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サイエンス

2026.10.24 17:00

「赤毛の人には麻酔が効きにくい」、その遺伝的理由

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生まれつき髪の毛が赤い人から、「麻酔が効きにくい体質だ」という話を聞くことがある。よくあるエピソードとしては、歯科治療の際に麻酔が効きにくく、歯医者に2本目の麻酔を打ってもらわなければならなかった、といったものがある。これを単なる偶然として退けるのはたやすい。だが、この2つの事象の関連性は、20年以上にわたって真剣に研究されてきた。これが事実である可能性を示す、生物学的に説得力のある理由も見つかっている。

この理由になっているのが、「MC1R(メラノコルチン1受容体)」と呼ばれる遺伝子だ。生まれつき髪の毛が赤い人のほぼ全員において、この遺伝子に変異が生じていて、本来あるべき反応を示さなくなっている。

世界全体で見ると、赤毛は人口のおよそ1~2%程度しか存在しない、まれな髪色だ。しかし、北欧や西欧の一部、特にスコットランドとアイルランドでは、その割合は全世界平均よりはるかに高く、およそ10人に1人とされる。

通常の「赤毛遺伝子」の働き

MC1Rについて最も知られているのは、色素を生成する細胞(メラニン細胞)に及ぼす作用だ。本来の機能を発揮している場合、メラニン細胞の表面に存在する受容体は、これらの細胞にユーメラニン(eumelanin:真性メラニン)を生成するよう指示する。これは、髪の色を茶や黒にする暗色の色素で、肌が小麦色になる「日焼け」にも関わっている。

この受容体が弱まったり、オフになったりすると、メラニン細胞は代わりに別の色素を生成する。フェオメラニン(pheomelanin:亜メラニン)と呼ばれるこの色素は、赤みがかった黄色で、髪の毛を赤くするのはこれによる働きだ。また、赤毛の人は肌の色が白く、日焼けすると小麦色にならずに真っ赤になりやすいことも、これで説明できる。

大半のケースでは、両親からこの変異を一つずつ受け継いだ場合にしか、赤毛は発現しない。これですべてであれば、MC1Rは外見を左右する遺伝子であり、それ以上でもそれ以下でもない、という話になっていただろう。しかしこの遺伝子が、人の体内に存在する、より大きなホルモン系と関連していることが、研究によってわかってきた。

「赤毛の色素」遺伝子と、痛みを伝達する仕組みの関係

MC1Rが反応するのは、プロオピオメラノコルチン(proopiomelanocortin:POMC)と呼ばれる共通前駆体をもとに、体が作り出すホルモンだ。POMCの分子が切断されると、より小さい複数のホルモンになる。そのうち一つは、メラニン細胞に対して指示を伝える役目を担っている。もう一つは、体が自ら作りだす「自然の鎮痛剤」ともいわれるβ-エンドルフィン(ベータ・エンドルフィン)だ。

こうしたホルモンの一部には、痛みを強く感じさせる作用があるが、β-エンドルフィンは痛みを和らげてくれる。通常の状態であれば、この2つの作用はバランスを保っている。一方、MC1Rが想定通りに作用しない場合は、このバランスが崩れることがある。そして、この変化が起きるのは、肌の色だけに限らない。

現時点で最も明確な状況が明らかになっているのは、動物を対象とした実験だ。2021年に『Science Advances』に掲載された論文では、人間の場合と同じ種類のMC1R変異を持つ赤毛のマウスを研究対象とし、これらのマウスが、より色の濃い毛を持つマウスよりも痛みに耐えやすい性質を持つことを示した。

しかしこの差は、赤毛の色素によって生まれるわけではない。これが変わる裏には、ホルモンシグナルの変化がある。これがどうやら、体が持つ鎮痛効果をさらに後押ししているようだ。

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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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