ビザとマスターカードが守りたいクロスボーダー決済の手数料収入
両社が守りたい収益源は、カードが発行された国とは別の国で利用された際に発生する国際取引手数料だ。ビザの2026年4~6月期の純売上高は116億ドル(約1兆8328億円)で、このうち38億5000万ドル(約6083億円)が国際取引収入だった。国際取引収入は前年同期比6%増だったが、サービス収入やデータ処理収入より伸び率は低い。国境を越えて数秒で決済できるステーブルコインは、この収益源と直接競合する。
ただし、競争相手となるステーブルコイン市場は、規模がまだ小さく、特定の銘柄に集中している。2026年10月5日時点の米ドル連動型ステーブルコインは174銘柄で、供給総額は約3088億5000万ドル(約48兆7983億円)だった。テザーが発行する「USDT」が59.6%、サークルの「USDC」が24.1%を占め、その他の銘柄のシェアは最大でも2.3%にとどまる。
ビザとマスターカードは、既存のカード事業を守るだけでなく、ステーブルコイン決済の基盤整備も進めている。ビザによると、2026会計年度第2四半期のステーブルコインによる決済額を年率換算すると、200億ドル(約3兆1600億円)に達した。前年同期の15倍超で、稼働中のステーブルコイン連携カードプログラムも160件を超える。
マスターカードは2026年8月3日、ステーブルコイン決済のインフラを提供するBVNKの買収を完了した。OUSDの提供開始後、企業はストライプに加え、BVNKやビザを通じても、発行・償還の手数料をかけずにOUSDと米ドルを交換できる。
カードを使わない決済でも、米ドルとOUSDを交換する接点を押さえる
ビザとマスターカードにとって重要なのは、企業が米ドルをOUSDに換え、OUSDを再び米ドルに戻す手続きに関与できることだ。資金をトークンに交換する接点を押さえれば、決済ネットワークは手数料の徴収や取引の確認、決済処理を担える。支払い自体にカードが使われなくなっても、資金移動の仕組みから排除されずに済む。
OUSDの共同所有は、特定の発行会社への依存を減らす
オープン・スタンダードの運営方式は、カード決済ネットワークの成り立ちに似ている。ビザは2008年のIPO(新規株式公開)まで銀行が共同所有する会員制組織で、マスターカードも2006年の上場前は同様の仕組みを採っていた。カードを顧客に提供する金融機関が、決済を処理するネットワークを所有していたのである。
オープン・スタンダードも、OUSDの普及に貢献する企業へ株式を配分する。参加企業はすでに200社を超え、UBSやSBIホールディングス、フィンテック企業Jeevesなどが名を連ねる。
ビザとマスターカードには、顧客の希望するステーブルコインを区別なく決済に使うという選択肢もある。実際、両社とコインベースの経営幹部は、USDCを含む複数銘柄の支援を続ける方針を示している。OUSDへの出資は、銘柄を問わず決済手数料を得る事業を維持しながら、特定のステーブルコインが成長した場合の株式価値や収益も取り込むための追加策だ。
200社超の企業が参加し、サークルやテザーへの依存を避ける
オープン・スタンダードが2026年6月30日にOUSDの計画を発表した時点で、アメリカン・エキスプレス、ディスカバー、アディエン、ファイサーブ、クラーナ、アファームなどの決済関連企業が参加を表明していた。ブラックロック、BNY、スタンダードチャータードといった金融機関も加わっている。
主要カードブランドが同じステーブルコインに参加しても、特定のネットワークだけが競争上の優位を得るわけではない。むしろ各社に共通する利益は、将来、加盟店が受け取りを希望するかもしれないステーブルコインの利用条件を、サークルやテザーといった単独の発行会社に決められずに済むことだ。
OUSDの普及予測は強気である。Tempoの最高事業責任者ダン・ロメロは、Tempo上で流通するOUSDが数カ月以内に約10億ドル(約1580億円)に達するとコインデスクに語った。2027年中には100億ドル(約1兆5800億円)超、数年後には1000億ドル(約15兆8000億円)超に拡大する可能性もあるという。ただし、ロメロはOUSDの普及に利害関係を持つ立場であり、OUSD自体の流通供給量はまだ公表されていない。ブリッジが発行総額を10億ドル(約1580億円)超と公表しているのは、OUSDだけではなく、同社が手がける数十種類のステーブルコインの合計だ。
出資に伴うリスクも、カード決済大手にとっては比較的小さい。株式の取得額は明らかにされておらず、10億ドル(約1580億円)超の流動性供給は5社で分担する。USDCの競合を支援することによる評判面の代償も、OUSDの計画が発表され、サークル株が下落した6月の時点で生じている。OUSDが拡大すれば、ショッピファイ、ドアダッシュ、ストライプなどの流通パートナーが関わるコインから、準備資産収益の分配を受けられる。


