備が不足したことを原因に挙げている。
軽油価格は原油の約2倍、米国の輸送・農業にも負担
ウクライナにとって厄介なのは、軽油などの石油製品の価格が世界市場と連動していることだ。現在、ホルムズ海峡では船舶の通航に料金と許可を求める仕組みが生まれ、輸送費も高騰している。北海ブレント原油の指標価格と、実際に輸送して引き渡す現物原油の価格には、大きな開きが生じている。ワクレンコが米カーネギー国際平和財団への寄稿で指摘したところでは、軽油の価格は通常、原油を20~30%上回るが、現在は原油の約2倍に達した。
米国は世界最大の軽油輸出国でありながら、国内価格は国際相場に左右される。11月3日の米中間選挙を2週間余り後に控え、軽油高は米国の貨物輸送費や農業経費を押し上げ、消費者の負担も重くしている。
燃料供給を優先するトランプ政権、対ロシア制裁を緩和
軽油の供給不足はロシア政府に戦争目標の縮小を迫るどころか、米政府を自らの制裁制度の緩和へ動かした。米政府はまずロシア産軽油の取引を認め、続いてグラム法の一部適用を停止した。米ニュースサイトのアクシオスによると、トランプは9月20日のゼレンスキーとの電話会談ですでに、ロシアの製油所への攻撃をやめるよう求めていた。
トランプはプーチンとの電話会談後の10月9日、ロシアが10月に30万トン超、11月に50万トンの軽油を世界市場へ追加供給すると発表した。米財務省はロシア産軽油の取引を2027年4月7日まで認める許可を出した。
トランプは10月10日、記者団に対し、ウクライナには「ロシアに何をしてもよい」が、製油所を攻撃してはならないと伝えたと説明した。「絶対にやめるべきだ」とも述べた。
EUが輸入したロシア産北極圏LNGは過去最多の1218万トン
米国が対ロシア制裁を緩める中、欧州連合(EU)加盟国はロシア産エネルギーの購入を続けた。ドイツの非営利環境・人権団体urgewaldは、商品市場のデータを提供するKpler(ケプラー)の情報を基に、EU加盟国によるロシア産北極圏液化天然ガス(LNG)の購入状況を集計した。2026年1~9月の輸入量は過去最多の1218万トンに上り、支払額は78億8000万ユーロ(約1兆4026億円)に達した。
製油所の停止率だけでは、ロシア財政への打撃を測れない
ロシアの財政が製油所攻撃でどれほど打撃を受けたかも、設備の稼働停止率だけでは判断できない。ワクレンコによると、ロシアは夏季に軽油の輸出を禁止していた期間にも、160万~180万トンを船舶で輸出していた。精製後の石油製品を貯蔵する余地が乏しく、別の関税分類で輸出した可能性がある。
ロシアには、国内の燃料価格を抑えるため、政府が製油所に補助金を支払う制度がある。世界の軽油価格が上がるほど補助金の支払額も増えるため、国際価格が下がればロシア政府の財政負担は軽くなる。


