かつて多くのメーカーは、オンライン小売業者を「ノートPCとウェブサイトを使い、自宅の地下室から商品を販売しているだけの存在」程度に描いていた。
ECの黎明期には、そうした見方も理解できた。多くのオンライン事業は、限られたリソースと乏しいインフラで運営され、参入障壁も低い小規模なものだった。数百の店舗を運営する小売業者と比べれば、オンライン販売業者は事業への投資がほとんどなく、主に価格で競争すべきだと結論づけるのは容易だった。
だが、そのイメージは現実からますますかけ離れたものになっている。
ECが重要である理由
今日の主要なEC企業は、数百もの実店舗を展開していないかもしれない。しかし、テクノロジー、顧客獲得、物流、コンテンツ、アナリティクス、カスタマーサービスに至るまで、洗練されたビジネスを構築するために多額の資産を投資してきた。さらに重要なのは、従来の小売業には真似できない方法でメーカーに価値を創出している点だ。
実店舗を持つ小売業者は、集客のために店舗や従業員、地域向けのマーケティングに投資する。EC企業も異なる手段で同じ目標を追求している。検索マーケティング、デジタル広告、テクノロジープラットフォーム、カスタマーサービス、適合検索ツール、不正防止策、サイバーセキュリティ、商品コンテンツ、データ分析に巨額の投資を行っているのだ。これらの投資はいずれも安価ではない。しかし、従来の多くの店舗販売活動とは異なり、そのほぼすべてが測定可能である。
訪問者、検索、クリック、購買活動のすべてが貴重な情報をもたらす。EC企業は、顧客がどの商品を比較しているか、どのキャンペーンが購入の決め手になっているか、どのコンテンツが信頼感を高めているか、そして市場の他の場所でトレンドが顕在化する前に、どこで需要が高まっているかを把握できる。
そうしたインサイト(洞察)は、単一の小売業者の枠をはるかに超えた価値を持つ。メーカーが、消費者がどのようにブランドを評価し、商品を比較し、最終的な購買決定を下すのかをより深く理解するのに役立つからだ。
需要の創出
また、EC企業は自社での売り上げにとどまらない需要を創出している。
毎月、企業は熱心に商品を調べている消費者を惹きつけるために多額の投資を行っている。最終的にオンラインで購入する人もいれば、検索から始めて地元の小売店を訪れる人もいる。どちらにせよ、メーカーは自ら創出する必要のなかった需要から利益を得ているのだ。
その意味で、ECマーケティングは多くの場合、広告費を負担している企業だけでなく、流通ネットワーク全体を強化している。
現実世界の事例
このパターンは、筆者の自社が属する業界に限った話ではないと気づいた。長年にわたり、あらゆる業界で繰り広げられてきたパターンなのだ。
ホテル業界における歴史的な例を挙げよう。2011年、コーネル大学ホテル経営学部の研究者たちは、Expedia(エクスペディア)に掲載されたホテルが、プラットフォーム参加後に直接予約を増加させることが頻繁にあることを発見した。彼らはこれを「ビルボード効果(看板効果)」と名付けた。消費者はエクスペディアを使ってホテルを見つけ、ブランドを認知したうえで、宿泊施設に直接予約を入れた。プラットフォームによるデジタルマーケティングへの投資が需要を拡大し、エクスペディアだけでなくホテル自体にも恩恵をもたらしたのだ。
製造業でも同じ力学が生まれている。屋外用玩具メーカーのStep2(要登録)は、単に商品をオンラインで販売するだけでなく、デジタルコマース戦略を再構築した。消費者が商品を調べ、選択肢を比較し、近くの販売店を見つけられるよう支援することに投資したのだ。その結果、オンラインと実店舗の両方の売り上げが強化され、ECが従来の流通と競合するのではなく、それを強化できることが証明された。
マットレス業界の例も見てみよう。Tempur Sealy(テンピュール・シーリー)は、小売パートナーへの支援を継続しつつ、ECにも多額の投資を行った。その能力が高まるにつれて同社は事業を拡大し、後に全米最大級の実店舗型マットレス専門店であるMattress Firmの買収に合意した。オンラインでの成功は実店舗の代替となるどころか、ビジネスを強化し、実店舗へさらに手厚く投資することを可能にした。
要点
ECは単なるもうひとつの販売チャネルではない。顧客獲得、消費者のインサイト抽出、ブランドの認知、需要創出を後押しするエンジンであり、メーカーが展開するあらゆる販売チャネルに利益をもたらしている。
最も強固なサプライヤー関係を築いている企業は、測定可能な需要を生み出し、実用的な市場インテリジェンスを提供し、ブランドが本来なら決してアプローチできなかった顧客へ届くよう支援している企業でもある。
ビジネスリーダーにとって実践的なアドバイスは、ECパートナーを自社チャネルでもたらす収益だけで評価しないことだ。引き寄せる顧客、創出する需要、生み出す情報、そして消費者が自社商品を見つけ理解できるよう行っている投資に着目すべきである。それらの能力は、従来の売上レポートには反映されない価値をビジネス全体にもたらしている可能性がある。
これは、サプライヤーとの関係をより協力的なものにすべきであることも意味する。顧客が何を検索しているか、どこで躊躇しているか、どの商品やメッセージが支持を得ているかについての情報を共有するのだ。そのインテリジェンスを他のチャネルで得られた知見と比較し、在庫、商品開発、プロモーション、顧客教育に役立てる。ECパートナーを販売網としてだけでなく、市場インテリジェンスの源泉として扱う企業は、顧客が実際にどのように購買意思決定を行っているかを、はるかに明確に把握できるようになる。
だからこそ、「地下室にこもる男」というイメージはもはや過去のものとすべきだと考える。彼らは地下室にとどまらず、テクノロジー企業を築き上げたのだ。
そして、そうした企業が今や何をもたらしているかを認識するメーカーは、より強固なパートナーシップを築き、より優れたビジネス上の意思決定を行い、オンライン販売においてより効果的に競争できるようになるだろう。



