パラオは現在、成人肥満率の高まりによって糖尿病や心筋梗塞、がんなどの生活習慣病が死因の約7割を占める深刻な事態に陥っている。アメリカの統治時代(1947年〜1994年)に清涼飲料水や加工肉・加工食品などが流入して食文化が変化したことも一因だ。高崎は野菜を浸透させることによってこうした栄養課題にもアプローチする。
まず「いかに初期コスト、ランニングコストをかけずに栽培するか」と逆算して小規模栽培からスタート。ハウスの中に水耕栽培の設備を整え、海洋深層水の冷熱を使って栄養豊富な養液を冷却し育てる仕組みを構築した。常夏のパラオだが、海洋深層水の冷熱を使用することで20度ほどの水温を保ち、植物の根を冷やすことで日本の春と同じような環境をつくることができるという。収穫までの期間は約3週間で、現在安定的に生産できるのは4種類。ネギや青ジソといった日本食に使用される野菜にも挑戦している。
「週に一度のテスト販売では、日本の2倍ほどの単価で販売しているものの、女性を中心に人気があります。ホテルのレストランからの引き合いもありました。人口約1万8000人の国なので、少ない量数で品種や単価を変えていけば小規模のハウスでも回ります」
2027年3月には、30×15mのハウスも増設予定。さらに先には4〜5棟に増やして生産体制を整えていく想定だ。将来的には農園で採れた新鮮な野菜やフルーツをつかったジェラートやピザなどがテイクアウトできるようなアンテナショップの併設も構想している。
野菜を食べる食習慣からつくる
「最終的な目標は、パラオ人の健康に寄与する食生活の構築。そのために管理栄養士さんとレシピ開発を一緒に行って、学校給食と家庭と医療現場に野菜とレシピを提供するモデルをつくります。これをアプリなどで横展開していきたい」
スランゲル・ウィップス・ジュニア大統領がハウスの葉野菜を試食した際にも「苦い」という反応を見せたそうだが、野菜を食べる習慣のないパラオ人が日々の食卓に積極的に野菜を取り入れるまでには時間がかかる。だからこそレシピ開発から行って少しずつニーズを増やしていく計画だ。
「島嶼国は日本の農業が培ってきた技術が活かせる場所で、ビジネスチャンスがあります。AIやドローンを活用した大規模農業では欧米が強いけれど、日本は小規模農地や変形地で生産性を高めるノウハウを持っています。こうした技術をパラオ人に伝えて技術者を増やし、また水耕栽培用のビニールハウスも商品化して横展開していくことでより大きな産業に育てていきたい」
資源の限られた島嶼国において、海洋深層水という自然の恵みを多角的に活かす「パラオモデル」。日本の技術を活用してエネルギーや食料の自給という国家の根幹を支える革新的な取り組みは、パラオ、そして他島嶼国の未来を切り拓く大きな足がかりとなる。
※本取材はパラオ政府観光局の招待(渡航費・宿泊費の提供)により現地にて実施


