赤毛と「麻酔の効き目」の関係
人間の場合でも、一部の吸入式麻酔薬については、赤毛の人は通常より多い量を使わないと完全に麻酔が効いた状態にならないことが、2004年に米麻酔科学会の学術誌『Anesthesiology』に掲載された研究で示唆されている。同じく『Anesthesiology』に掲載された2005年の別の研究では、狭い領域の感覚をなくすタイプの局所麻酔が、赤毛の人に効きにくいことを発見している。
また、赤毛の人においては、歯医者に行くことに対する不安感が高い傾向があることも、科学的調査で確認されている。麻酔が完全に効かない状態で歯科治療を受けた経験が他の人より多いとするなら、こうした考えになるのも納得がいくだろう。
しかし、この遺伝子変異の及ぼす影響は、常に一定方向に働くわけではない。2005年に『Journal of Medical Genetics』に掲載された研究論文では、正常に機能しないMC1R遺伝子を持っている人のあいだで、モルヒネベースの鎮痛剤の効果が逆に通常よりも強く出ることが判明している。こうした遺伝子を持つ人が生まれつき持つ「痛みを抑える体内の仕組み」が、すでに通常と異なる設定になっているのなら、モルヒネを含むオピオイド系の物質に対して、より強い反応を見せるのも、納得がいく話だ。
ただし、ここで断言することは避けておきたい。というのも、すべての研究で一致した答えが出ているわけではないからだ。2024年に『Journal of Personalized Medicine』に掲載されたレビュー論文によると、研究によって結果は大きく異なるという。赤毛の女性が特定の種類の痛みに特に敏感だとする論文もあれば、両親から一つずつ、計2つの変異がある遺伝子を持つ人が、痛みへの耐性が高いとする論文もある。
麻酔に関する研究でも、その結果はまちまちだ。「赤毛の人では麻酔の効き方が違う」とした初期の論文では、調査対象となった集団は小さかった。一方、2015年に『Canadian Journal of Anesthesia』に掲載された研究では、これよりもかなり大きな集団を対象としている。こちらの研究では、「赤毛」と自己申告した人数百人を対象に、実際の外科手術の状況において、同じような手術を受けた赤毛でない人との比較を行なった。その結果、患者が必要とする麻酔の量には、髪の毛の色によって有意な差を見つけることはできなかった。


