「その場に集中する」ことへの生物学的障害:「ただリラックスする」ことができない理由
業務上のプレッシャーに対処しながら1日8時間から10時間を過ごすと、生物学的な「アクセル」である交感神経系が体内にコルチゾールやアドレナリンを過剰に分泌させる。これは危機対応時には感覚を研ぎ澄ませてくれるものの、交感神経優位の状態が続くと、脳は脅威の存在する環境が去ったことを認識できなくなってしまう。
迷走神経を刺激するウェアラブルデバイス「Nurosym」(米国での商品名は「Nuropod」)を開発した英Parasymのパフォーマンス部門トップであり、トップパフォーマーのコンサルティングを担うヒューマン・パフォーマンス・エンジニアのジョー・ブラウン博士に取材したところ、彼女は次のように説明した。
「高性能な自動車に例えるなら、交感神経系はアクセルであり、副交感神経系はブレーキです」。さらに彼女はこう付け加えた。「ハイパフォーマンスとは、単にいかに速く加速できるかだけではありません。段差や予期せぬカーブに差し掛かった瞬間、ブレーキを踏む必要があります。真の集中(プレゼンス)とパフォーマンスは、必要に応じて神経系の両者の間を滑らかに移行できる能力、つまり『自律神経の柔軟性』にかかっているのです」
脳から伸びる第10脳神経である迷走神経は、副交感神経による回復のための体内における主要な高速道路として機能する。心理学・神経科学分野の研究者であるスティーブン・ポージェス博士の「ポリヴェーガル理論(多迷走神経理論)」によれば、迷走神経は私たちの「社会交流システム(ソーシャル・エンゲージメント・システム)」を司っている。これは、リラックスを感じて家族と深くつながり、長期的な戦略的ビジョンにアクセスするために必要な、生物学的に安全な状態のことだ。
仕事のアクセルを踏み続けたままでいると、前頭前皮質の機能が低下し、イライラしやすくなり、感情的に消耗し、仕事から離れてもギアを下げることができなくなってしまう。
自律神経を鍛えて切り替える
真のワークライフ・インテグレーション(仕事と生活の統合)とは、野心を小さくすることではない。カレンダーを管理するのと同じくらい意図的に、ギアを切り替えるよう身体を訓練することだ。「私たちは筋力や精神、スキルを鍛えますが、歴史的に見ても、それらすべてをコントロールするエンジンそのものである神経系を鍛えてはきませんでした」とブラウンは指摘する。


