人工知能(AI)はエネルギー問題の要因として語られることが多い。しかし、トレイン・テクノロジーズ(Trane Technologies)の最高デジタル責任者(CDO)、リアズ・ライハンは、AIがその解決策の一部にもなり得ると考えている。
2025年の売上高が213億ドル(約3兆3700億円)に達するグローバルな気候技術イノベーターであるトレイン・テクノロジーズは、トレイン(Trane)やサーモキング(Thermo King)などのブランドを通じて、暖房・換気・空調(HVAC)システム、ビル制御、輸送用冷凍冷蔵システムを提供している。同社は近年、自社をソフトウェア企業とも位置づけている。
ライハンは、顧客のエネルギーおよびアセットパフォーマンスの向上、コスト削減、排出量削減を支援するデジタル製品・サービスを統括している。そのポートフォリオには、エンタープライズ・アセット・マネジメント、テレマティクス、トレイン・クラウド(Trane Cloud)、そしてトレイン・テクノロジーズが2025年に買収したブレインボックスAI(BrainBox AI)が含まれる。
「当社は実際にこれを市場に投入している」とライハンは語る。「当社はHVACメーカーであると同時に、ソフトウェア企業でもある」
HVACの「自動操縦」を構築する
ライハンは、同社による接続機器データの活用を3つのレベルで説明する。第1のレベルは、故障を予知してメンテナンスを改善することだ。第2のレベルは、エネルギー消費を分析して将来の製品設計に生かすことである。
第3のレベルは「自律化」だ。ブレインボックスAIは、在室状況、湿度、機器のパフォーマンス、太陽の位置、空気質、天気予報に関する情報を統合する。機械学習モデルが状況の変化を予測し、快適性を損なうことなく、システムが細かな調整を行えるようにする。
「当社の取り組みは、HVACシステムの自動操縦(オートパイロット)だと考えてほしい」とライハンは説明する。航空機の自動操縦と同様に、ソフトウェアが絶えず微調整を行う。商用ビルにおいては、24時間体制で数百の制御項目と数千のパラメーターを調整することを意味する。トレイン・テクノロジーズによると、このアプローチによりHVACのエネルギー消費量を最大25%削減できるという。冷暖房はビルのエネルギー消費量の約半分を占めるため、この削減によって光熱費を抑え、電力網への負荷を軽減することができる。
3つの柱からなるAI戦略
トレイン・テクノロジーズは、AI戦略を「成長」「従業員体験」「ビジネス変革」の3つの柱で整理している。「成長のためのAI」には、ブレインボックスAIのような製品が含まれる。「従業員体験のためのAI」は、煩雑な作業を減らし、日常業務をサポートするエンタープライズツールを社員に提供するものだ。
第3の柱は、測定可能なリターンが見込めるプロセスに限定してAIを適用するものだ。貨物調達では、AIが市場を継続的に監視し、輸送能力をどのように、いつ購入すべきかの判断を支援できる。そのほかの活用機会としては、契約インテリジェンス、在庫最適化、需要計画などが挙げられる。
「AIの活用については、極めて的を絞りたい」とライハンは強調する。目的は、単にAIが利用可能だからという理由で導入するのではなく、適切なテクノロジーを深いドメイン知識と明確に定義されたビジネス成果に結びつけることだ。
ライハンは、2024年を「AIの陣取り合戦の年」、2025年を「再評価の時期」、2026年を「より深い思慮深さが求められる時期」と位置づけた。それは、真の価値を見極めると同時に、その価値を支えるデータとシステムを守ることを意味する。
責任あるAIは信頼から始まる
ネットワークに接続されたHVACシステムからは、ビルの稼働状況に関する詳細な情報が得られる。ライハンは、企業はそうしたデータを本来の目的にのみ使用し、ライフサイクル全体を通じて保護し、不要になった際には安全に破棄すべきだと主張する。
「AIプロバイダーとして、データが安全に収集され、安全に使用され、不要になった時点で破棄されることを担保する受託者としての責任が我々にはあると考えている」と同氏は述べた。
機器がビル管理システムに接続されるにつれ、サイバーセキュリティの重要性は高まる。シスコ(Cisco)のモノのインターネット(IoT)事業を率いた過去の経験を踏まえ、ライハンは攻撃者が最も脆弱なデバイスを経由して侵入することが多いと警告する。IoTデバイスが侵害されたことに誰も気づかないまま、長期間運用され続けることもあるのだ。
トレイン・テクノロジーズは、セキュリティ・バイ・デザイン(設計段階からの安全確保)による開発、デジタルチームとサイバーセキュリティチームの連携、そして適用される基準を満たすかそれを上回る管理体制を重視している。脅威と防御技術の双方が進化し続けるため、この取り組みに終わりはない。
ビルを柔軟な「エネルギー資産」に変える
トレイン・テクノロジーズは毎日50億件を超えるデータポイントを収集しており、ライハンはこの量が10年後までに1日あたり200億件を超える可能性があると見込んでいる。AIはパターンを特定し、不具合を検出し、そのデータの流れを意思決定へと変換することができる。
この可能性は個々のHVACシステムにとどまらない。ビルは電力網、太陽光発電、地熱システム、蓄電池、蓄熱システムから電力を供給されることが増えている。ソフトウェアは利用可能性、コスト、需要に基づいて、これらのリソースの中から最適なものを選択できる。
ライハンが思い描くのは、複数のビル群が連携したエネルギー資産として機能し、電力逼迫期に需要を削減して、よりレジリエント(強靭)な電力網を支える未来だ。「ビルをバッテリーとして捉えてほしい」と彼は提案する。
ライハンは明確な進展のプロセスを描いている。まず、AIがビルのエネルギー消費を削減する。次に、ソフトウェアが蓄電システムや自家発電を連携させてピーク需要を抑える。そして最終的には、ビル群がこれらのリソースを統合的に管理するようになるのだ。
「スマートでレジリエントなビルの構想は、世界が必要とするエネルギーの量と、世界が無駄にするエネルギーの削減に重大な影響を与え得る」とライハンは締めくくった。これこそが、トレイン・テクノロジーズのデジタル戦略の背後にある大きな可能性である。つまり、インテリジェンスを活用して機器をより効率的に運用するだけでなく、エネルギーシステムにおいてビルが果たす役割そのものを再定義することなのだ。
ピーター・ハイ(Peter High)は、ビジネスおよびITアドバイザリー企業であるメティス・ストラテジー(Metis Strategy)の社長。最新作『Getting to Nimble』を含むベストセラー3冊の著者でもある。ポッドキャストシリーズ「Technovation」のモデレーターを務めるほか、世界中のカンファレンスで講演を行っている。X(旧Twitter)のアカウントは@PeterAHigh。



